塩の姫君①(グリム童話)
文字数 4,001文字
【あらすじ】
ある日、伯爵の息子である若者が森の中でおばあさんに出会い、重い荷物を運ぶのを手伝う。なぜか背負った荷物がだんだん重くなっていき、おばあさんも背中にのってくる。
若者はがまんして歩き通し、おばあさんの家までたどり着くと、そこには年かさのみにくい女がいて、ガチョウの群れの番をしていた。
おばあさんはお礼として、若者にエメラルドの小箱を贈った。
若者はお城に行って、王妃さまにエメラルドの小箱を献上すると、王妃さまはある話を始める。
国王夫妻には三人の娘がおり、末の娘は真珠の涙をこぼす美しい娘だった。
あるとき、王さまが自分のことをどれだけ愛しているか娘たちにたずねると、上の娘は「いちばん甘いお砂糖のように愛している」と答え、次の娘は「いちばんきれいな服のように愛している」と答え、末の娘は「塩のように愛している」と答えた。
王さまは末の娘の答えに腹を立て、塩の袋を背負わせて末の娘を森に追放してしまった。
あとから王さまは自分がしたことを後悔し、娘を探させたが見つけることができなかった。
王妃さまはエメラルドの小箱に娘の目から流れ落ちたのと同じ真珠が入っていることに気づいたのである。
そのころ、おばあさんはガチョウ番の女に「もう一緒にいるわけにはいかない」と言って、三年前に家に来た時と同じ格好に戻るよう指示していた。
若者の案内で国王夫妻がおばあさんの家をたずねると、おばあさんは「あなたたちを待っていた」と言い、三人を招き入れる。
みにくいガチョウ番の女は、顔にかぶっていた姥皮をぬぐと、とても美しい娘だった。末の娘と両親は泣きながら再会を喜びあった。
おばあさんは末の娘に、三年間で流した真珠をすべてあたえ、「この家をあげる」と言い、そのまま消えてしまった。
荒野の小さな家はとたんに宮殿へと変わり、末の娘は若者と結婚し、そこで暮らした。
おばあさんに飼われていたガチョウは、人間の姿を取り戻し、宮殿の女中となったのだった。
参考:『完訳 グリム童話集 5』(金田鬼一訳、岩波文庫)
ばあさまは、むすめのこれからさきのことは、当人には、なんにも言うつもりはなく、
「かあさんがここにいるのは、もうこれぎりなのよ」とだけ言いました。
(『完訳 グリム童話集 5』金田鬼一訳より)
姫は、おばあさんのことを「親切だけど真珠の価値が分からない無知な女」だとみなしていたのでは?
そう考えた上で、下手に真珠を売りに行くよりも、おばあさんの家で暮らす方が、自分の身の安全のために得策だと考えていたのかもしれないな。
(『完訳 グリム童話集 5』金田鬼一訳より)
さんごや水晶は言うに及ばず、真珠よりも知恵は得がたい。
(ヨブ記28章18節)
(マタイによる福音書7章6節)
天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を探している。高価な真珠を一つ見つけると、出かけて行って持ち物をすっかり売り払い、それを買う。
(マタイによる福音書13章45-46節)
大男が川の渡し守をしていた。ある夜、小さな男の子を渡すことになり、男の子を背負って川を渡るうち、男の子は異様な重さになっていった。男の子に名前をたずねると、イエス・キリストであると明かした。全世界の人々の罪を背負っているために、イエスは重かったのである。川を渡りきった大男は、「キリストを背負う者」を意味するクリストフォルスと名乗ることをゆるされた。
参考・引用:『完訳 グリム童話集 5』(金田鬼一訳、岩波文庫)
『旧約聖書』『新約聖書』新共同訳