第22話 Coldplay 来日公演 in 東京ドーム(前編)
文字数 5,144文字
コールドプレイのライブ観戦、おつかれさまー! 乾杯!!
宇宙旅行から帰還したみたいで……
まだ足もとがふわふわしている感じだわ。
ライブ中は夢中になってて気づかなかったけど、声出しすぎて喉が痛いし、腕も振りすぎて痛いわ……
ボーカルのクリスが「みんなで一緒に心をこめて歌いたいです」なんて言うから……!
もう、全力で腕振って声出すしかないでしょ!!
会場全体がひとつになって歌う、あの一体感がライブのだいご味なのね!
今日の東京ドームには、日本国内はもちろん、海外からのファンもたくさん集まっていたわね。
そうそう、英語や中国語のほか、いろいろな言語が飛び交っていたわ。わたしたちの席の周りでは、中国、韓国、インドネシア、タイ、フィリピンからのファンが多かったわね。
わたし、東京ドームでライブ観るの初めてだから、前座の演奏があるって知らなくて……
開演時間ちょうどにYOASOBIのライブが始まって、びっくりしちゃった!来る会場を間違えたかと思ったわ。
以前、さいたまスーパーアリーナで一緒に観た、椎名林檎ちゃんのライブでは、最初から林檎ちゃんが出てきたものね。
そうそう、ニコラウス・アーノンクール率いるウィーン・コンツェントゥス・ムジクス&シェーンベルク合唱団の来日公演のときだって、最初からアーノンクールが振ってたわよ。
クラシック音楽では、海外の超大物アーティストの来日公演でも、前座システムがないのね。
だから、今日はYOASOBIがたっぷり30分も演奏して、とてもおどろいたの!
会場を見ると、海外からのお客さんがすごく多かったからね。
主催者が、今いちばん世界に売り出したい若手アーティストが、YOASOBIなのかなって思ったわ。
【YOASOBIの演奏曲目】
「夜に駆ける」
「祝福」
「ミスター」
「勇者」
「優しい彗星」
「怪物」
「群青」
「アイドル」
YOASOBI(ヨアソビ)は作曲家Ayaseとボーカルikuraによる、2019年結成の音楽ユニット。
YOASOBIって名前は知っていたけど、歌を聴くのは初めてだったから、複雑に転調する楽曲が多い印象を受けたわ。
そのなかでも「優しい彗星」という歌がきれいだったわね。
最初の「夜に駆ける」と最後の「アイドル」は会場も盛り上がったし、ライブで聴けて良かったわ!
ボーカルのイクラさんが、YOASOBIの歌はすべて、原作の物語があるって言っていたわね。
そうそう、「アイドル」は『【推しの子】』のオープニング曲だし、「勇者」は『葬送のフリーレン』のオープニング曲なの。両作品とも、最近の人気アニメなのよ!
YOASOBIのライブの後、コールドプレイが取り組んでいる環境保全活動の紹介があったわね。
ツアーの収益の一部が、海洋清掃、森林再生、生物多様性の保全などに使われるそうだけど……
コールドプレイほど影響力のあるアーティストとなれば、意識高いこと言わないといけないのね。
コールドプレイは以前から環境的配慮への意識が高くて、2019年に「自分たちのツアーのCO2排出量が多くて環境負荷が高いから、環境対策ができるまでツアーを中止する」と宣言したのよ。
この公式発表がでた時、もう来日公演は二度とないんじゃないかと絶望したわ……
ええ、環境的配慮のためにツアー中止って!?
単に、新しいアルバムを作ってワールドツアーをして、また新しいアルバムを作ってワールドツアーをして……という生活に疲れていただけなんじゃないの?
まあ、内心ではそうかもしれないけど、環境的配慮でいったん中止すると宣言したツアーを再開するのだから、じゅうぶんな環境対策をアピールするのは当然のことなのよ。
それに、今回のツアーのスポンサーは、世界最大規模の物流企業であるDHLでしょ?気候変動に対して真剣に取り組んでいる彼らをスポンサードすることは、企業のイメージアップにつながるわよね。
YOASOBIのライブから、環境対策のアピールと、じらされてじらされて……
ようやく19時15分頃に、待ちに待ったコールドプレイが登場!!
Coldplay(コールドプレイ)1997年にロンドンで結成されたイギリスのロックバンド。クリス・マーティン(ヴォーカル兼ピアノ)、ジョニー・バックランド(ギター)、ガイ・ベリーマン(ベース)、ウィル・チャンピオン(ドラムス)、フィル・ハーヴェイ(クリエイティブ・ディレクター)で構成されている。
グラミー賞を7度受賞し、全世界で1億枚以上のアルバムを売り上げた史上最も売れている音楽グループのひとつ。
◎2023年11月6日◎
【Coldplayの演奏曲目(前半)】
<Act.1 Planets>
Higher Power
Adventure of a Lifetime
Paradise
The Scientist
<Act.2 Moons>
Viva la Vida
Hymn for the Weekend
Everglow
Charlie Brown
Yellow
オープニングを飾った"Higher Power"は、今回のツアーのタイトルである最新のアルバム"Music of the Spheres"(2021年)に収録されている楽曲ね。
ライブの序盤から、名曲が洪水のように押し寄せてきて……!息つくひまもなかったわね!
"Adventure of a Lifetime" も "Paradise" も好きだけど、やっぱり"Viva la Vida"がいちばん好き!!
Viva La Vida(2008年)UKシングルチャートとBillboard Hot 100で1位獲得。第51回グラミー賞で最優秀楽曲賞など2部門受賞。
コールドプレイの4枚目のアルバム"Viva la Vida or Death and All His Friends"に収録されている。
前奏の4拍子を刻むリズムが聴こえてきて、思わず立ち上がったわよね!
Oh oh oh oh ohh oh♪ (×5)
会場全体が一体となってサビの大合唱!
最っ高に盛り上がったわね!!
わたしがコールドプレイを初めて知った曲が、この"Viva la Vida"だったのよね。
最初に聞いたのがGregorian(グレゴリアン)によってカヴァーされたバージョンだったから、てっきりグレゴリオ聖歌をポピュラーアレンジした歌なんだと思ってたわ。
Gregorian(グレゴリアン)1991年結成のフランク・ピーターソン率いるドイツの男声コーラス・グループ。グレゴリオ聖歌にインスパイアされたモダンな声楽曲を演奏する。
たしかにグレゴリアンのカヴァーを最初に聞いたのなら、ロックバンドが書いた曲とは思わないかも。
I hear Jerusalem bells a-ringing
Roman cavalry choirs are singing
Be my mirror, my sword and shield
My missionaries in a foreign field
For some reason I can't explain
I know St Peter won't call may name
Never an honest word
But that was when I ruled the world
("Viva la Vida"より)
サビの「エルサレムの鐘の音が聞こえる、ローマ騎兵隊の合唱団が歌っている」なんて、すごく讃美歌の歌詞っぽいと思わない?
そう、「聖ペテロは僕の名を呼ばないだろう」とも言っているしね。
イエスの弟子ペテロは初代教皇であり、「天の国の鍵」を託されたと考えられているわ。
そのペテロから名前を呼ばれないと言うことは、語り手が天の国に迎え入れてもらえないことを示唆しているわけ。
One minute I held the key
Next the walls were closed on me
And I discovered that my castles stand
Upon pillars of salt and pillars of sand
1番のBメロの歌詞では「私が鍵を握った瞬間、壁が私の前で閉ざされた。私の城が塩の柱と砂の柱で建てられていたと分かった」と語っているわ。
「世界を支配していた」はずの主人公が握っていた鍵は、天の国の鍵ではなかったと言うことね。
砂上の楼閣を意味する「砂の柱」だけでなく、「塩の柱」とも言っているのが奥深いわよね。「塩の柱」は、旧約聖書に記されている神が与えた罰をイメージさせるわ。
Revolutionaries wait
For my head on a silver plate
Just a puppet on a lonely string
Oh who would ever want to be king?
2番のBメロの歌詞では「革命家たちは、銀の皿に盛られた私の首を待っている」と歌っているわ。
民衆革命の血塗られた歴史を描いているのよね。
「銀の皿に盛られた首」と言うのは、新約聖書に記されているバプテスマのヨハネと重なるのよ。バプテスマのヨハネは、キリストの到来を告げ知らせる存在なの。
Listened as the crowd would sing
Now the old king is dead long live the king
だから、1番のAメロBでこう歌われているように、革命家たちによって倒される語り手は、次の「新しい王」を到来させる役割を持っているということね。
民衆革命の歴史を、倒される権力者の視点から語った歌詞なのに、歌のタイトルがViva la Vida、「人生万歳」と言うのは皮肉がきいてるわね。
たしかに盛者必衰の理を描いているけども、それもまた人生と言うか……わたしはこのタイトルは皮肉ではなくて、人間賛歌だと思うわ!
今日のライブの話に戻ると、ウィルがドラムスでリズムを刻みながら、同時に裏拍で鐘を鳴らしている音が印象的だったわ。
録音の音源では、音のバランスが調整されてるからか、鐘の音だけ突出して聴こえることはないけど、ライブでは鐘の音が耳に残るわね。
ウィルのドラムと鐘の同時叩きは職人芸の域と言うか……あの鐘の音が会場中に鳴り響いて、教会の鐘のようで、すっごく感動したわ。
まさに「エルサレムの鐘の音が聞こえる」ね!
Hymn for the Weekend(2015年)7枚目のアルバム"A Head Full of Dreams"に収録されている楽曲。
インドで撮影されたこの曲のミュージックビデオは、YouTubeで19億回再生(2023年10月現在)されており、コールドプレイの最も再生回数の多いビデオである。
"Viva la Vida"で盛り上がった後に、"Hymn for the Weekend"がきて……わたしのいちばん好きな曲だったから、まさかここで聴けるとは思ってなくて、鳥肌ぶわって立ったわ!
そう、"Hymn for the Weekend"はビヨンセとのコラボ曲だものね。コールドプレイのツアーにビヨンセが帯同するわけがないから、ライブでは聴けないと思ってたんだよね。
Oh I, oh I, oh I♪
ビヨンセさまのパートは、会場のみんなが歌っていたわね。
Drink from me, drink from me("Hymn for the Weekend"より)
ビヨンセ演じる「天使」が「私から飲んで、私から飲んで」と誘惑してくる歌なんだけど……それ絶対、飲んじゃヤバいやつ感がひしひしするのよね。
歌詞では「天使」と言っているけど、ビヨンセさまの圧倒的な美女オーラによって、「女神」さまって感じよ。
女神が与えるお酒だとしたら、ソーマ(神酒)的なやつで、飲んだら現実世界に二度と戻ってこられない感じがするわ。
hymnは「讃美歌、聖歌」を意味する言葉なの。
Hymn for the Weekendというタイトルは「週末の讃歌」という意味だから、この曲はコールドプレイなりのパーティ・ソングだと思うのよね。
コールドプレイがパリピソングを作ろうとすると、ジェニファー・ロペスの"On The Floor"とか、LMFAOの"Party Rock Anthem"のようには決してならないのよね。
この神秘的な酩酊感の漂う、パリピソングっぽくないパリピソングが、彼らの世界観なのだし、コールドプレイらしさだと思うわ!
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