第3話 音楽のサラダ?(カルセレスのエンサラーダ「ラ・トルーリャ」)

文字数 2,080文字

バルトメウ・カルセレスは、16世紀のスペインの作曲家です。

バレンシア・アラゴン連合王国の宮廷で活躍したと言われています。

バルトメウ・カルセレス(Bartomeu Càrceres) 

16世紀のスペインの作曲家で、特に「エンサラーダ」が有名。

1546年に、カラブリア公フェルナンド・デ・アラゴンの礼拝堂で支払われた給金72ドゥカートが、彼について残っている唯一の伝記的記録である。

カルセレスの『エンサラーダ「ラ・トルーリャ」』は、すごく面白い歌曲です!

「エンサラーダ」ってなんですか?
スペイン語でEnsalada(エンサラーダ)とは、野菜などで作ったサラダのこと。
え、ほんとに?
冗談ではなく、本当です。

Ensalada

1 サラダ

用例:ensalada mixta ミックス野菜サラダ(レタス・タマネギ・トマトのサラダ)


2 ごちゃまぜ,混交,混在

用例:armar una ensalada ごちゃごちゃにする

(小学館 西和中辞典 第2版より)

音楽用語では、さまざまな言語や方言で歌われる歌曲やナンセンスなクオドリベットなどをミックスした、ポリフォニー音楽のジャンルを指します。
エンサラーダとは音楽のサラダなんですね!
ルネサンス期、特に16世紀のイベリア半島で非常に人気があり、宮廷の娯楽として喜ばれたそうです。
どんな特徴があるんですか?

作曲家は、当時の人々によく知られていたメロディー(マドリガーレやロマンス、クリスマス・キャロル、典礼聖歌など)を自由に組み合わせて、オリジナルの作品を作り出しました。

既存の曲をミックスして新しい曲を作るのって、現代のクラブDJに似ていますね!

たしかに役割が似ているわね!

歌われる言語は、スペイン語、カタロニア語、ガスコン語、ビスカヤ方言、ポルトガル語、イタリア語、ラテン語などなど。
タイトルの「ラ・トルーリャ」というのは、どんな意味ですか?
"La trulla"とは「騒ぎ」という意味です。

それではさっそく聴いてみましょう!

TAU GARÇÓ LA DURUNDENA(Ensalada "La Trulla"より)

演奏:La Capella Reial de Catalunya

指揮:Jordi Savall

いま聴いてもらったのは、ちょうど中間部の"Tau garçó la durundena"という歌。

作品全体を通して聴くと、テンポにもよりますが概ね30分弱あり、緩-急-緩の構成です。

なんだかわくわくする、踊りだしたくなるような楽しい曲ですね!
実はこれ、イエス・キリスト降誕の喜びを歌った伝統的なクリスマス・キャロルなのです。

『モンセラートの朱い本』のダンスナンバー、"Cuncti simus concanentes"を彷彿とさせますね。

歌って踊って大騒ぎで、クリスマスをお祝いしたのかな……?

同じ楽曲を別の歌い手さんで聴いてみましょう!

演奏:Regina Kabis(歌)、Freiburg Spielleyt(アンサンブル)

アルバム:Medieval Music - Alfonso X / Carceres, B./ Wolkenstein, O. Von

こちらの演奏だと、中世ヨーロッパにタイムスリップした気分を味わえますね!
古楽というのは、演奏家の個性や曲解釈の違いが、かなりはっきり出るものです。
楽器編成もテンポも全く違ったりするので、同じ曲をいろいろ聴き比べるのも楽しいですね。
エンサラーダ「ラ・トルーリャ」の話に戻ると、カルセレスはさまざまな国籍の七名の歌い手がそれぞれの言語で、イエス・キリストと聖母マリアに向けて歌うように、構成しています。
これって、スペイン語で歌ってるんですか?

挿入歌"Tau garçó la durundena"の歌詞は、カタロニア語とカスティーリャ語です。

その歌詞の上にガスコン語の声やガスコン訛りのカタロニア語(カタロニア語の単語にガスコン語の接尾辞をわざとつけた誤った単語)を混ぜ合わせて、エキゾチックな演出を加えているのです。

カルセレスは伝統的なメロディーを驚異のアレンジ力で前衛的な作品に仕上げているんですね!!

最後に、作品全体を通して聴いてみましょう。

Ensalada "LA TRULLA"

演奏:La Capella Reial de Catalunya

指揮:Jordi Savall

アルバム:Bartomeu Carceres: Villancicos & Ensaladas

ジョルディ・サヴァール(1941年生まれ)は、カタルーニャ地方イグアラダ出身のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者。

妻であるソプラノ歌手モンセラート・フィゲーラスと共に「ラ・カペッラ・レイアル・ デ・カタルーニャ」を1987年に設立し、半世紀にわたって世界中の古楽ファンから愛されてきた。

カタルーニャ地方、地中海地方の古い民謡を積極的に発掘し、吟遊詩人たちが現代によみがえったかのような、生き生きとした歌いぶりが魅力ですね。
初出:2012/3/11

2023/4/9 チャット版にリライトしました。


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