第136話 八三3 雪の山その後

文字数 1,335文字

月末頃には、少し雪山も小さくなるようだけれども、未だにとても高いままである。昼ころ、縁に女房たちが出て雪山を見ながら座っていると、あの常陸の介がやってきた。(清少)「何ゆえにずいぶん長いこと、姿を表されるなかたのか」と問うと、(常陸の介)「なんといいましょうか、心苦しいことがございまして」と言う。(清少)「何事があったのか」と、さらに問うと、(常陸の介)「まあ、あの時、もう一人の尼がここにいたとき、こんなふうに思ったのでございます」と言って、長々と歌を詠みだした。
  うらやまし足の引かれずわたつ海のいかなる人に物賜うらむ 
※本歌は、小野小町の 「みるめなき 我が身を浦と 知らねばや かれなで海人の 足たゆくくる」。 「 気分が晴れず逢う気持ちもないのに、いっこうにあきらめずに疲れた足を引きずって通ってくるお方ですね」 の意。をパクったらしいですね。教養ある乞食ですね。
 と言うので、女房たちも憎らしがって笑い、皆も老尼を無視していた所、雪の山に登り掛かっろうとしたり、ぐずぐずしていたが、やがては立ち去って行った。その後、右近の内侍に、(清少)「このようなことがあったのですよ」と言いやると、(右近の内侍)「なぜに、人を付けてこちらへ寄こしてくださらなかったのですか。彼女がはしたなくも、雪の山まで登って、うろうろしていたのに、なんだか可哀そうでもあります」と言ってきたので、また皆で笑ってしまった。
 さて、雪の山はなんの変化もなくて、年も改まった。一月一日の日の夜、雪がまたも激しく降ってきたし、うれしく思い、まだまだ降り積もっているじゃないの、と見ていると、(宮)「これは、面白みがない。はじめの際までの雪をそのまま置いておき、新しく降った雪は掻き捨てよ」と、仰せられた。
翌朝、局へ早く降りていくと、侍の長なる者が、ユズの葉のような濃い宿直服の袖の上に、青い紙の松の枝がついた手紙を置いて、寒さで震えながら差し出してきた。(清少)「それは、どこからきた手紙であるのか」と問えば、(侍長)「斎院よりです」※当時の斎王は加茂におられ、村上天皇の内親王で、文雅にすぐれた方だったそうです。※
と言うので、なんと素晴らしいことなのだろうと思いて、文を受け取って中宮の御前に参上した。
まだ御寝所にお休みだったので、まづ御帳台にあたる御格子を、碁盤を引き寄せて、それを持ち上げるのが、とても重い。片方の格子の片方をだけをもつと、ぎしぎしと音をたて、驚かせてしまったようで(宮)「何故に、そのようなことをしているのだ」と、、宣われるので、(清少)「斎院より御文が参りましたので、どうしても急いで差し上げなければと思いまして」と申しあげると、(宮)「ほんとうに、とても朝はやいこと」といって、お起きになりました。お手紙をお開けになりてご覧になると、五寸ほどの卯槌(※邪気を払う道具、卯杖)二つを、卯杖に見立てて、頭の所を紙で包んで、山橘(やぶこうじ:赤い実を付ける小木)、ヒカゲノカズラ、山菅など、美しく飾って、お手紙はない。ただなにもないことはないだろうと、よくよくご覧なさると、卯杖の頭を紙で包んだ小さな紙に、
 (斎院)山とよく斧の響きを尋ぬれば祝いの杖の音にぞありける
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