第173話 116-2

文字数 1,151文字

 美しい立文を持たせた男などが、誦経の際のお布施の物を置いて、堂童子などを呼ぶ声が、近くの山にこだまして、にぎやかに聞こえる。鐘の音が響き渡って、どこから聞こえるのだろうと思ううちに、やんごとなき方の名前を言って(僧)「御産が順調にいきますように」に霊験ありそうな感じで申し上げている。何の関係も無いのに、どんなだろうか、心配になり、仏に念じお願いしたくなる。これは、単に普通のありきたりのことだった。正月などは、ただ極めて騒がしいだけである。あるものを望む人などが、ひっきりなしに詣でてくるの様子を見ていると、お務めのおこないもおろそかになってしまう。
 日が暮れるころに詣でるのは、今晩はお籠りするのだろう。小法師たちが、持ちあげるのも大変そうな屏風の高いものを、器用に持ち運びして、畳なども置くとみれば、さっさと局に仕立て上げ、犬防に簾をさらさらと掛けてしまう、極めて手順よく仕事をさばき終え、せいせいしている様子だ。静々と大勢が降りて来て、年長者らしい人が、上品な声であたりに気を遣う様子で、帰るひとにだろうか、「そのことが、心配です。火事にならないように、注意しなさい」などと言っているものもある。七つか八つくらいの男の子が、愛らしく、偉そうな声をまねて、侍の男を呼びつけ、まとわりついている、なんとも面白い。また、三つくらいの稚児が、寝ぼけてむせているのも、かわいらしい。乳母の名前や、母親を呼んでいるのも、誰なのだろうか知りたい気がする。
 一晩中、声高にお経の声が聞こえ、なかなか眠りに付けないでいるが、後夜の夜半ころにはお経も声もしなくなり、少し寝入ることが出来たが、その内寝耳に、その寺の仏のお経を、ひどく荒々しくそして尊げに読むのであるが、それ程尊くも聞こえず、修行者風の法師で蓑を着て読むのであろうと、哀愁を帯びた感じがしたのである。
 また、夜などは参篭しないで権力ありそうな人が、青鈍の指貫に綿の入ったのに白い衣などたくさん着て、子供だろうと見える若い男かわいらしのや、着飾った童など連れて、侍などのような者どもを、大勢きちんと座らせている様子もおもしろい。仮設の屛風だけを立てて、額などを少し下げ拝んでいる。顔を知らないなら、誰だろうかと知りたいと思う。知っている顔ぶれのなら、ああ、あの人だと思うのもゆかしいものだ。若い者どもは、ややもすると局あたりを立ちさまよい、仏の方には目もくれず、別当などを呼び出して、なにか囁きながら話をして出ていくのだが、いい加減な人とは思えない。
 二月の末頃、三月一日の頃、花盛りに参篭したのも趣がある。美しい男が主人と見える二、三人が、桜の武官の礼服である襖や、柳の襖などを着て、なかなかお洒落な格好で、裾を括り上げた指貫も艶やかに見せている。
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