第17話 映画『THE FIRST SLAM DUNK』(ネタバレなし)

文字数 3,260文字

今朝、マンションのエレベーターが全部止まってた!
今日、エレベーターの大規模点検するって、1か月以上前から貼り紙あったじゃない!
その告知見てたけどさ、すっかり忘れてた。

で、朝起きたら、もう止まってたんだよね。

じゃあ、階段を歩いて降りたの?

22階から?

登校するのやめようかなって一瞬思ったけど……

階段降りたよ! 22階から!!

1階層20段として、20階だと400段くらいあるよね……
ほかにも階段を歩いてる住人がたくさんいてさ、すれ違うたびに挨拶するのが新鮮で、なんか登山みたいだった。
たしかに登山道だと、すれ違うとき「こんにちは」、追い越すとき「お先に」って挨拶するよね。
イヤホンで音楽聴きながら駆け下りたら、思ったより早く地上に着いたよ!
地上まで、どのくらい時間かかったの?

まる1曲聴き終わったくらいだから、4分ちょいかな?

もちろん曲は……

それで今朝、遅刻してきたのね!?

ちゃんと早起きして、エレベーターが止まる前に登校しなきゃダメよ。

あらかじめ分かっていることなんだからね。

そうだよー、わたしは遅刻しなかったよ!

で、何の曲聴いてたの?

もちろん曲は、10-FEETの「第ゼロ感」!!
ああ、この曲、『THE FIRST SLAM DUNK』のエンディングテーマね!

聴いてると、試合の臨場感を思い出すね。

先生、『ザ・ファーストスラムダンク』観た?

観に行ったわよー!

『スラムダンク』は、わたしが小学生の頃に『週刊少年ジャンプ』で連載しててね、毎週読んでたの。

わあ、連載当時からのファンだったんですね!

漫画の『スラムダンク』はすごく写実的な絵柄でね、ハイスピードカメラで撮ったみたいに、ひとコマひとコマ丁寧に描き込まれているところが特徴なのよ。

『THE FIRST SLAM DUNK』は、インターハイの湘北高校と山王工業との試合をたっぷり2時間かけて描いていて、ところどころ回想シーンがはさまれてたけど、本物の試合を観ているような気持ちになりました。

1分が超高速に描かれて一瞬の出来事のように感じたり、1秒が時間が止まったようにスローモーションで描かれたり……

実際にライブで試合観戦しいるような臨場感だった!

漫画だと、ひとコマひとコマ手描きしていくわけだから、ひと試合を何か月もかけて連載していたの。

子どもの頃はその魅力がよく分からなくてね、漫画の中の時間の進みがあまりに遅いから退屈に思ってたんだけど……

映画を観たら、その原作の魅力が逆にわかったんですね!!
そうそう、あの漫画の絵が映画の中で見事に動いていて、感動だったわ!
原作の漫画も読んでみようかなあ?
先生、コミックス持ってないの?
もちろん全巻揃えてたわよ!

でも、映画を観た後に原作を読み返したくなって、実家に探しに行ったら……見つからなかったの!!

捨てちゃったんですか? もったいない……
いやいや、捨ててないからね!

たぶん、友だちのだれかに貸したっきり、戻ってこなかったというやつね……

映画館の帰り、本屋さんで原作の漫画が平積みされてるの見たんですけど、原作の絵って映画の絵と微妙に違うような……?
映画の絵は、連載当時よりも進化した、いまの井上先生の絵なのよね!
連載終了から20年以上経ってるんですもんね。
井上先生は連載当初から絵が上手かったけど、回を重ねる毎に実写のような絵になっていって、連載終了後は宮本武蔵を主人公にした漫画『バガボンド』を連載したりして、画力が天元突破したのよ!
映画の絵は、原作に忠実というよりも、原作を超える絵ってことですね!

原作者本人が監督と脚本を務めたわけですし。

連載当時は最終回に納得がいかなくて、ずっともやもやしてたんだけど、おとなになってから改めて考えても、やっぱり納得いかないわね。

井上先生はどうして花道くんにあんな試練を与えたのかしら……?

たしかに最悪、桜木花道が、クリント・イーストウッド監督の映画『ミリオンダラー・ベイビー』みたいになる可能性だってあったんですよね……
勝って勝って勝ちまくる話だと、みんなの記憶に残らないからじゃない?
まあ、先行作品として『ロッキー』があるから、『ミリオンダラー・ベイビー』が同じことをやってたら、アカデミー賞はとれなかっただろうね。
言われてみれば、予期しない苦い結末だったからこそ、子ども心に焼きついて、26年経っても覚えているのかもしれないわね。

わたしは、山王の沢北選手が、神社の数百段ある石段を駆け上がって、「おれに必要な経験をください」と神さまにお祈りする場面の意味が最後に明かされるとこが、いちばん心に残りました!

あの場面は、あとから意味が分かって、ぶわっときた!!
沢北くんが自主トレしながら神社でお詣りする場面、伏線の回収が本当に見事だったわね!

あの場面、じつは原作漫画には描かれてなくて、映画オリジナルなのよ。

今日気づいたんだけど、マンションの階段って最上階まで上れば500段以上あるし、カーブしてるから、真っ直ぐな階段よりも足腰鍛えられるよ!
沢北選手も、神社よりマンションで走りこみすればいいんじゃないかって?
もし山王が秋田県じゃなくて、都内の高校だったら、あり得そうじゃん?

だめだめ!

タワマンの最上階まで駆け上がって、「俺に必要な経験をください」なんて言ってたら、沢北くんにスノッブ感が出ちゃうわよ!!
そもそも、高層ビルの屋上に神社ってないよね?
丸の内にある大手町ビルヂングの屋上に、大手町観音があるよ!
ええ、ビジネス街のオフィスビルの屋上に神社があるの!?
コロナ前は、年に1回、大手町観音のご開帳の日があって、屋上に行けば紅白まんじゅうをもらえたんだけど、最近リノベされて、いつでも参拝できるようになったらしいよ。
映画のおかげで、連載当時のアニメの主題歌もリバイバルヒットしていて、「世界が終わるまでは」とか「あなただけ見つめてる」とか、いま聴くと懐かしいわね。
映画のオープニングテーマもむちゃくちゃ格好良かったですよね!

The Birthdayの「LOVE ROCKETS」!

イントロに合わせて、漫画から抜け出てきたみたいに、絵に命がふきこまれていって、選手たちが動き出すオープニングで、世界観にぐっと引き込まれたよね!
The Birthdayは2006年結成のバンドなんだけど、ボーカルのチバさんとドラムスのクハラさんは、元はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTというバンドのメンバーだったの。
ミッシェル・ガン・エレファント?
わたしは中学生の頃にTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが大好きだったのよ!

彼らが出演した『ミュージックステーション』での伝説のパフォーマンスは、今でも鮮明に覚えてるわ!

でも、解散しちゃったんですよね……
わたしがちょうど高校生の頃、2003年に解散しちゃったのよね。
そのミッシェル・ガン・エレファントが解散した後に、元メンバーが結成したバンドがThe Birthdayなんですね。
そうなの、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのインディーズ時代から数えると、チバさんは30年もロックを歌い続けているのよ。
じつは音楽キャリアが長いバンドだったんですね!?
エンディングテーマを歌った10-FEETというバンドもキャリアが長いわ。

1997年結成だから、このあいだ25周年を迎えたのよ。

アニメの主題歌だから、てっきり新人や若手のバンドが歌ってるのかと思ってました。
原作の井上先生は1967年生まれ、The Birthdayのボーカルのチバさんは1968年生まれで、同世代なんですね!

年齢とともに、研鑽を積み重ねてきた輝きがあるわね!

最後にみんなで「LOVE ROCKETS」を聴いておわりましょう!

ほら、目を閉じて、オープニングを思い出して……!!

あ、今日帰るとき、22階まで階段駆け上がれば? 鍛えられるよ!
まさか!? 足が死ぬって!!

エレベーターの点検が終わるまで、家に帰れない。

2023/05/21
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登場人物紹介

南津海(なつみ)ちゃん


社会科研究部の部員。好奇心旺盛。

寿太郎(じゅたろう)くん


社会科研究部の部員。南津海ちゃんとは幼なじみ。

せとか先生


社会科研究部の顧問。専門は世界史。

みはや先生


専門は音楽。せとか先生と仲良し。

考えるカエル


『バイブル・スタディ・コーヒー』から出張

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