ガイコツ8
文字数 1,172文字
暗く沈んだ様子で帰ってきた直人、慎太郎は匂いに気がつき、直人の頭にそっと手のひらを乗せると、外に出るように促した。直人は黙ってついていき、慎太郎は庭で直人にホースから出る水をかけた。
「直人、すまざった。」
慎太郎は謝った。直人は、それが当然だと思った。慎太郎は直人のズボン辺りに水を散々かけた後、自分の顔に水を浴びせた。
「樹里さん、すまざった、直人をずぶ濡れにしてもうた、タオルを持ってきて!」
樹里は昼から内緒で飲むビールで足をふらつかせながら、赤い顔をタオルで隠しながら縁側に向かった。樹里は酔っていたが、直人に起こったことをなんとなく察した。直人と慎太郎が立っている庭は、撒かれた水が強い日差しで、すぐに干上がりそうになっていた。縁側の樹里の背中には、古い日本家屋の湿った薄暗さ迫っていた。樹里は探検に出かけるように、直人の着替えを探しに、薄暗さの中に入っていった。
平穏であるかのように山本一家は、食卓に並び、ご飯を食べ、酒を飲み、風呂に入り、テレビを見たりして、いつもの一日をなぞろうとした。行動は平穏な毎日そのものだったが、心の中の世界は終わっていた。
息子が、孫が、幼稚園で惨めな思いをして悲しんでいる。
取り囲む四人の大人は、元の状態に戻すためにはどうすればいいか、なんでこんなことになったのか、なんで直人が酷い目にあわないといけないのか、といくら考えても答えが見つからない迷路に迷い込んでいた。直人は「おやすみなさい」と小さな声で言って、布団に潜り込んだ。それから一時間して、四人が議題があるが、解決できない問題の会議を酒を飲みながら、泣いたり怒ったりしながら始めた。
直人は寝付けないでいた。暗闇だが、今日は月が出ていて窓の外が明るかった。青白い光が庭の柘植の葉を白く照らし、垣根の古い瓦の輪郭をはっきり映し出していた。それだけで眠れないのに、幼稚園での屈辱が頭の中で繰り返され、春香先生の裏切りに怒りがたぎり、襖の向こうから聞こえる家族の言い争い、怒号、泣き声が嫌な気持ちを増幅させる。直人は布団を跳ね除け、窓際に立ち、月に向かう。白く輝く月は、太陽のそれとは逆で、冷たく、孤独だった。直人は、そんな月をもっと近くで見たいと思った。
直人はそっと家を抜け出す。縁側にあるゴム草履を履いて、月が輝く方へ足をすすめる。街灯なんてほとんどない田圃に囲まれた家から、外に出ると普段なら真っ暗で道が見えないが、今日は月が白く輝き、地球に敷かれたアスファルトが銀色に輝いている。振り返ると、直人の家の明かりが見えたが、それ以上に自分の影が銀色のアスファルトに写っているのが面白かった。影を見て孤独がました。
「そうだ、ガイコツザウルスに会いに行こう。」
暗闇で小さな決心を口に出す。その途端、月の輝きが増したような錯覚があった。
「直人、すまざった。」
慎太郎は謝った。直人は、それが当然だと思った。慎太郎は直人のズボン辺りに水を散々かけた後、自分の顔に水を浴びせた。
「樹里さん、すまざった、直人をずぶ濡れにしてもうた、タオルを持ってきて!」
樹里は昼から内緒で飲むビールで足をふらつかせながら、赤い顔をタオルで隠しながら縁側に向かった。樹里は酔っていたが、直人に起こったことをなんとなく察した。直人と慎太郎が立っている庭は、撒かれた水が強い日差しで、すぐに干上がりそうになっていた。縁側の樹里の背中には、古い日本家屋の湿った薄暗さ迫っていた。樹里は探検に出かけるように、直人の着替えを探しに、薄暗さの中に入っていった。
平穏であるかのように山本一家は、食卓に並び、ご飯を食べ、酒を飲み、風呂に入り、テレビを見たりして、いつもの一日をなぞろうとした。行動は平穏な毎日そのものだったが、心の中の世界は終わっていた。
息子が、孫が、幼稚園で惨めな思いをして悲しんでいる。
取り囲む四人の大人は、元の状態に戻すためにはどうすればいいか、なんでこんなことになったのか、なんで直人が酷い目にあわないといけないのか、といくら考えても答えが見つからない迷路に迷い込んでいた。直人は「おやすみなさい」と小さな声で言って、布団に潜り込んだ。それから一時間して、四人が議題があるが、解決できない問題の会議を酒を飲みながら、泣いたり怒ったりしながら始めた。
直人は寝付けないでいた。暗闇だが、今日は月が出ていて窓の外が明るかった。青白い光が庭の柘植の葉を白く照らし、垣根の古い瓦の輪郭をはっきり映し出していた。それだけで眠れないのに、幼稚園での屈辱が頭の中で繰り返され、春香先生の裏切りに怒りがたぎり、襖の向こうから聞こえる家族の言い争い、怒号、泣き声が嫌な気持ちを増幅させる。直人は布団を跳ね除け、窓際に立ち、月に向かう。白く輝く月は、太陽のそれとは逆で、冷たく、孤独だった。直人は、そんな月をもっと近くで見たいと思った。
直人はそっと家を抜け出す。縁側にあるゴム草履を履いて、月が輝く方へ足をすすめる。街灯なんてほとんどない田圃に囲まれた家から、外に出ると普段なら真っ暗で道が見えないが、今日は月が白く輝き、地球に敷かれたアスファルトが銀色に輝いている。振り返ると、直人の家の明かりが見えたが、それ以上に自分の影が銀色のアスファルトに写っているのが面白かった。影を見て孤独がました。
「そうだ、ガイコツザウルスに会いに行こう。」
暗闇で小さな決心を口に出す。その途端、月の輝きが増したような錯覚があった。