明るい 7

文字数 1,314文字

振り返ると柳田は高架下の商店街のシャッターを開けて出てきた。いつ、どうやって道路を渡ったんだろう?どちらにしても、追跡者が現れたのなら、逃げるしか選択肢はない。俺は必死な顔をしているに違いない。足は絡まるほど回転して、明るい景色は飛ぶように消えていく。しかしながら、白昼堂々、大通り沿いをヤクザに追っかけられる俺を見て、通りにいる誰もが助けようとしない、関わろうとしない、それどころか見ようともしない。スマホでこっそり撮影する人もいない。無視は意思表示に違いないが、ここまで連帯した意思表示を街中がするなんて、どうかしている!
三ノ宮駅前に着いた。駅に入ろうとしたが、駅の方から人が溢れ出てきた。流れをかき分けて進むことができないほど密度が高い。どこに居た人たちだろうか?立ち止まって迷ったが、仕方がなく駅には向かわず駅前を横切る。駅前ぐらいから背の高い建物が増えてきた。身を潜める影ができるはずだと思ったが、大きな道路、国道二号線が駅の正面から合流して、駅の先は十車線の本当に広い道路になり、さらに空からの光が降り注いでいた。こんなに明るい広い道路では隠れることはできないと、左の道に避けようとしたら、突如白いベンツが現れる。行き先を塞ぐように斜めに止まった。運転席の窓が降りると
「待てコラ!」
パンチパーマの柳田が乗っていた。あいつはいつ、ベンツに乗ったのだろう?車で追いかけられるとなると、歩道が自分の身を助ける場所になる。仕方がないので、横道にはそれず、二号線沿いの歩道をひた走る。大きな建物が増えてきたので、景色が過ぎる速度が落ちた。足は止まってないが、自分が止まっているような錯覚がある。柳田のベンツがマラソンの先導車のように大通りの端をゆっくりと追いかけている。
「待てーコーラ♪まあてコラー♪まーてーこおおらああ♪」
コブシを効かして歌ってやがる。だが、茶化した笑いはなく、真面目に歌ってやがる。もし、ここで足を止めて、白ベンツに向かえば、柳田は車から降りて走って追いかけるだろう。それも神出鬼没に驚かせるように追いかけるのだ。だとすれば歩道で八割の力で走っていた方が安全に違いない。もし、道路に出ればあのベンツは弾き飛ばす勢いで襲ってくるに違いない。ここは駆け引きだ。均衡を保てる間は、それを継続して、どこかのタイミングであいつを引き離し、逃げる。そんなのは、これまでの人生で何度も経験してきた。うまく逃げてきたんだ。タイミングの見方は、そんじょそこらの連中より長けている。自分を信じるんだ。
俺は一定の速度で走り始める。柳田も速度を合わせてきた。俺は徐々に足のスライドを小さくする。ベンツが横に並んだ。その隙に逆に切り返し、三ノ宮駅に急いで引き返す。片側五車線もある道路で車は切り返せないし、逆走もできない。柳田は次の信号まで急いで、こっちに引き返すしか方法はないが、それだと時間がかかるだろう。俺の勝ちだ。
だが、振り向くと太陽を見ることになる。それは真上に位置したが、さっきまで姿を見ないで済んでいたが、背中でなく、体前面で光を浴びることになった。熱い光線が体の芯まで到達するように感じる。これでは隠し事はできない。
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