第7話 キリスト教とキリスト教系新宗教はどう違うの?(サンクチュアリ教会②)
文字数 4,809文字
2008年、七男のショーンがサン・ミョン・ムーンの後継者となった。
ムーン夫妻は、ショーン夫妻に力を継承する儀式を行った。
この力の継承があったからこそ、ショーンは自らを「正当な後継者」であると主張する。
2012年、サン・ミョン・ムーンは死去する。
番組の中でショーンの異母兄であるサミュエル・パクが、現在の統一教会は三派に分裂していると説明した。
未亡人であるハク・チャハンが中核組織を統率し、ムーンの三男プレストン(Preston Moon)が教団の巨額な資金を手中に収め、ショーンがサンクチュアリ教会を設立した。
2018年、ショーンはAR-15ライフルを掲げ、銃弾の王冠をかぶって「この鉄の杖こそ我々の力である」と演説した。
そして統一教会のロゴに銃を重ねた新しいロゴを発表した。
ショーンは、ヨハネの黙示録12章5節に記された「鉄の杖」を銃に結びつけて、自分たちを脅かす世界への対抗手段だとうたっている。
ショーンは、ヨハネの黙示録20章に記される天から降り注ぐ火について、「火とは銃器であり力なのだ」と主張する。
父サン・ミョン・ムーンの死後、ショーンは短期間で完全武装を説く人間に変わった。
番組の中で、元統一教会の会員であるテディ・ホースは、「鉄の杖」が黙示録から引用した表現だと知った時、脅威を感じたと語る。
なぜなら、チャールズ・マンソンやデビッド・コレシュも同様に黙示録を引用し、世界に抗うため大量の銃を所有していたからである。
ショーンは演説で「我々の敵は最も危険な世界のマフィア集団、それが政府だ」と語っている。
チャールズ・マンソンはカルト教団「マンソン・ファミリー」を率いて、1969年に9件の連続殺人を行った。
デビッド・コレシュは、1993年のウェーコ包囲事件で知られるカルト教団「ブランチ・ダビディアン」の指導者である。
ブランチ・ダビディアンは、ダビデ派セブンスデー・アドベンチスト教会の終末論的分派だった。
コレシュは自らを「最後の預言者」、「神の子」、「キリストの再臨」だと主張していた。
黙示録と七つの封印についてのコレシュの非正統的な解釈は、多くの信奉者を惹きつけた。
違法な武器備蓄の容疑でアメリカ連邦政府、テキサス州警察、アメリカ軍が51日間にわたって教団本部を包囲したウェイコ包囲事件では、激しい銃撃戦と火災によって、25人の子供と2人の妊婦を含む76人のブランチ・ダビディアン信者が死亡した。
「平和」をうたっているのに、どうして武器を取って戦うことを教えているのか?
ショーンの同母兄である、ムーンの四男ジャスティン(Justin Moon)は、大手の銃器製造企業カーアームズ(Kahr Firearms)を経営している。
カーアームズの所在地がペンシルベニアのサンクチュアリ教会の近くに位置する。
ジャスティンが、サンクチュアリ教会の活動を実質的に支えている。
社会学者でカルト専門家のステファン・ケント博士によれば、
ショーンは「家族を守る力」が必要だと説いており、力の可視的な象徴が武器を所持することだ。
もし武器を取って身を守るという信念のもと、サンクチュアリ教会の会員たちが武装蜂起すれば、非常に危険である。
集団自殺もありえる、とサミュエル・パクは危惧する。
番組の中でサンクチュアリ教会の元会員は次のように証言した。
「自分と家族はもともと統一教会の会員だった。
教団の分裂時に誰に従うか問われ、ショーンに従うことを決めた。
両親がAR-15ライフルを抱えてまで、彼の教えに従うとは思わなかった。
両親は今でも指導者を崇拝している。
ショーンは両親に、いずれ経済の崩壊が訪れる。食料を蓄え、ドアを施錠しろ。外界から守るためだ、と語っている」
2018年、反LGBTQを掲げるサンクチュアリ教会は、南部貧困法律センターのヘイト監視リストに加えられた。
LGBTQ支援団体は、サンクチュアリ教会に「異端のグループ」と認識され、「サタンに加担し神を蔑視している」とレッテルを貼られた。
ステファン・ケント博士によれば、
ひとつの組織が他方を「悪者」と定めると、相手の人間性を軽視する。
つまり、ヘイトアクション(攻撃)をしやすくなるのだ。
ジャーナリストであるエリザベス・バーガスの「サンクチュアリ教会が脅威を及ぼす組織と言われる根拠は?」という質問に対して、ケント博士は次のように答えた。
サンクチュアリ教会が脅威なのは、民兵組織のような行動に固執しているからである。
サンクチュアリ教会の「平和警察・平和軍」と呼ばれる宣伝動画を見ると、若者たちに戦闘訓練をしていることが分かる。
彼らは軍用ナイフを使って喉を突き、足のじん帯を切る殺人術を実演していた。
そのような武器の使い方を子供のうちから教え込むことこそが脅威である、とケント博士は語った。
2018年2月28日、サンクチュアリ教会は合同結婚式を開催した。
銃弾の冠をかぶった数百人の会員がAR-15ライフルを握りしめ、結婚の誓いを交わした。
この日、地元の小学校は、安全のために授業を取りやめ、子供たちを別の学校へ避難させた。
元統一教会の会員であるテディ・ホースによれば、
AR-15ライフルを装備した合同結婚式は、信者の原罪を浄化する儀式である。
この儀式を受けることで、精神を新たな段階へ高め、神聖な存在となる、と会員は信じる。
サンクチュアリ教会はキリストを語るがキリスト教の組織ではない、とテディは語る。
『ワシントン・ポスト』2018年5月21日付の特集記事に対して、ショーンを「銃と王冠を携えて世界を変える革命家」かのように美化し、読者に誤解を与えるものだった、とテディは失望する。
「世界は邪悪で罪を浄化しろ」などとくり返すショーンの言葉に注目してはいけない。
わたしたちは抗議の声を上げ続けるべきだ、と番組の最後でテディは語った。
同年、サンクチュアリ教会はテネシー州グレインジャーに130エーカーの土地を購入し、着実に勢力を広げている。
2021年10月、ペンシルベニア州グリーリーでサンクチュアリ教会は「ロッド・オブ・アイアン・フリーダム・フェスティバル」を開催した。
フェスティバルの講演者として、トランプ前大統領の元側近スティーブ・バノンや極右グループ「愛国の祈り」(Patriot Prayer)の指導者ジョーイ・ギブソン(Joey Gibson)などが招かれた。
聖書では、テモテへの手紙Ⅰ(6章)と黙示録(17章、19章)でイエス・キリストを指して使われている。
だから、統一教会とサンクチュアリ教会は聖書を語るけど、イエスを信じているのではなくて、ムーンを信じているのだから、キリスト教ではないと思う。
イエス・キリストによる贖罪を信じていないから、合同結婚式で「原罪を浄化しなければいけない」という発想が生まれるんだろうね。
米国キリスト教会協議会は、プロテスタント、正教会、アフリカ系アメリカ人教会、福音派など38の教派が加盟している。