第142話 八四1 すばらしく良いもの

文字数 907文字

唐錦。飾り太刀。作り仏の木目。色合い深き花房も長く咲いた藤の花が、松にかかりたる。
六位の蔵人。たいそうな若君たちでもよう着れないような綾織物を、思うままに着た青色姿などが、なんとも素晴らしい。蔵人の所の雑職が、並みの身分の人の子供などであり、殿方の侍として、四位、五位の官職についた者の部下としているときは、なんとも思わないが、六位の蔵人に昇進すると、えも言われないような派手になってくる。宣旨などを持って参上したり、大饗の折に甘栗の使いなどに参上したのをもてなしたり、やんごとなき対応する様子は、いずこから天降りされた人だろうかと見えることがある。
 御娘が、后になられたり、または、まだ姫君などと呼ばれている頃、帝の使いだといって中宮のもとに参内した時などに、御文を御簾の内に取り入れるのをはじめ、敷物を差し出す女房の着物の袖口など、これが朝夕見慣れている者とは思われず、下襲(しもがさね)の裾を引きずらしながら、衛府(えふ)という六位の蔵人である者などは、一層ひきたち立派に見えるものだ。高位のかた自ら盃などさしていただけるのだから、蔵人自身は、どんな気持ちになることだろうかと思わらる。以前は身もちじむ思いでかしこまって、地面にひざまづいていたのだが、公家の子や若君たち
に対しても、気持ちの上では慎み深く心掛けているものの、彼らと同じように連れだって歩いている。帝がお傍近くにお使いなさるのを見ていると、蔵人のことを妬ましく思うほどである。お仕えする三年、四年と過ぎるうちに、慣れ親しんで服装も悪くなり、煌びやかさもなくなってくるようでは、折角の帝の御傍勤めも、言う甲斐もないということになるだろう。五位に叙せられ始めて冠を被る時期になって、蔵人の職務を辞することが近づくと、命より惜しまれる蔵人の職なのに、臨時の諸国の国司の空席を賜りたく申し出で、辞職していく者が多く、情けないことだと思われる。昔の蔵人だったら、その年の春や夏ころから、御傍仕えが終わることを、泣いて帝とのお別れを惜しんだものである。今の世では、爵位を貰うために走り回っているのだから、まったくもって、品のないことはなはだしい限りである。
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