第187話 128 定考の儀式 

文字数 1,190文字

 二月、官の役所で管理昇進の儀式である定考(かうじやう)ということをするそうだが、どういうことをやるのだろうか、孔子などの額をお掛けになってなさるらしい。聡明といって鹿、猪の干し肉や米、餅などを備え、天皇にも中宮にも、あやしき物の型などを、土器に盛って差し上げる。頭の弁の御もとから、主殿司が、絵などのような物を白い色紙に包んで、梅の花が奇麗に咲いた枝をつけて、持って来た。絵ではないだろうかと、急いで取りいれて見てみると、四角く切った餅餤(へいだん)というものを二つ並べて包みたるなりける、添えてある立文には、推薦の解文のようで、  進上 餅餤一包 例に依って進上 如件(くだんのごとし) 別当少納言殿 
とあって、月日を書きて、「みまなのなりゆき」と、奥に、「この男は、みづから参上しようとしたが、昼は容貌が悪いと思って、参上しないようです」と、とても美しい筆でお書きになっておられる。中宮の午前に参りて、御覧にいただくと、(宮)「なんと立派に書いたことだ。中々趣向にとんでいる」と言われて解文は手元にお取りになった。
 (清少)「返事は、いかがいたしましょうか。この餅絵を持ってくる場合、物などを取らせるのでしょうか。知っている人はいないのでしょうか」と言うのをお聞きにまって、(宮)「惟中の声がしているようだが、呼んで問うといい」と、のたまうので、部屋の端に出て、(清少)「左大弁に、聞きたいことがある」と、侍に呼ばせたところ、極めて礼儀正しくやって来た。(清少)「正式なことではなく私事なのです。もし、左大弁や少納言などのもとに、このような物を持ってくる僕などへ、何かを取らせるものでしょうか」と問うと、(惟中)「そのようなことはしません。ただ受けとって食べるだけです。なにゆえにそのようなことを問われるのですか。もしや、上官の誰からか貰われたのですか」と問うので、(清少)「そんなことありません」と答えて、返事を非常に赤い薄紙に、(清少)「自分でもって来ない下僕は、とても冷淡な者だとみられてしまうでしょう」と書き、目出度い紅梅を付けて差し上げると直ぐに、いらしゃって、(行成)「下僕が参りました。下僕が参りました」と、のたまうので、出てみると、(行成)「あのような手紙なのに、軽くあしらわれて返事されるかと思っていたのに、立派にお詠みになって寄越された。女の少し教養を鼻にかけたひとだと、歌を詠みたがるものですが。そんな女じゃない人の方が、話しがしやすく良いものだ。私などに歌など詠むひとは、かって心なき人である」などとおっしゃる。則光のようなことをおっしゃると、笑い話になったことを、帝の御前に人々が大勢いたのだが、行成が語り申しあげたところ、(帝)「よくぞ言ったものだ」と、おっしゃった、と、他の人が私に話してくれたのだが、見苦しい自慢話のようで、どうしようもない。
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