第72話 三八2 素晴らしき鶯

文字数 739文字

□鶯は、詩などにも目出度いものとして歌われている、鳴き声をはじめとして、姿、形も、あれ程美しくのに、九重ともいう宮中の内においては鳴かないというのは、いと根性がわるいのかもしれない。ある人が「宮中で鳴かないのもあり得る」と言っていたが、そんなはずは無いだろうと思っていたけれど、十年ばかり宮中にお勤めして聞いていましたが、まことに鶯の鳴く音を耳にすることはなかった。しかし、宮中で竹の近くに紅梅もあったりし、いとよく通ってくるのに都合のよいところのはずである。高貴な人の所から退出したとき聞いてみると、下々の家で見所もない梅の木などには、喧しいくらいに、鶯が鳴いている。夜に鳴かないのも、寝るのを貪っているここちがするけれど、今となってはどうしようも無い性質である。夏、秋の末まで、老人のような声で鳴き、虫食いなどと、下々の者が名付けて言うのも、残念で感心できない気がする。
それも、ただの雀などのように常に何処でもいるような鳥ならば、そうも思われないだろう。
春鳴く理由からだろうか。「あらたまの年たちかえるあしたより待たるるものは鶯の声」などと風情ある歌にも詩にも歌われているではないかなお、春のうちだけに鳴くのなら、なんと素晴らしいことなのであるが。人でも、落ちぶれて、世間の覚えも見下されるような状態になってしまった人を、非難することはないであろうに。
※鶯については、なかなか詳しくその生態を観察され、春に鳴くときは清い鳥と思われ、秋冬には老人のような声で鳴く。栄華を極めた人が、敗者となり落ちぶれた者になり、それを鞭打つのはいかがなものか。春だけ鳴いて、晩秋は物まねなどせず、無言で通すべきです鶯さん。とはいえ、習性だからやむなし。春は聖鳥で秋以降は虫食い鳥でいいのでは。
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