ガイコツ3

文字数 1,257文字

 「吉竹です。南海トラフは活動期に入っています。今、まさに揺れだしてもおかしくない状況です。しかし、日頃から災害に対する情報をしっかりみなさんと共有できたら、最小限の被害で済みます。津波の最大の高さは黒潮町で三十メートルを超えると予想されます。三十メートルと言う高さは、小学校にある二十五メートルプールを縦にしたより高いのです。その水の壁が町を薙ぎ倒しながら向かってきます。家も、車も飲み込まれてしまうのです。家の二階にいても意味がないと言えるでしょう。ですが、津波到達までは三十分以上かかります。それまでに高台、指定避難場所に、振り返ることなく逃げることが大事です・・。」
 真人は、毎日のようにテレビやラジオで大惨事の予告を聞かされて、いつも不安になる。あんなに穏やかな海が、凶暴になって殺しに来る。たしかに、海で遊んでいた際に、波に翻弄され立っていられなかったことがある。水が身体中に覆いかぶさり、巻きつき、陸に戻ることを邪魔する。確かにあれは怖かった。自分の力では海には敵わないことがよく分かった。だから、海には行かない。目の前にあるのに、入ろうとは思わない。海水が形を変えて、命を奪いに迫ってくるようにしか思えない。真人の父、義政はキンメダイの漁をしている。だから船で沖に出る。その姿を見送るときは、勇敢にも見えたし、二度と戻ってこないような心細さも感じる。
「積み込みお願いします。」
出荷準備が整った。真人はガムテープを両手で持って、ドライバーがトラックに奈半利のお野菜便を積み込む様を見ている。その間もラジオから「・・到達すると」「・・避難場所に持っていくものは」などの災害予言とその対処が垂れ流されている。真人は、災害が来て、街がなくなるのに、みんな死んでしまうのに、こうやって野菜を詰めて全国に送り出していることが、現実的に感じられない。
 (もうすぐ、津波がやってきて、家も畑も全部無くなってしまうんだ。)
 真人は、海に散歩に行ったり、野菜を箱に詰めて出荷する暇があるのなら、焦って、もっと安全な街に引っ越すことが大事ではないかと考えたりもしたが、違う街に、家族みんなで住むことが、どうしても想像できなかった。
 小さな真人の目の前には、みんなが住む家がある。大きな古い平家、太い梁は、黒く煤けている。あちこち修繕して、そこだけが新しくなっているが、天井や柱は百年以上の時間を耐えている。家を取り囲む石垣は、手頃な石を隙間なく積み重ねたもので、部分部分は不揃いだが、しかし、天端には瓦が設てあり、高さは揃っている。立派な石垣は家屋と同じく、百年以上の歴史を耐えている。奈半利には、昔からの建物が残っている。街道の名残もある。その組み込まれた広い帯のような時間軸に身を置いていることに真人は、なんとなく気がついていたし、だからこそ、ここ以外での生活が想像できなかった。
 「ほんなら、よろしゅうねがいます。」
 陽子がドライバーに言うと、ドライバーは何も言わず、右手をちょっとだけ上げてトラックに乗り込んだ。
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