【審判の日前日】友達のお願い
文字数 2,027文字
夜22:00、平林桜子は、受付待合室のベンチに放心状態で俯いて座っていた。
勤務を終えて2階から降りて来た上野千鶴が、ただならない雰囲気で俯いている桜子を見て、桜子の隣に座り、声をかけた。
「どうしたの?桜子さん」
桜子は俯いたまま、自身のスマートフォンを上野千鶴に見せた。スマートフォンの画面には、薄暗いフロアで、裸体に黒い薄布を無造作に巻き付けられただけの女性が、十字架に縛り付けられている画像が映っていた。
上野千鶴は、十字架に縛り付けられているこの女性は、おそらく桜子の娘、平林梨奈なのだろうと、直感で理解した。
「・・・ナンバー5 の仕業ね」
上野千鶴が静かに口を開いた。
「・・・ナンバー5・・・?」
桜子が放心状態で俯いたまま、ポツリと言葉の意味を尋ねた。
「三澤君と共に、SJプロジェクトを生き残ったもう一人の暗殺者よ。
人心掌握術に異常に長けており、決して自らの手は汚さず、他者の意思を洗脳支配して、他者にターゲットを殺害させる能力を持つという、悪魔のような存在。
そのあまりの卑劣な残忍さ故、危険分子と見做され、組織を追放された者。
それが、ナンバー5。
中央政府も、このナンバー5の存在には、手を焼いているわ。
恐らくナンバー5の持つ能力を考えれば、何かの殺戮団体等を構成して、そのトップとして君臨し、洗脳支配した手下達を操って、残虐な犯行を繰り返しているはず」
上野千鶴は、自身の知りうる限りの情報を桜子に話した。
・・・ナンバー5・・・
・・・ 5・・・
・・・五・・・
・・・五代・・・
・・・五代恵子・・・。
桜子は、4日前に梨奈が出会ったと言っていた、彼女が最近よく話題に出す、プロテスタント教会の女性牧師の名前を思い出した。
するとそこに、三澤が新宿第一病院に戻ってきた。
桜子の身体がピクッと動いた。
三澤の身体は、あちこちに傷ついている。
桜子は無表情に立ち尽くす三澤を見た。
「・・・三澤君・・・梨奈が・・・あの黒ローブ集団に、捕まっているの・・・」
平林桜子がポツリと訴えるように三澤に言った。
「・・・」
三澤は無感情のまま無言で立っている。
「無駄よ、彼は中央政府からの指令以外では、絶対に動かない。
余計なミッションを引き受けて問題が起きたら大変だからね。
中央政府からの指令以外は無視するよう、極めて厳格に訓練されている」
上野千鶴が諭すように言った。
桜子は三澤に突然縋りつき、三澤の肩を揺さぶった。
「お願いよ、三澤君!」
桜子は泣き崩れた。
「もう誰も頼れる人が居ないの!」
三澤は桜子の肩に手を当てた。
「平林桜子さん、元気出してください」
やや焦点のズレた回答を三澤がした。
「今の彼の発言にも、言葉に心は全くこもっていない。
訓練により、泣き崩れている人間が居たら、そのように発言するようプログラムが仕込まれているだけ。
彼の頭の中には、広大で真っ暗な闇が広がっているだけなの」
上野千鶴は、無表情に目の前を見つめる三澤を見て言った。
「そんなことは、ありません!」
桜子は涙を流しながら上野千鶴を振り向くと、ピシリと上野千鶴に言った。
「彼は、三澤君は、人間です!
誰よりも優しい気持ちを持ち、表に出さないけど、豊かな感情のある、1人の人間です!
小学生の時から、私は三澤君のことを知っています!
あの頃から、三澤君は、何も変わっていません!!」
桜子はそう上野千鶴に訴え、再び三澤を見た。
「そうよね?三澤君」
「・・・」
ロボットのように、感情無く、三澤は桜子を見て首を傾げた。
「・・・無駄よ、彼には与えられた指令以外、何も興味は無い。
いや、興味という概念すら無い。
ただ、与えられたプログラムをコンピュータのように処理するだけ。
その、彼ですらも、ナンバー5を仕留められるかどうかは分からない」
桜子は三澤の手を掴んだ。
「三澤君、娘を、梨奈を助けて!」
桜子はそう三澤に懇願した。
「・・・」
三澤は相変わらずの無表情で桜子を見ている。
「中央政府じゃない!先生でもない!!
分かるでしょ?
・・・小学校の時の同級生の、貴方の友達のお願いよ!娘を守って!!」
「・・・・・・」
三澤は無表情のままだった。
桜子はその場にガクッと膝を付けて泣き崩れた。
泣き崩れる桜子をその場に残したまま、三澤は上野千鶴の方に歩いてきた。
「・・・で、とりあえず先生から送られてきたターゲットリスト通りの任務は実行するんでしょ?三澤君。
何か必要な物ある?
好きなもの持って行って」
三澤は上野千鶴から新宿第一病院の薬品保管庫の鍵を受け取った。そして、そのまま薬品保管庫に向かった。桜子は最後に三澤の背中を見て言った。
「私、信じているから!
三澤君は、優しい人間だって、誰より信じているから!
娘を、梨奈を救って!お願い!!」
三澤は何も答えず、奥の薬品保管庫に入り、一本の注射器と、クロロホルム、そして、ビーカーに入った液体を取り出した。
そして薬品保管庫を出ると、上野千鶴からバイクの鍵を受け取り、ブロロロロロと、上野千鶴のバイクで走り去って行った。
勤務を終えて2階から降りて来た上野千鶴が、ただならない雰囲気で俯いている桜子を見て、桜子の隣に座り、声をかけた。
「どうしたの?桜子さん」
桜子は俯いたまま、自身のスマートフォンを上野千鶴に見せた。スマートフォンの画面には、薄暗いフロアで、裸体に黒い薄布を無造作に巻き付けられただけの女性が、十字架に縛り付けられている画像が映っていた。
上野千鶴は、十字架に縛り付けられているこの女性は、おそらく桜子の娘、平林梨奈なのだろうと、直感で理解した。
「・・・ナンバー
上野千鶴が静かに口を開いた。
「・・・ナンバー5・・・?」
桜子が放心状態で俯いたまま、ポツリと言葉の意味を尋ねた。
「三澤君と共に、SJプロジェクトを生き残ったもう一人の暗殺者よ。
人心掌握術に異常に長けており、決して自らの手は汚さず、他者の意思を洗脳支配して、他者にターゲットを殺害させる能力を持つという、悪魔のような存在。
そのあまりの卑劣な残忍さ故、危険分子と見做され、組織を追放された者。
それが、ナンバー5。
中央政府も、このナンバー5の存在には、手を焼いているわ。
恐らくナンバー5の持つ能力を考えれば、何かの殺戮団体等を構成して、そのトップとして君臨し、洗脳支配した手下達を操って、残虐な犯行を繰り返しているはず」
上野千鶴は、自身の知りうる限りの情報を桜子に話した。
・・・ナンバー5・・・
・・・ 5・・・
・・・五・・・
・・・五代・・・
・・・五代恵子・・・。
桜子は、4日前に梨奈が出会ったと言っていた、彼女が最近よく話題に出す、プロテスタント教会の女性牧師の名前を思い出した。
するとそこに、三澤が新宿第一病院に戻ってきた。
桜子の身体がピクッと動いた。
三澤の身体は、あちこちに傷ついている。
桜子は無表情に立ち尽くす三澤を見た。
「・・・三澤君・・・梨奈が・・・あの黒ローブ集団に、捕まっているの・・・」
平林桜子がポツリと訴えるように三澤に言った。
「・・・」
三澤は無感情のまま無言で立っている。
「無駄よ、彼は中央政府からの指令以外では、絶対に動かない。
余計なミッションを引き受けて問題が起きたら大変だからね。
中央政府からの指令以外は無視するよう、極めて厳格に訓練されている」
上野千鶴が諭すように言った。
桜子は三澤に突然縋りつき、三澤の肩を揺さぶった。
「お願いよ、三澤君!」
桜子は泣き崩れた。
「もう誰も頼れる人が居ないの!」
三澤は桜子の肩に手を当てた。
「平林桜子さん、元気出してください」
やや焦点のズレた回答を三澤がした。
「今の彼の発言にも、言葉に心は全くこもっていない。
訓練により、泣き崩れている人間が居たら、そのように発言するようプログラムが仕込まれているだけ。
彼の頭の中には、広大で真っ暗な闇が広がっているだけなの」
上野千鶴は、無表情に目の前を見つめる三澤を見て言った。
「そんなことは、ありません!」
桜子は涙を流しながら上野千鶴を振り向くと、ピシリと上野千鶴に言った。
「彼は、三澤君は、人間です!
誰よりも優しい気持ちを持ち、表に出さないけど、豊かな感情のある、1人の人間です!
小学生の時から、私は三澤君のことを知っています!
あの頃から、三澤君は、何も変わっていません!!」
桜子はそう上野千鶴に訴え、再び三澤を見た。
「そうよね?三澤君」
「・・・」
ロボットのように、感情無く、三澤は桜子を見て首を傾げた。
「・・・無駄よ、彼には与えられた指令以外、何も興味は無い。
いや、興味という概念すら無い。
ただ、与えられたプログラムをコンピュータのように処理するだけ。
その、彼ですらも、ナンバー5を仕留められるかどうかは分からない」
桜子は三澤の手を掴んだ。
「三澤君、娘を、梨奈を助けて!」
桜子はそう三澤に懇願した。
「・・・」
三澤は相変わらずの無表情で桜子を見ている。
「中央政府じゃない!先生でもない!!
分かるでしょ?
・・・小学校の時の同級生の、貴方の友達のお願いよ!娘を守って!!」
「・・・・・・」
三澤は無表情のままだった。
桜子はその場にガクッと膝を付けて泣き崩れた。
泣き崩れる桜子をその場に残したまま、三澤は上野千鶴の方に歩いてきた。
「・・・で、とりあえず先生から送られてきたターゲットリスト通りの任務は実行するんでしょ?三澤君。
何か必要な物ある?
好きなもの持って行って」
三澤は上野千鶴から新宿第一病院の薬品保管庫の鍵を受け取った。そして、そのまま薬品保管庫に向かった。桜子は最後に三澤の背中を見て言った。
「私、信じているから!
三澤君は、優しい人間だって、誰より信じているから!
娘を、梨奈を救って!お願い!!」
三澤は何も答えず、奥の薬品保管庫に入り、一本の注射器と、クロロホルム、そして、ビーカーに入った液体を取り出した。
そして薬品保管庫を出ると、上野千鶴からバイクの鍵を受け取り、ブロロロロロと、上野千鶴のバイクで走り去って行った。