第12話 わからないのは知らないから

文字数 1,868文字

オシャレを楽しむ、か
 今までの晴朗太にはない感覚であった。
 あくまでマシなレベルになりたいだけで、そこに楽しさなど求めていなかった。
 
 だが、妹のおかげで少しずつわかるようになってきた。
 自分の顔なんて毎日見ていたはずなのに、改めて向き合うと、今までとは違ってモノが見えてくる。
(何をしてもブサイク無駄じゃない。少なくとも、どこが駄目なのかがわかるようになってきたぞ)
 その結果、さっぱりだったオシャレ動画も楽しめるようになり、晴朗太は完全なる受け身ではなくなった。
……なるほどね

 アイメイクにノーズシャドウ。

 意味がわからなかった部分メイクの効果。陰影や対比効果による目の錯覚。

やっぱ、カラコンとアイプチは凄いな
 黒目を大きく見せ、二重にするだけで印象は変わる。
いや、一重でも涙袋があればいけるか
 そして、それすらもアイメイクで作れるという恐ろしさ。
けど……そこまでするとバレるよな

 晴朗太が目指すのはバレないオシャレ。

 目に見える変化に憧れはするものの、そう簡単に跳び込めはしない。


ココも言ってたもんな。

エスカレートして、物足りなくなってくるって……

 実際、眉毛の描き方を調べていたはずなのに、気づけば他の項目にも目を通していた。
 どれだけ格好良くなれるのか、興味が持てるようになっていた。


(それもこれも、女装メイクのビフォアアフターを観てしまった所為だ)
 中年のオッサンがあんなに可愛くなれるのであれば――化粧の力に期待せずにはいられない。

 ただ妹曰く、舞台用のメイクがあるように写真ようのメイクもあるので真似をするのは止めたほうがいいとのこと。

やっぱ、BBクリームと眉を描くだけが無難か。

けど、眉に使うブロウでノーズシャドウもできるから……試してみるか

 彫りを深くし、鼻筋を整え、鼻頭を小さく見せる。

 個人的に、是非ともやってみたいメイクであった。

……これくらいなら、バレないよな?
 そんな風に、晴朗太は自分で選択できるようになっていた。
おーい、ココー

 もっとも、細かい点は妹に頼る。
 こればかりは器用さとセンスの問題だろう。晴朗太は動画を観ただけで上手くできるタイプではなかった。


もっと自眉を生かしたほうがいいよ。

コンシーラーで剃り跡を隠すのも面倒でしょ?

 兄の成長を知ってか、妹も以前よりはだいぶ優しくなっていた。
抜くのは止めたほうがいいのか?

眉の形って流行りがあるから

そういえばそうだな

(麻呂とか平行とか変な流行があったな)

それに肌荒れも起こしちゃうし剃ったほうがいいよ――ってか、サロンで整えて貰ったほうが早いかな

サロン?

眉毛サロン。

抵抗あるなら、そういうサービスがある美容院でもいいけど

……了解

(さすがにサロンは抵抗あるから美容院だな)

ただ、眉を整えると劇的に印象が変わるから。

あまりに決まり過ぎると、そこからメイクがバレやすくなるんだよね


そうなのか?

うん、眉だけで雰囲気は変わるもん。

いかにも描いてますって眉はわかりやすいし、男性で奇麗な眉毛だと特にね

了解、気を付ける

(やっぱ店でやって貰おう)

ちなみに、髪型ってどうすればいい?

んー……。

一応顔と頭の形で似合う似合わないはあるけど、自分のしたい髪型でいんじゃない?

そんなんでいいのか?
だって、兄ちゃんなら奇抜な髪型は選ばないでしょう?
それはそうだが
あとは美容師にお任せするか、自分が格好いいと思う髪型の芸能人を見つけるか

ただ、セットが簡単じゃないと再現できないかんね。

兄ちゃんってヘアアイロンとか使えないでしょ?

そうだな……

(動画で観た限り、無理だなあんな複雑なのは)

 ドライヤーだけでも面倒なのに、温度設定があるアイロンなんて無理に決まっている。

 その後の様々な整髪剤を考慮すると、楽に決まるほうが良い。

結局、何事も経験だよ。

お化粧だって、だいぶ上手になったでしょ?

 晴朗太が悩んでいると、恋々子が背中を押してくれた。

わからないのはよく知らないから。

先輩が言っていたんだけど、自分から遠いモノほど人は判断できず同じように見えちゃうんだってさ

若い子から見れば年寄りが、年寄りから見れば若い子が――

日本人から見れば欧米人が、欧米人から見ればアジア人が区別できないみたいにね

(わからないのは知らないから――確かに、その通りだな)

 事実、晴朗太には最近のアイドルグループが同じ顔に見える。
 一方、恋々子にはアニメのキャラクターやロボットの区別がつかない。
 

 それは興味がない上によく知らないから――

とりあえず、ヘアカタログでも見て決めるよ

そゆこと。

兄ちゃんも成長してきたね

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登場人物紹介

晴朗太《せいろうた》、染谷家長男で大学1年生。

ブライダルのバイトに勤しむ、真面目で優しい性格。

ただその一方で甘くもあり、妹の我儘を助長させる要因を作っている。

苦肉の策で妹に頭を下げ、現在はオシャレを勉強中。

恋々子(こここ)、染谷家長女で高校2年生。

私立高校を一芸入試で突破し、部活動はディベート部。

我儘で自由気ままであるものの、弟のことは溺愛している。

それでも、一番大好きなのは自分自身の模様。

純朗《すみあき》、染谷家次男で中学2年生。

思春期の少年の割には素直で大人しい。

姉の教えのおかげで、年齢にそぐわないオシャレを身に付けている。


空条 日菜子(くうじょうひなこ)、20歳

晴朗太の想い人で同じバイト先の先輩

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