第11話 FF7でわかるエコテロリスト②(モンキーレンチ・ギャングたち)
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非暴力主義のルールを大きく曲げる行動によって「グリーンピース」を追放されたポール・ワトソンが、1977年に創設したグループが「Sea Shepherd」(シーシェパード、海の警察犬)です。
「シーシェパード」と言えば、日本の捕鯨船を直接攻撃するグループとして、記憶されているかたも多いのではないかと思います。
「シーシェパード」は「より大きな法に適うのなら、現実の法律に反してもかまわない」という立場で、海洋野生生物保護を目的として、捕鯨船を攻撃し撃沈するという戦術をとっています。
日本の捕鯨船に対してだけでなく、マカ族など先住民のアザラシ狩りや「生存捕鯨」に対しても暴力的な抗議を行っているのです。
「グリーンピース」は、「シーシェパード」が「漁民や捕鯨船の船員の生命を脅かすテロ組織」であると公に批判しています。
「反捕鯨勢力は危険な海賊的テロリスト」というイメージを日本人に植えつけたことで、捕鯨に対する日本国内の支持が集まり、捕鯨を継続する決意をむしろ強化させた、と言われています。
なるほど、まさに『北風と太陽』と言いますか、「シーシェパード」の攻撃的戦術は、先住民や日本人の反発を招いただけで、逆効果だったというわけですね。
「シーシェパード」と同じく急進的なエコテロ組織と言えば、デイヴ・フォアマンが1980年に設立した「Earth First!」(アース・ファースト)が最も有名でしょう。
原生自然保護を目的として、森林伐採やダム建設を阻止するための道路封鎖や土地の不法占拠、伐採される木の根元で座り込みなどを行っています。
1990年、アリゾナの揚水発電所の送電線を破壊する作戦の後、組織に潜入していたFBI捜査官によって5人のメンバーが逮捕され、破壊工作には直接加わっていなかったデイヴ・フォアマン自身も逮捕されました。
アース・ファーストのロゴマークは、モンキーレンチですね。
なぜモンキーレンチなのかと言うと、1975年に刊行されたエドワード・アビーの「The Monkey Wrench Gang」(モンキー・レンチ・ギャング)という小説の影響があります。
この小説は、英語で「モンキーレンチ」という言葉が、自然を守るための破壊工作活動や法律違反行為などを意味するようになったほど、後世に影響を与えた作品なのです。
「モンキーレンチ」は伝統的に労働争議における産業破壊行為の象徴でしたが、エドワード・アビーは新しい意味を与えたと言えます。
森林伐採を阻止したいと思ったとき、穏健な抗議方法としては、公開集会(デモ行進)や、議員・議会に対する働きかけ(陳情・誓願署名)、開発許可の差し止めを訴える裁判などがありますよね。
伐採現場に直接行って、木の根元に座り込み、自分の命をかけて伐採を思いとどまらせようとする行為は、非暴力主義の抗議方法と言えます。
その座り込み活動で命を落とす危険があるのは、抗議者自身ですからね。
実際、1998年には北カリフォルニアの森で伐採を阻止するため、伐採現場に立ち入った「アース・ファースト」の活動家が、命を落とす事件も起こっています。
通常であれば、伐採の中断につながるはずの抗議活動でしたが、伐採者はかまわず樹齢300年以上の大きな木を切り倒し、木の下敷きとなった活動家は即死したそうです。
一方、夜中に伐採現場に忍び込んで、伐採のための重機や木材運搬のための車両を破壊したり、伐採者を殴ったり、木材加工工場の爆破を企てたりしたら、明らかに犯罪ですよね。
暴力的な抗議方法を用いるモンキーレンチ・ギャングたち、すなわちエコテロリストは、どんな言い訳をしたって犯罪者であることには変わりません。
1990年代以降、「アース・ファースト」はアナーキストの政治哲学の影響が強くなり、「Earth Liberation Front」(アース・リベレーション・フロント)という分派が創設されます。
デイヴ・フォアマンは妻ナンシーとともに1990年にグループを脱退し、「アース・ファースト」は分裂しました。
脱退後にフォアマンは、若い環境活動家たちの「左翼的で社会正義を重視するアプローチ」を批判し、残ったメンバーたちは「悔い改めない右翼の悪党」とフォアマンを罵ったのでした。
FF7の作中では「アヴァランチ」のメンバーたちが、ミッドガルの上層市民を「無自覚な加害者」とみなし、人々の安全を脅かす破壊活動を正当化する主張をしています。
「アース・ファースト」は送電線破壊作戦を企てましたが、電力会社に損害を与えるだけでなく、突然、電力の供給を受けられなくなったら、多くの人々が被害を被りますよね。
送電線破壊作戦の背景には、日頃から電力の恩恵を受けている「無自覚な加害者」をこらしめてやろう、という意図があるように思えます。
「アヴァランチ」の爆弾テロ事件の実行犯であるメンバーが、事件に加わらなかったメンバーについて「思想が揺れている」とか「爆弾闘争にも乗り気じゃない」と言う場面もあります。
残念ながら、革命派グループの内部で「反革命」とレッテルを貼ったメンバーを攻撃したり、殺害まで至る事件は、現実の日本国内で何度も起きています。
これからFF7リメイクをプレイする子どもたちがいるかもしれないので、ネタバレしないように、少しだけ先のストーリーをお話しますね。
神羅カンパニーは、魔晄炉爆破事件に対する報復攻撃を行い、「アヴァランチ」のメンバーとスラムの住民たちを殺害します。
爆弾テロ事件の実行犯の一人だったメンバーが命を落とす場面で、「わたしの爆弾、大勢殺したからね。償わなくちゃ」と言って、自分の死を受け入れる台詞がとても印象に残りました。
(上の動画44:10あたりから)
大江健三郎は、1988年に刊行された『キルプの軍団』の中で、革命派グループで指導的立場だった登場人物の内省の言葉として、このように書いています。
(大江健三郎『キルプの軍団』講談社より)
「アヴァランチ」のメンバーが死の間際に語った台詞は、この大江健三郎の考え方をシンプルに言っているように感じました。
こうして改めて見ると、FF7はとても子ども向けとは思えないストーリーでしたね。
発売当時、小中学生たちがこぞってプレイしていたのが不思議なくらいです。
FF7の「アヴァランチ」というエコテロ組織の性格は、現実の「アースファースト」などのグループをモデルにするとともに、テルアビブ空港乱射事件などの数々の凶悪犯罪を起こした日本赤軍をイメージしていたのではないか、と思います。
日本赤軍は1974年にシンガポールでシェル石油の製油所を爆破する事件を起こしているので、火力発電所や原子力発電を標的とする爆弾テロ事件が起こるかもしれない、という発想は自然ですよね。
1997年と言うと、まだ9・11同時多発テロ事件は起こっていなくて、地下鉄サリン事件はすでに起こってしまっている世界です。
FF7の主人公クラウドは神羅カンパニーの元私兵で、若いのに戦争後遺症のようなフラッシュバックに悩まされていて、不憫でならないです。
神羅カンパニーは電力会社なのですが、なぜか私設軍隊を保有しているんですよ。
大人になってから見ると、神羅カンパニーはロックフェラー財閥をイメージしているのかなと思います。
石油企業のスタンダードオイル社から始まったロックフェラー家は、19世紀から20世紀にかけて、金融や軍事産業などさまざまな企業を傘下に収め、市場を独占していきました。
世界最初で最大の多国籍企業となったスタンダードオイル社はその後、反トラスト法によって解体されましたが、石油メジャーのエクソンモービル社は直系の子孫と言われていますね。
2016年にロックフェラー・ファミリー・ファンドは化石燃料関連事業への投資を中止し、保有するエクソンモービル社の株式を売却すると発表し、世界を驚かせました。
化石燃料や武器、タバコなど、環境や社会、健康に害を及ぼす企業から投資資金を引き揚げることは、SDGsの目標達成に貢献する取り組みですよね。
こうした投資撤退の動きは「ダイベストメント」と呼ばれていて、世界で広がりつつあります。
一番最初の話題に戻って、「Just Stop Oil」は反石油を掲げるグループでしたね。
名画にトマトスープを投げつけたり、ガソリンスタンドのポンプを破壊したりすることで人々の注目を集めれば、活動資金集めには役立つでしょう。
しかし、そのアクションが、気候変動対策に消極的な石油企業の方針を転換させるほどの力を持つのか疑問です。
目に見える派手な事件は何も起こりませんが、世界の投資家たちのダイベストメントの動きの方が、反石油運動として、はるかに効果がある取り組みではないかと思います。
FF7リメイクは制作陣がこだわって作りすぎたのか、なんと全三部作!になっているので、来年続編が公開される予定だそうです。
FF7リメイクが公開された年に書いたつぶやきに、つい最近の事件を受けて大幅加筆し、再掲しました。