第183話 124 女院と帝

文字数 520文字

 帝が石清水八幡宮の行幸からお還りになるとき、女院の御座敷の彼方に御輿を止められて、御挨拶を申されていた時など、とてもめでたく、あのように尊いお方の御様子が、かしこまれて挨拶されていたのが、世にも珍しいくらい、涙もこぼれそうになり、化粧をした私の顔がいかに見苦しかったことだろう。天皇のお言葉を述べる宣旨の御使いとして、斉信の宰相の中将が御桟敷に参りたる姿は、とても趣あるものだった。ただ随身四人、見事な装束をした馬副が細く白く仕立てたのだけを連れて、二条の大路の広くて清められた所を、見事な馬を早駆けさせて参上し、少し離れたところで降りて、そばの御簾の前に伺候されたのは、実に素晴らしい。お返事を承けたわって、また帝のもとへ帰りたまわって、御輿のもとで奏したまわるところなど、言うに言えないほどである。
さて、帝がいらっしゃるのをご覧になる女院の御心持を推測いたしますと、飛びあがるくらいに、非常に嬉しくおもわれたことだろう。感極まって、長いこと泣いていたので、ほかの女房から笑われてしまった。普通の人だって、なお、子供の出来の良いのは、素晴らしいにちがいないのだから、このように女院の心を思いやるのは、あり難くももったいないことである。
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