【審判の日前日】監禁

文字数 3,001文字

平林梨奈が目を覚ました。しばらくまばたきしていると、そのうちぼやけていた目の焦点が合った。
暗い部屋だ。向かいに木製の椅子が置いてあり、誰かが座っている。
梨奈は同じ素材と思われる木製の椅子に縄で括り付けられていた。
身動きが取れない。

気を失う前、黒いローブを羽織った集団に取り囲まれ、黒いハンカチのようなものを当てられたことを思い出した。

(・・・これって・・・まさか、誘拐・・・!?)

梨奈の全身を恐怖が覆った。

目の前の木製の椅子には、黒いローブを羽織った人間が座っている。その黒ローブ人間は、黄金色の十字架のネックレスをかけていた。
その不気味な姿に、梨奈の恐怖はさらに深まった。

「・・・平林梨奈さんだね」

十字架ネックレスの黒ローブ人間から重厚な男の声がした。

「先ほどは、突然クロロホルムを嗅がせてしまってすまない。
私は、浄化の絆で、十字架戦士(クルセイダー)と呼ばれている者の1人。浄化の絆の最高指導者 救世主(メシア)を守護する者です。
この黄金色の十字架のネックレスこそ、十字架戦士(クルセイダー)であることの証明であり、勲章なのです。
今から、十字架戦士(クルセイダー)の権限で、我々に弓を引いた男、ナンバー3を処刑し、君も処刑します」

梨奈の身体が硬直し、恐怖は限界まで高まった。

「・・・ジョ、ジョーカーのキツネとか、メ、メシ屋とか、来るサイダーとか、処刑とか、な、何ですか?それ?
なんで、わ、私を誘拐して、こんな、く、暗い所に閉じ込めるんですか?
しょ、処刑て、こ、殺すてことですか!?」

梨奈は、誘拐され、恐怖で叫びたい気持ちを必死に抑えつつ、ガチガチ歯を鳴らしながら、震える声で、十字架戦士(クルセイダー)と名乗る黒ローブ男に混乱しつつ尋ねた。

「ああ、立て続けにすまないね、まあ、簡単に言えば、君の友人、三澤隼人が我々に危害を加えたので、報復として、彼と、彼の友人の君にも、これから死んでもらうという事だよ、平林梨奈さん」

自分が殺される理由を要約して話されても、恐怖が消えるはずはなかった。
この黒フードは、自分の名前を知っているらしい。
隼人君が何の関係があるのだろうか?

「三澤隼人、ナンバー3について、私が知っている限りのことを君に話しておこう。何も知らずに殺されるのは、君にとっても心外だろうからね」

十字架戦士(クルセイダー)はそう言って、上野千鶴が平林桜子に話したことと、ほぼ同じ内容を、梨奈に話した。



「つ、つまり、隼人君は、そのSJプロジェクトっていう特殊訓練で暗殺術を学んだ殺し屋で、その先生の指示で、ターゲットを暗殺するのが仕事ってこと?」

「そうだ」

「・・・で、隼人君にリストを送っている先生が、あんた達、浄化の絆という悪い集団を、ターゲットに選んでいるっていう事?」

「我々が悪い集団かどうか、という話はさておき、まあ、そういう事だ。それなりの理解力はあるんだね」

話を聞いてきて、若干、精神状態が落ち着いてきた梨奈が十字架戦士(クルセイダー)から聞いた内容をそうまとめた。

「じゃ、じゃあ、最近ニュースでやってる、毒殺事件については、全部あんた達の仕業なの?」

梨奈が、今までの話を総合して尋ねた。

「そうだ、我々は、神の意志に基づき、救世主(メシア)の指示の下、人間達の浄化を行っている。我々がターゲットとして選び殺害している人間は、生きる価値のない無能なゴミども。我々が神の代理として浄化しているのだ」

自身が生まれる数年前、母親がまだ学生の時、悪い教祖が信者達に命じて、弁護士一家を皆殺しにしたり、地下鉄に毒ガスをばら撒いて大量殺戮を行ったという事件があったと言うのを、聞いた事がある。

ソレと同じような、頭のおかしいとんでもない奴らだ。

梨奈はだんだん怒りが増してきた。

(何よこいつら、ただの自己中で狂った人殺し集団じゃない。
そのA4用紙のリストを隼人君に送っている先生っていうのが誰かは分からないけど、こんな奴ら、確かに殺されて当然、自業自得だわ。
私が先生だったとしても、こいつらをターゲットリストに挙げるわよ。
自分勝手の理屈で勝手に人を選別して殺人を犯して、何様?
神様にでもなったつもりなのかしら)

梨奈がそう思っていると、梨奈の考えを見抜いたように十字架戦士(クルセイダー)が続けた。

「まあ、君のような、何も出来ないただのお嬢さんに救世主(メシア)の崇高なる理念は到底、理解出来ないだろうし、君のお友達であるナンバー3、三澤隼人がやっていることだって、我々と同じだろう。
都合の悪い人間をターゲットとして選別して殺害する。
我々が特別なわけではない。
太古の昔より人類はそうやって生き残ってきた」

「ふざけないでよ!
勝手な理屈で他人の人生を奪って良いわけない。
小学生だって分かることよ!
あんた達こそ、小学生以下の頭脳しかない無能なゴミどもよ!」

梨奈はたまらず十字架戦士(クルセイダー)を睨み叫んだ。

「その、あんた達、浄化の絆の最高指導者の救世主(メシア)って誰よ!
今まで聞いたこと全部、警察に、洗いざらい、ぶち撒けてやる!!」

すると、空気が凍りつき、十字架戦士(クルセイダー)は黙った。しばらく時間が経った。



「さて、これで話は終わりだ。入りたまえ」

十字架戦士(クルセイダー)が突然そう言った。

すると、梨奈の左側から、部屋の扉が開いて、ネックレスをしていない、黒ローブ人間2人が、人が1人入っていそうな巨大なバッグを担いで入って来た。

黒ローブ人間2人は、無造作にバッグを床に落として、バッグのチャックを開けた。

「・・・は、隼人君!」

バッグの中には、手榴弾の爆発で腕や額に大怪我を負って、気を失い、目を瞑っている三澤隼人が入っていた。

三澤は、両手を後ろ手に縄で縛られていた。

十字架戦士(クルセイダー)は木製の椅子から立ち上がり、黒ローブ人間に目配せすると、黒ローブ人間2人は、十字架戦士(クルセイダー)が座っていたその椅子に三澤を座らせて、三澤の身体を縄で括り付けられた。

「偶然、我々の管理する新宿地下通路のアジトで、彼が倒れているのを見つけてね。連行し、この三澤隼人、ナンバー3を、君とともに、ここで殺害することにした」

一時的に正義感に包まれていた梨奈は、再び死への恐怖に包まれた。

一番大事な事は、自分は今、浄化の絆という悪い集団に誘拐され、知らない部屋に拉致監禁されている上、三澤も、酷い怪我を負って同じように拉致監禁されているということ。

そして、今これから、2人共ここで殺されるらしいという事だ。

すると、十字架戦士(クルセイダー)は、縄で括り付けられた三澤の胸ポケットに入っている複数枚のA4用紙に気付き、無造作に取り出した。

「ほう、これが、ナンバー3に指令される、中央政府からの、ターゲットリストか・・・案外シンプルな作りなのだな。どれ、君も見てみるかね?」

十字架戦士(クルセイダー)はその内の1枚を梨奈に見せた。名前と顔写真と、右下にSJプロジェクトという文言、それに、QRコードが描かれている。知らない人間の顔だ。その名前は石川健二と書かれている。

十字架戦士(クルセイダー)は、そのA4用紙をビリビリに破り捨てた。

「平林梨奈さん、君が今から死ぬのは、全てこの男、三澤隼人が原因だ。恨むなら、彼を恨みたまえよ」

梨奈はゴクリと唾を飲み込んだ。

「ま、死ぬ時期が、早いか、ちょっと遅いかの違いなだけでしかないがね、結局は同じことだ(・・・・・・・・)
明日の審判の日になれば、浄化の絆に選ばれし者以外、皆死ぬ。お前達、やりなさい」

十字架戦士(クルセイダー)は、黒ローブ2人に命令した。

黒ローブ2人は、鉄製の棒を取り出し、梨奈の目の前で怪我を負っている三澤を打ち付け始めた。

「わわわ!は、隼人君!!」

梨奈が叫んだ。
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