第22話 Coldplay 来日公演 in 東京ドーム(前編)

文字数 5,144文字

2023年11月6日の深夜。
コールドプレイのライブ観戦、おつかれさまー! 乾杯!!

宇宙旅行から帰還したみたいで……

まだ足もとがふわふわしている感じだわ。
あああ、最高すぎて、明日仕事行きたくない!!
ライブ中は夢中になってて気づかなかったけど、声出しすぎて喉が痛いし、腕も振りすぎて痛いわ……

ボーカルのクリスが「みんなで一緒に心をこめて歌いたいです」なんて言うから……!

もう、全力で腕振って声出すしかないでしょ!!

会場全体がひとつになって歌う、あの一体感がライブのだいご味なのね!
今日の東京ドームには、日本国内はもちろん、海外からのファンもたくさん集まっていたわね。
そうそう、英語や中国語のほか、いろいろな言語が飛び交っていたわ。

わたしたちの席の周りでは、中国、韓国、インドネシア、タイ、フィリピンからのファンが多かったわね。

今夜のオープニングアクトは、YOASOBI

わたし、東京ドームでライブ観るの初めてだから、前座の演奏があるって知らなくて……

開演時間ちょうどにYOASOBIのライブが始まって、びっくりしちゃった!

来る会場を間違えたかと思ったわ。

以前、さいたまスーパーアリーナで一緒に観た、椎名林檎ちゃんのライブでは、最初から林檎ちゃんが出てきたものね。
そうそう、ニコラウス・アーノンクール率いるウィーン・コンツェントゥス・ムジクス&シェーンベルク合唱団の来日公演のときだって、最初からアーノンクールが振ってたわよ。
クラシック音楽では、海外の超大物アーティストの来日公演でも、前座システムがないのね。

だから、今日はYOASOBIがたっぷり30分も演奏して、とてもおどろいたの!

会場を見ると、海外からのお客さんがすごく多かったからね。

主催者が、今いちばん世界に売り出したい若手アーティストが、YOASOBIなのかなって思ったわ。

【YOASOBIの演奏曲目】

「夜に駆ける」

「祝福」

「ミスター」

「勇者」

「優しい彗星」

「怪物」

「群青」

「アイドル」


YOASOBI(ヨアソビ)は作曲家Ayaseとボーカルikuraによる、2019年結成の音楽ユニット。

YOASOBIって名前は知っていたけど、歌を聴くのは初めてだったから、複雑に転調する楽曲が多い印象を受けたわ。


そのなかでも「優しい彗星」という歌がきれいだったわね。

最初の「夜に駆ける」と最後の「アイドル」は会場も盛り上がったし、ライブで聴けて良かったわ!
ボーカルのイクラさんが、YOASOBIの歌はすべて、原作の物語があるって言っていたわね。
そうそう、「アイドル」は『【推しの子】』のオープニング曲だし、「勇者」は『葬送のフリーレン』のオープニング曲なの。

両作品とも、最近の人気アニメなのよ!

YOASOBIのライブの後、コールドプレイが取り組んでいる環境保全活動の紹介があったわね。


ツアーの収益の一部が、海洋清掃、森林再生、生物多様性の保全などに使われるそうだけど……

コールドプレイほど影響力のあるアーティストとなれば、意識高いこと言わないといけないのね。

コールドプレイは以前から環境的配慮への意識が高くて、2019年に「自分たちのツアーのCO2排出量が多くて環境負荷が高いから、環境対策ができるまでツアーを中止する」と宣言したのよ。


この公式発表がでた時、もう来日公演は二度とないんじゃないかと絶望したわ……

ええ、環境的配慮のためにツアー中止って!?


単に、新しいアルバムを作ってワールドツアーをして、また新しいアルバムを作ってワールドツアーをして……という生活に疲れていただけなんじゃないの?

まあ、内心ではそうかもしれないけど、環境的配慮でいったん中止すると宣言したツアーを再開するのだから、じゅうぶんな環境対策をアピールするのは当然のことなのよ。
なるほどね。
それに、今回のツアーのスポンサーは、世界最大規模の物流企業であるDHLでしょ?

気候変動に対して真剣に取り組んでいる彼らをスポンサードすることは、企業のイメージアップにつながるわよね。

YOASOBIのライブから、環境対策のアピールと、じらされてじらされて……
ようやく19時15分頃に、待ちに待ったコールドプレイが登場!!
Coldplay(コールドプレイ)

1997年にロンドンで結成されたイギリスのロックバンド。クリス・マーティン(ヴォーカル兼ピアノ)、ジョニー・バックランド(ギター)、ガイ・ベリーマン(ベース)、ウィル・チャンピオン(ドラムス)、フィル・ハーヴェイ(クリエイティブ・ディレクター)で構成されている。

グラミー賞を7度受賞し、全世界で1億枚以上のアルバムを売り上げた史上最も売れている音楽グループのひとつ。

◎2023年11月6日◎

【Coldplayの演奏曲目(前半)】

<Act.1 Planets>

Higher Power

Adventure of a Lifetime

Paradise

The Scientist


<Act.2 Moons>

Viva la Vida

Hymn for the Weekend

Everglow

Charlie Brown

Yellow

オープニングを飾った"Higher Power"は、今回のツアーのタイトルである最新のアルバム"Music of the Spheres"(2021年)に収録されている楽曲ね。

ライブの序盤から、名曲が洪水のように押し寄せてきて……!

息つくひまもなかったわね!

"Adventure of a Lifetime""Paradise" も好きだけど、

やっぱり"Viva la Vida"がいちばん好き!!

Viva La Vida(2008年)

UKシングルチャートとBillboard Hot 100で1位獲得。第51回グラミー賞で最優秀楽曲賞など2部門受賞。

コールドプレイの4枚目のアルバム"Viva la Vida or Death and All His Friends"に収録されている。

前奏の4拍子を刻むリズムが聴こえてきて、思わず立ち上がったわよね!

Oh oh oh oh ohh oh♪ (×5)

会場全体が一体となってサビの大合唱!

最っ高に盛り上がったわね!!

わたしがコールドプレイを初めて知った曲が、この"Viva la Vida"だったのよね。


最初に聞いたのがGregorian(グレゴリアン)によってカヴァーされたバージョンだったから、てっきりグレゴリオ聖歌をポピュラーアレンジした歌なんだと思ってたわ。

Gregorian(グレゴリアン)

1991年結成のフランク・ピーターソン率いるドイツの男声コーラス・グループ。グレゴリオ聖歌にインスパイアされたモダンな声楽曲を演奏する。

たしかにグレゴリアンのカヴァーを最初に聞いたのなら、ロックバンドが書いた曲とは思わないかも。

I hear Jerusalem bells a-ringing

Roman cavalry choirs are singing

Be my mirror, my sword and shield

My missionaries in a foreign field


For some reason I can't explain

I know St Peter won't call may name

Never an honest word

But that was when I ruled the world

("Viva la Vida"より

サビの「エルサレムの鐘の音が聞こえる、ローマ騎兵隊の合唱団が歌っている」なんて、すごく讃美歌の歌詞っぽいと思わない?
そう、「聖ペテロは僕の名を呼ばないだろう」とも言っているしね。


イエスの弟子ペテロは初代教皇であり、「天の国の鍵」を託されたと考えられているわ。

そのペテロから名前を呼ばれないと言うことは、語り手が天の国に迎え入れてもらえないことを示唆しているわけ。

One minute I held the key

Next the walls were closed on me

And I discovered that my castles stand

Upon pillars of salt and pillars of sand

1番のBメロの歌詞では「私が鍵を握った瞬間、壁が私の前で閉ざされた。私の城が塩の柱と砂の柱で建てられていたと分かった」と語っているわ。


「世界を支配していた」はずの主人公が握っていた鍵は、天の国の鍵ではなかったと言うことね。

砂上の楼閣を意味する「砂の柱」だけでなく、「塩の柱」とも言っているのが奥深いわよね。

「塩の柱」は、旧約聖書に記されている神が与えた罰をイメージさせるわ。

Revolutionaries wait

For my head on a silver plate

Just a puppet on a lonely string

Oh who would ever want to be king?

2番のBメロの歌詞では「革命家たちは、銀の皿に盛られた私の首を待っている」と歌っているわ。

民衆革命の血塗られた歴史を描いているのよね。

「銀の皿に盛られた首」と言うのは、新約聖書に記されているバプテスマのヨハネと重なるのよ。

バプテスマのヨハネは、キリストの到来を告げ知らせる存在なの。

Listened as the crowd would sing

Now the old king is dead long live the king

だから、1番のAメロBでこう歌われているように、革命家たちによって倒される語り手は、次の「新しい王」を到来させる役割を持っているということね。
民衆革命の歴史を、倒される権力者の視点から語った歌詞なのに、歌のタイトルがViva la Vida「人生万歳」と言うのは皮肉がきいてるわね。
たしかに盛者必衰の理を描いているけども、それもまた人生と言うか……

わたしはこのタイトルは皮肉ではなくて、人間賛歌だと思うわ!

今日のライブの話に戻ると、ウィルがドラムスでリズムを刻みながら、同時に裏拍で鐘を鳴らしている音が印象的だったわ。


録音の音源では、音のバランスが調整されてるからか、鐘の音だけ突出して聴こえることはないけど、ライブでは鐘の音が耳に残るわね。

ウィルのドラムと鐘の同時叩きは職人芸の域と言うか……

あの鐘の音が会場中に鳴り響いて、教会の鐘のようで、すっごく感動したわ。

まさに「エルサレムの鐘の音が聞こえる」ね!

Hymn for the Weekend(2015年)

7枚目のアルバム"A Head Full of Dreams"に収録されている楽曲。

インドで撮影されたこの曲のミュージックビデオは、YouTubeで19億回再生(2023年10月現在)されており、コールドプレイの最も再生回数の多いビデオである。

"Viva la Vida"で盛り上がった後に、"Hymn for the Weekend"がきて……

わたしのいちばん好きな曲だったから、まさかここで聴けるとは思ってなくて、鳥肌ぶわって立ったわ!

そう、"Hymn for the Weekend"ビヨンセとのコラボ曲だものね。

コールドプレイのツアーにビヨンセが帯同するわけがないから、ライブでは聴けないと思ってたんだよね。

Oh I, oh I, oh I♪

ビヨンセさまのパートは、会場のみんなが歌っていたわね。
Drink from me, drink from me

("Hymn for the Weekend"より)

ビヨンセ演じる「天使」「私から飲んで、私から飲んで」と誘惑してくる歌なんだけど……

それ絶対、飲んじゃヤバいやつ感がひしひしするのよね。

歌詞では「天使」と言っているけど、ビヨンセさまの圧倒的な美女オーラによって、「女神」さまって感じよ。
女神が与えるお酒だとしたら、ソーマ(神酒)的なやつで、飲んだら現実世界に二度と戻ってこられない感じがするわ。

hymnは「讃美歌、聖歌」を意味する言葉なの。


Hymn for the Weekendというタイトルは「週末の讃歌」という意味だから、この曲はコールドプレイなりのパーティ・ソングだと思うのよね。

コールドプレイがパリピソングを作ろうとすると、ジェニファー・ロペスの"On The Floor"とか、LMFAOの"Party Rock Anthem"のようには決してならないのよね。

この神秘的な酩酊感の漂う、パリピソングっぽくないパリピソングが、彼らの世界観なのだし、コールドプレイらしさだと思うわ!
つづくー!
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登場人物紹介

南津海(なつみ)ちゃん


社会科研究部の部員。好奇心旺盛。

寿太郎(じゅたろう)くん


社会科研究部の部員。南津海ちゃんとは幼なじみ。

せとか先生


社会科研究部の顧問。専門は世界史。

みはや先生


専門は音楽。せとか先生と仲良し。

考えるカエル


『バイブル・スタディ・コーヒー』から出張

本を読むウサギ


『バイブル・スタディ・コーヒー』から出張

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