第4話 HIPHOPクラブ

文字数 8,065文字

 札幌に支部のある通称『HIPHOPクラブ穴蔵(アナグラ)』はおれにカジュアルな秘密結社を連想させた。

 レイブン・レコーズで今日知り合ったラッパー、”ナックル”に誘われて、おれはこのカルチャーの溜まり場に足を踏み込んだ。

「おれはこのカルチャーに精通していない」

そう砂依田に言っていたおれを、ナックルは意外に思って見ていたらしい。そして、「なんなら、イイところに連れていってやるよ」という運びになった。

 ヒップホップ・カルチャーはニューヨークのブロンクス区が発祥だったはずだが、多くの外来文化と同様に、日本国内に流入してきて独自発展の途を歩む。

 坂本龍馬が着物姿の足に革靴を履いたようなことが、いつの時代も起こりうるし、逆に日本製サブカルチャーがハリウッドに伝来し、そこで亜種の映像作品として生み出されて、大成功したのも2000年ミレニアム期の印象深い記憶のひとつだった訳で、その手のミーム(MEME)の海洋貿易が幾度となく行われてきた。

 ”黒人文化をお前ら日本人がナンチャラ”、などという意見の背景には、発言者個人の偏見や世代間ギャップを埋められない年配者の悲鳴がその根底をなしているものだが、それはロックやエレキギターが伝来してきた時期にも叫ばれた同様の動揺だと解釈が成り立つが、果たしてどうよ。

 ヒップホップ・カルチャーの新参者でしかないおれが言えることはあまりないのだが、この国には例の如く”丘サーファー”のような連中はいつもの通り存在し、『サーフィンを全くしていないのだがサーファー姿で女を引っ掛けるためだけの、見てくれは一見サーファー』、みたいな奴らも勿論ヒップホップ界隈には確認される。

 だがその一方で、日本製ヒップホップを真剣に構築していこうとする姿勢の勢力も当然のように存在していた。

 おれはまだ部外者なのだが、ライムを本気でやっている部類であったために、『HIPHOPの穴蔵』の入り口をなんなくパスされ、ナックルの後ろについて行きながらフロアへと招かれた形だ。

 それもかなり深部の方まで進んでいった。

 彼らと同じく韻文をやる帯広のライマーは、この結社の『マイメン』と仲良く交流することが可能かどうか。

 ___少なくとも彼らはおれを招き入れてくれた。

 それで、おれが世に言う”ラッパー”と遭遇して感じ取った印象は、ライターであるという側面よりも、音楽人であるという姿だ。自身が楽器となって機能する喉を持っている。
 ライティングからボーカル、パフォーマンスまでもが出来ていて、はじめて成り立つ職業。どれかが出来なければ誰かの作詩役になったり、曲を用意されるアイドルの装いになってくる。

 吐き出す言葉は必ず自分自身でライティングし、自らが実際にパフォーマンスしていく形をとる。それらは各自の”フロー”として認識され、しばし創作する者にとって、自身の作品が存在証明に直結するのと同じ構図となる。
 またMCともなると生み出される作品のみならず、本人がリアルタイムに生きている軌跡、その存在のライヴ感、活動期そのものさえ、ある種のパフォーマンスとして成り立ってくる。

 DJが鳴らすミックスが重低音のビートに変わる。フロアにそれが響き、おれの腹にも響いた。

 ナックルは踊る人混みの合間を縫って進み、おれはその後に付いていく。すれ違う女子から香水の匂い、男の髪からは整髪料の匂いがする。ナックルが立ち止まって振り向く。

「アキアス、お前のリリックは結構イケる。あれをさっさと上手く、その口から吐き出せるようになっちまったほうがいい。いずれその部分でお前はくすぶることになるから」

「おれはいいもんを書いてるのか?」素直に判らなかった。

 ナックルは頷き、
「ああいいよ。踏み倒してるし、思ってもみないような箇所でライムしてんのが特徴的だよな。ただビートに合わせる際には調整が必要だけど。ライムスキルは格段にいい。それは俺が保証する」

 おれたちは一番奥にあるソファにどかっと座り込んで身を沈めた。

 おれは肩をすくめる、
「要するにあんま出来てないってことだ」

 そのテーブルにはナックルの仲間が既に座っていた。「今は駆け出しだからいい、最初から出来る奴はあんまいない」

 四人の仲間がいた。まず大学生の青年でトラックメイカー。女性ボーカル。そしてソロでやっているラッパーの男が二人だ。ナックルがよく一緒に飲んでいる同業者らしい。

 薄暗いフロアの一角で酒の乗ったガラステーブルを囲み、ナックルとその仲間たちと知り合った。くつろいだ雰囲気の中にあっても、”俺らの音楽をこれからどうしていくよ?”、というアーティスティックな熱量を帯びた集まり。

 おれたちは互いに話すべきことがあった。

 おれはボーカル・パートの自分の困難さを打ち明けた。声周りに難がある。逆に言えばこいつを克服してスキルを習得するってのが、いわゆるトリガーに成り代わる。
 つまり、いったん『声』を手にしてしまえば、この充填された”エクストリーム・ライムズ”を次々と世界にぶっ放して、風穴を開けてやれるだろう。

「君は何者?」

女性ボーカルが聞いてくる。”帯広のライマー”だと答えた。まだラッパーだとは名乗るわけにはいかない。”ライマー”だなんて中途半端な区切りは、彼らの世界には無い。
 皆が「何だそれ」といった顔をしていた。
 おれはライムを書いていて、韻文の詩人を一時期目指していたのだが、それでは創作が完遂しないのでラッパーをするかもしれないんだ、と説明する。

「レイブン・レコーズの砂依田 圭史に、今後どうするか保留されている。まだ契約されていないけど」

 おれの口から砂依田の名前が出たことで、彼らは一斉に反応を示した。

「それはスゲエことだけど、あいつはマジ曲者だからな」

 ソロラッパーが言う。ナックルも今日の事務所での出来事を思い出して、イラついているのが顔に表れた。

 脚をテーブルに投げ出す。

「名将だよ。ムカつくけどな。あれは名将___」
「なんだかんだあっても認めてんだな」おれが笑う、「元はどこかの大手にいたとか聞いたが」
「そうだよ、大手のレーベルにいた。エクスポータル・レコーズ。だけど、そこで一悶着やって離脱してきたとか言ってたな。エクスポータルはケイシーを元の鞘に戻そうと契約金を提示してきているが、奴にその気がないらしい。レイブンみたいなインディーズにいるのは、本来ならば不釣り合いな男なんだ」

 砂依田が札幌のインディーズ・レーベルに来てから、まだ一年も経っていないと聞いた。ナックルは元々、レイブンの常連ラッパーなので、奴から見出されたわけではないようだ。
 だが砂依田がプロデュースをする気には一応なっているから、全くの見込み違いでもねえはずだ、とナックルは言う。

「あいつは全然リリックを良しとはしないけどな。まあ実際スランプではある」ナックルは頷く。「全然身の入ったリリックが書けていないんだ。それはもう結構長らく、って感じだな」

「おれはまだそういう状態になったことがないな。いくらでも出てくる。書きたいことは」とおれは応える。

 そしてしばらくは、取り留めもない雑談をしていた。

 ナックルには意外にも子供がいるらしいことが分かったし、トラックメイカーの大学生はアディダスの新調したシューズを自慢したり、ソロラッパーは付き合っている女がメンヘラだと打ち明け、女性ボーカルは筋トレとクライミングの趣味の話を、おれは地元がどういう街かという質問に答えたりしていた。おれもこの空間にすっかり馴染んできた。

「さっきから水ばっかりかよ。色のついたやつも飲むよな?」

 おれの横に座るナックルがそう言って、ビールのピッチャーを寄せてきた。おれはガラスの小さなボールに入ったミックスナッツを引き寄せる。稀にカシューナッツと胡桃の破片を発見できた。

「アルコールに耐性がないから飲まないことにしてるんだ。おれはアセドアルデヒドの分解が得意じゃないっていう、アレ」

 色のついたやつを何か欲しいと言うと、クラブの店員の子に勧められて、オレンジ色をしたオレンジジュースを貰うことになった。
 テーブルの上にはリキュールにカクテルグラス、ビールジョッキと母艦であるビールピッチャー、ならびにオヤツなんかも並び、その横には音楽雑誌がある。それに目が留まった。

「奴だな、それ」

 おれは胡桃を持つ手で指した。チェインスネアが表紙を飾っている『AIM LOCK10月号』だ。ナックルはニヤリとした。

「さっきまで、チェインスネアのインタビュー記事を読んでいた。あの男を研究するのはかなり有益だよな。参考にしてんだ」

おれはカシューナッツを頬張る、
「マジで」
「ああ、俺が尊敬しているのは彼だけだ。アキアスは?」
おれは肩をすくめた、
「正直、誰であろうと他人は、おれには関係ないかな。結局自分の言いたいことをライムするだけだし」
「メインストリームのアーティストを参考にしないのかよ」
「それは売るためにってことか?」

ナックルは背もたれに沈んで腕を組み、「俺は売れたい。なんとしても」と言った。

 おれはしばらくミックスナッツのボールをかき回していた。
 そして、むしゃついた後で自分の考えを整理しつつ、やんわりと言う。

「まあ普通はな」

ナックルが怪訝そうな顔をする、「違う場合って何だよ?」
おれはミックスナッツの探索を終えて、手をほろった。

「創作ってのは本来、___」
おれは正直に考えを打ち明ける、
「商業とは関係のないものだと感じる。ただ現代では創作と商業的な実利は結びついているのが普通にはなっている。でも、ただそれだけだ。おれはそれに沿うつもりはないし、やりたいようにしかできないしな。市場の動向やマーケティング、流行り廃りから弾き出された作品に、普遍性は宿ってくれないのが世の常だ。それはもうみんな気づいていることだ」

 おれは野望に溢れている彼らの視線を浴びた。

「___だからまあ、求められるものを出す、自分自身の衝動よりもユーザーの要望に応えて、とかなんざは全然やる気が起きない。おれは商業的な効率や合理性を意識すると、創意が消失する体質みたいだ。このフィールドで上手く立ち回れなくなっちまう。自分が本当に作りたいもの、そいつを作るってことでないと、創作する本来の動機そのものが消えちまった状態になる」

 彼らはしばらく黙っていた。そして傍にいたトラックメイカーが、おれに言ってくる。
「でも認知されない作品は、完成していても”ゼロ”にはならなくない?」

「例えそうだとしても」おれは頷く、
「評価以前に作品そのものが”作れなくなってしまう状態”ならば、それもまた”ゼロ・クリエイト”になっちまう」

 女性ボーカルも言う、
「じゃあ、君って誰の影響も受けてこなかったの?」

 ナックルも知りたそうにおれを見た。少し考えてから、おれは応える。

「優れたクリエーターの姿勢には影響されてきた。それはライムの書き手に限らず、フィクションでも何でも、ジャンルをまたいで常にそうだった。おれは彼らに影響された結果、この認識を強くしたんだ。つまり自分の追求したい表現をしていくことが最良だって」

 テーブルの上のグラスたちが想い想いに光を反して輝いている。
 ステージの上に立っているみたいに。
 テーブルを囲むナックルたちは、そういう夢を見ている。

 だがおれは、輝く時だけがステージだとは思わない。

「あくまで、自分が作りたい創作をする。それで食えないってことなら、他の仕事に出るだけ。創作時間を犠牲にして金のために別の仕事をしているのではなく、自分の創作を守るために他の仕事をしているって解釈だ。逆に金のために自分の創作のほうを調整する、っていう最近の考え方のほうが有り得ねえ感じがする。おれはな」

「マジか」ナックルは仲間たちに言う、

「思い出したんだけど、アキアスって8時間のフルタイム以上で働いてんだぜ? しかもガチで土方仕事なんかをしてる。俺には考えられねえ。だって音楽活動があるだろ?」

ナックルは自信に満ちた感じでこう結ぶ、

「俺はなるべく関係のない仕事はしないで最低限に抑える。ラップが俺の夢であり最大の目標だから、可能な限りの時間をラップに回す、って選択になる」

 おれはチェインスネアが表紙の『AIM LOCK』に手を伸ばしてパラパラめくる。めくるめく華やかな業界の常連たちは想い想いに自身の魅せ方を展開しているフォトの数々。

 ___あるいは”売り方”を展開しているのだろうか、おれにはその辺あまり判別がつかなかった。それらは同じものかもしれないし、単に混ざっているのかもしれない。

 酔いがそれぞれ回り始めた頃、一人のラッパーが言った。

「__でもよ、なんでそんな詰め込んだライムが書けるんだ?」
 それを聞いた他の連中が吹き出した。どうやら皆それを思ってはいたんだが、”言わずにいた”らしい。

「関係あるかどうか分からないんだけど__」

 自分の事を考える。

「おれには少々難読傾向がある。いわゆる活字を読むのが遅いほうで、今はまだマシになったけど、小学校の国語の授業で音読させられるのはマジで嫌いで出来なかった。当時は悩んだもんだったけど、ディスレクシア(難読症)のクリエイト系の連中は大勢いるようなんで、気にならなくなった。それでもやっぱ今でも読むのは得意じゃない。もっと言うと、おれは文字列を見ると順不同で読んでしまうことが子供の頃からよくあった。5回に2回はパッと見で読み間違えてる。カタカナが特に多い。例えば、ガテン系の現場では、”ユニック”って名のクレーン車がよく使われてるけど、___製造元のメーカー名であって、厳密には車両名じゃないが、そう呼ばれてる___あれに2本足みてえなものがついていて、ブツを吊った時にその重量で車体がひっくり返らないように踏ん張るための油圧装置だけど、あの『アウトリガー』って表記を見ると、おれには『ありがとう』にしか見えない。アナグラムするとそうなるから。そういうことがよくある」

 ラッパーたちは、おれのハンディキャップっぽい側面を意外そうにして聞いている。他にもいろいろと思い当たることを並べてみた。

「ライムは元々、書き始めの時からスイスイ書いていたし、回文もやってみたら簡単にできた。ある時、寝転がってウトウトしてたら、『ミク踏み絵に笑み含み』って言葉がドカンと降りてきたんで、何かと思って紙に書いてみたら、実は回文だったってこともある」

 ナックルは身を乗り出してきた。

「___それと、これはある時まで全然自覚してなかったんだけど、おれは自分の書いたテキストを、別の場所に離れた後も頭の中で復唱していることが頻繁にある。自分では無意識に日常的にやっていたせいで自覚するまで、”おれ何やってんだコレ?”、と思ってすらいなかった癖だ。それは一語一句も間違えずに、そのまんま自分の書いた長文を復唱してんだな。音楽聴きながら歩き回って、延々と一時間、二時間、場合によってはもっと長い間、頭のなかで思い起こしては繰り返しループして、”ここのデキがいい”とか、”読んだ人がこの文脈に差し掛かった時、こう想起するよな”、ってのを理解しながら、気持ちよく歩き回っているわけだ」

 おれは宙を仰いだ。

「___考えてみればかなり普通じゃねえよな。自覚してなかったけど、普段からこういう事をしょっちゅうやっていたらしい。あるいは新しいライムなりテキストなりの着想があると、雪崩のように言葉が押し寄せて来て、それを、例えば車を転がしながらとか、買い物しながらとかに、一気に”好ましい順で展開させて組み立てている”こともよくある。同じ意味合いの単語でも、どれを使うべきかってのをおれは何だか理解しちまってるというか。___言葉の選択によっては、人の感じ方がキャベツとジャガイモ程も違うってのをおれは分かっている。___一番効果的な組み合わせ方と展開の仕方を見つけられるんだよ。割とすぐに。多分おれの書いたものを読んだ人が想像しているよりも、おれは簡単にそれをやっちまってる状態」

「比喩は?」ナックルが聞いてきた、
「お前の比喩は、かなり異質感漂いまくり」

「比喩というか、言葉選びがヘンなんじゃないか?」
 おれは考える、
「なんていうか、難しいんだが・・、例えば今、誰かを挑発しようとなると、こう組み立ててみる。『前座みてえにして、おれの上に座りやがったら、おれの高水圧スパニッシュが、お前のその水戸を直撃して、お前は殺されることになんだぜ?』__みたいな」

「何だって?」皆が驚いた。

 おれは説明する、
「違う意味の言葉だけど、語感が似ているとそっちを想起することもあるよな。『前座』と言った後で『上に座りやがったら』と繋げると、『便座』を人は想起する。その後で『高水圧』とか言ってやれば、『水洗便座』を思うだろう。『スパニッシュ』ってのはどういう意味のカタカナなんだか、おれは厳密には知らないが、それも語感の勢いで”そういうもの”だと伝わってしまう。この流れのまま『水戸』ってワードをぶち込んでやると、『肛門(こうもん)』だと分かる。___みたいな具合か」

 おれは自分のこの可笑しな感性を、改めてどういうことかと思い巡らせながら考え込んだ。その横でラッパーたちは、ウケている。
 ナックルの足に当たってひっくり返ったリキュールのグラスを店の人は拭いているし、隣りのテーブルで酔っていた全く関係のない剣客らもこっちに来て、”おいおい、どうした?”、となりつつあった。

 おれは帯広に戻る時間になり、往復券のことをナックルに思い出させる。ナックルは、別に月曜までに帰れば良くねえか、アキアスと言う。酔いで気分がちょうど良い回転数になっている仲間たちも賛同するが、自分のグラスを煽ってオレンジジュースをカラにした。

「明日はまだ土曜だから、おれらは普通に仕事があるよ」
 脱いでいた上着を取って肩に引っ掛けた。
「新しくできるセコマの駐車場を舗装しなきゃならない」

 ナックルは納得がいかないという素ぶりを見せた。
「仕事なんか場合によっちゃ休めよ。ラップに専念すべきだ。お前の目標もラップだろ?」

 おれは思いがけずに少し笑った、
「なんか懐かしいな、そういう気持ち。すげえ分かるんだよ。___ってのも、以前はおれもそう思っていた。だけど、時間の全てを作詩に回したからって、いいライムが書けるわけでもなかった。それは実験済み」

 おれは立ち上がって彼等に言う、

「一見すると無関係と思える言葉を関連させる。おれたちは”アルプス”と”シナプス”をライムさせるよな? 片や山脈の名前、片や脳の代謝物。かなり互いにかけ離れている。だけど例えばそうだな、___”おれはドープな民族、ドーパミン。アルプスばりに連なるシナプス”。みてえに繋げていくわけだろ、つまり___」

 おれは確信を持って言う、

「創作活動とは一見無関係に思える土方仕事、それですら自分のクリエイティビティと結びつけるんだ。全ての物事には必ず隠し扉が付いている。それに気づく奴らは扉を開け、経験した物事から何かしらを引き出して糧にして、自分自身の補強材や武器に変えちまう。___ライミングのあのアクロバットな形式を、人生に適応させるみたいな格好で。おれらはライマーだ。この手の技術が、やたら高い」

 いずれ近いうちにまた、そう言い、連絡先を交換し合って彼らと別れた。

 出口に向かう途中、カウンターに座っていた二人の女子が笑いかけてきた。おれはフロアをもう一度振り返って見る。
 HIPHOPを愛する者たちの熱が充満するようなフロアに、まだ名残惜しい気持ちが湧く。

 地下のHIPHOPクラブから抜け出して地上にあがった。

 駅に向かう道すがら、通りはうっすらと新雪が積もっている。
 おれはそれを最初に踏んで歩いた。
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