塩の姫君②(ユダヤ民話)
文字数 4,310文字
【あらすじ】
ある国に三人の美しい姫君がいた。あるとき、王は、父親である自分に対して娘たちがどのくらい愛情をいだいているか、たずねた。
上の姫君は「この世界すべての大きさと同じくらいに」と答え、中の姫君は「大好きなお砂糖と同じくらいに」と答え、末の姫君は「大事な塩と同じくらい、大切に思っております」と答えた。
王は末の姫君の答えに腹を立て、王宮から追放するように命じた。王妃は秘密の蔵を開け、末の姫君に金や銀や宝石類、食糧を布にくるんでわたした。そして大臣は、末の姫君を満月の夜に野原に置き去りにしたのだった。
野原を歩いていた姫君は、ナツメヤシの木の根もとで寝ころんでいる若い男と出会う。男はがっしりした体つきで、美しい顔立ちをしていた。
「ここでなにをしているのですか」とたずねると、若者は「働くのが嫌いだ」と答えた。姫君は「いっしょにまいりましょう」と言って、若者の手をひき、歩き出した。
歩きつづけるうち、美しい丘を見つけ、姫君はあの丘に家を建てて、若者と住むことに決めた。
姫君は、その丘を所有している族長のもとを訪ね、丘と畑地を買った。それから大工たちを雇い、王宮に似た小さな館を建てるよう頼んだ。
館の工事中、姫君と若者は丘のふもとにテントを張って暮らした。
姫君は騎兵を招いて、若者に乗馬を教えてやってくれと頼んだ。
そうこうしているうちに、朝から日暮れまでごろごろ寝そべって過ごしていた若者のなまけぐせは、少しずつだが直っていった。
館ができあがると、姫君は職人に絨毯や家具、カーテンを注文し、庭園をととのえた。
姫君と若者は婚礼の祝宴をひらいて結婚し、しあわせな日々をすごした。
乗馬をおぼえた若者は、毎日のように狩りに出かけた。
あるとき若者は、狩り場で高貴な人とその従者たちと出会い、友情でむすばれていった。その話を聞いた姫君は、夫が親しくなったのは父王だとわかった。
姫君は夫にその友人を招くよう頼み、王は招待を受けて、若者の館を訪れた。
姫君は、父王の好きな料理を作り、どれもふた皿ずつ用意した。テーブルもふたつ。ひとつには塩味のきいた料理をの皿をならべ、もうひとつには塩抜きの料理の皿をならべた。
すべての準備をととのえると、姫君はついたてのうしろで待った。
塩味のまったくない料理を口にして、王の目から涙がこぼれ落ちた。王は、自分が末娘に対してどんな愚かな仕打ちをしたかを語った。
若者は、王の言う末娘とは自分の妻のことだと直感して、ついたてを払いのけた。
王は末娘の姿を目にすると、駆け寄って抱きしめ、悲しみの涙は喜びの涙に変わった。
今度は全員で、ほどよい塩味の料理がならんだテーブルを囲んだのだった。
王は末の姫君と花婿を王宮につれて帰り、みな豊かにしあわせに暮らしたのだった。
参考:『お静かに、父が昼寝しております―ユダヤの民話』(母袋夏生訳、岩波文庫)
(創世記19章24-26節)
(民数記18章19節)
(マタイによる福音書5章13節)
2024/5/17
参考・引用:
『お静かに、父が昼寝しております―ユダヤの民話』(母袋夏生訳、岩波文庫)
『旧約聖書』『新約聖書』新共同訳