チェンジ6

文字数 1,271文字

和也の若い頃は、たまたま逮捕されなかっただけで、器物破損、恐喝、窃盗、強姦と自分の欲求を満たすことに情熱を注いでいた。夜の街で、千鳥足の女性に声をかけて、そのままホテルに行くこともあれば、車に女性を引っ張り込んで、順番(和也が一番先)で強姦なんてこともあった。前世紀の事だし、当時はそれが普通だった。朝になると服がボロボロの女の子が呆然とした表情で公園のベンチに座っていたり、湯布院行く途中の山に捨てられた女の子が泣きながら山並みハイウェイを歩いて帰る姿も稀にあった。別府という温泉街の夜は、いつまでも、どこかに灯りが灯り、あちこちに酔っ払いが転がっていた。そんな当時を振り返ると、日頃から、もし、自分の子供たちが自分のように悪事に手を染めても、怒る権利は無いように思っていた。
だが、子供たちが、そういった無秩序な悪党にはなってほしく無い思いもあった。だから、愛菜が管理者がいる安全な場所で体を売り、金を稼ぎ、一方で、龍一がバイトで稼いだ金を払って落ち着かない性欲を解決している様子を知れて、微笑ましい気がしたし、その二人がお金という一線がある欲望の場で出くわしたことに、馬鹿馬鹿しいが、安心して笑えた。もしこれが、龍一とその仲間が、夜の公園で集団レイプして、挿入している最中に、愛菜だと気がついたとかだったら最悪だろう。それは人間のやることでは無い。
和也は知っている。一線を超えた記憶は、穏やかな日々に不意に脳裏に点滅のように現れ、全てを台無しにしてしまう。そうなったら、無力な無表情を浮かべ、その当時の世間や被害者ではなく、今の自分に対して、申し訳なく感じてしまう。何をやっても、どんな良い行いをしたとしても、所詮、自分はどうしようもない悪党だったのだ。と諦めることしか出来なくなる。あの砂を噛むような無意味を、子供たちが感じることなく生きてほしい。
「陽子、ビール持ってきてくれ。」
「・・うちも飲みてえ。」
「好きにせえ。」
和也は陽子のグラスにビールを注いでやった。陽子はグラスを顔の前で少し持ち上げて、和也に敬意を表すような行動を取ると、喉を鳴らしてグラスのビールを一気に飲み干した。苦味と冷たさが喉を冷やして、腹の奥まで染み渡る。そこでようやく陽子は顔を緩めた。和也の方をじっと見る。和也は、陽子のおかげで子供たちがまともに育ったのだと思った。
「陽子、あの二人、根は悪うねえ。誰に迷惑かけた訳っちゃないし、訳わからん所に落ちた訳や無え。お前は母親として立派や。ありがとう。」
陽子は勝手に和也に対して、底の無い優しさを感じた。子供たちの醜態に最悪な気持ちだったが、確かに、誰かに迷惑を掛けた訳では無い。私は悲しかったが、別に兄弟でそうなった訳ではなく、未然に防ぐことは出来ている。龍一も彼女がいる訳でないから、バイトでお金を貯めて、溜まったものを出しに行っただけだし、愛菜も・・いや、愛菜はダメだろう。まだ結婚してないのに、いや、結婚したらもっとダメだろう。遊女、売春婦、売女、風俗嬢ってことになれば、それは訳があって仕方なくする仕事だ。
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