ガイコツ1

文字数 1,126文字

ガイコツザウルス(高知県奈半利)

 太平洋に面した小さな町、奈半利。海と山に挟まれていて、大きく無い田畠、古い家並み、低い建物ぐらいしかない中に一際大きな建造物がドンと構える。それはまるで大きな恐竜のようにズシリとそびえ立っている。海から吹く風が吹くたびに複雑な風切り音が金属の骨格のみの構造物の中で複雑に反射して、奇妙な「ギャワワワワ」と雄叫びをあげる。六歳になる山本直人にとっては、とても巨大で、不気味で、しかし、とても大きな力を持った存在に見える。
 「ありゃ、まっこと高いきに。」
 現役の漁師である祖父の慎太郎は、日に焼けた顔に皺をさらに刻みながら孫に説明する。目を細めているので笑って説明しているようにも見えるが、直人は慎太郎が笑ってないことを理解している。慎太郎は分かりきったことを繰り返すように言葉に変える。だから嘘を言わない。直人は、大人が笑いながら話すことは冗談か嘘であることは幼年者ながらしっかり理解していた。
 「じいちゃん、高いがはわかっちゅう。やけんど、そりゃ、大きさのことかや?」
 「そうや、やけんど、あれは値段もこじゃんと高いんよ。」
 「どればあ高い?」
 「奈半利駅ビル三つ分。」
 慎太郎が指差す先に、高架線の終点駅である奈半利駅。街に似合わずコンクリート打ちっぱなしの近代的な建物である。一階にお土産売り場があり、二階の改札口と同階にレストランがある。世間的には駅ビルとは言えないが、奈半利からほとんど出たことない慎太郎にとっては、駅舎はビルと認識される。直人も奈半利駅がビルとは思ってない。なぜなら、そこから少し離れたところにある、今、慎太郎と見ている恐竜のような鉄骨の建物の方が大きくて立派だからだ。あんな駅にビルという呼び名は付けてほしくない。奈半利で一番大きくて、一番値段が高いのは、あの鉄骨の建物、ガイコツザウルスに違いないのだから!しかし、直人は慎太郎の返答に満足していた。自分が憧れるガイコツザウルスには駅が三つ買えるほどの価値がある評価を聞けたからだ。「ガイコツザウルスは絶対すごくて、すごいんだ!」得意満面の真人を見て、慎太郎は理解できなかったが、孫が話を聞いて喜んでいるという事実だけを追いかけた。
 「プッ、十四時になりました。津波警報のテストを行います。」
 唐突な音に鳥がざわめき飛び立っていく。有線放送が町中のスピーカーから前置きを放送する。真人は予告に身を竦める。嫌な音が始まる。
 ウーーーーーー
 頭を締め付けるようなサイレンが低い空を覆うように駆け巡る。胸の辺りが不安でざわめき、せっかくの初夏の太陽の光が、目を突くような眩しさと、ひり付くような熱だけを強くして、恵みである暖かさを奪われてしまう。
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