第189話 131 行成と経房と清少納言

文字数 1,228文字

頭の弁が、職の御曹司に参上され、私と物語などしていらっしゃったとき夜も更けてしまった。(行成)「明日は、帝の御物忌みなので、お籠りをしなければならない丑の時になったら悪かろう」といって、お参りなさった。 
翌朝、蔵人所の紙屋紙を引き重ねて、(行成)「今日は,心残りが多い気がする。夜を通して昔の物語をお話しして夜明かししよと思っていたのに、鶏の声うながされて」と、とても言葉おおく書いておられたのも、見事なものでした。。御返事に、(清少)「まだ夜深き頃なのに泣く鶏の声は。孟宗君のではないようですが」と申し上げた所、立ち返り、(行成)「孟宗君の鶏は、函谷関(かんこくかん)を開いて、三千のお客とかろうじて去っていった、とあるけれども、これは、逢坂の関のことです」とあったので、
(清少)「夜をこめて鶏の虚言(そらね)ははかるともよは逢坂の関は許さじ心かしこき関守はべり」と、申し上げる。するとまた直ぐに、
(行成)逢坂は人越え易き関なれば鶏鳴かぬにもあけて待つとか
とあった文などを、僧都の君が、気に入られ再三頭をさげ懇望され自分のものにされた後の文は中宮の御前に。
 さて、(行成)「逢坂の歌は、圧倒されて返歌もようされなかったようだ、なんとも感心しない。さて、その文は、殿上人が、みな見てしまった」と、宣うので、(清少)「まことに私のことをお思いになっていらっしゃるということが、これでよく知ることができました。素晴らしいことなどを、人が言い伝えないというのは、やりがいのないことです。また、見苦しい貴方の歌が散るのは侘しく思いますので、御文は一生懸命隠しとおして、他の人に見せないようにしました。貴方の御心ざしとくらべると、同じようなものです」と言うと、(行成)「かくのごとき、物事を思い知って様子で言うところが、なお他の人とっちがって良いよころである。『浅はかな考えだ、まったくどうしようもない』などと、普通の女のように言うのではないかとおもったのだが」など言ってお笑いになる。(清少)「これはまた何ということをおっしゃいますか。有難く喜んでいると申し上げたいほどです」などと言う。(行成)「私の文を隠していただいたこと、またなお、しみじみと嬉しいことであります。さもなく人に見せたりした心苦しく、あなたの仕打を辛くおもったでしょう。これからも、そのようにお頼み申し上げますよ」など、おしゃった後のこと、経房の中将がいらして、(経房)「頭の弁はとてもおほめになっていらしたことは、知っていますか。先日の私の文に、在りし日のことを書かれていました。恋しく思う人が、人に褒められているのは、とても嬉しいものだ」など、いかにも真面目に宣われるのも面白い。(清少)「嬉しいことが二つになりました。頭の弁がおほめくださったことと、また、私があなたの思う人のうちに入っていたなんて」と言うと、」」(経房)「それは珍しい、今はじめてのように喜びなさるのですか」などと仰る。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み