【審判の日7日前】平林梨奈

文字数 987文字

「面接行きたくない・・・」

朝食の支度が済み、母娘で二人テーブルを向かい合って椅子に座りながら、平林桜子と娘の平林梨奈は朝食を取っていた。

すると梨奈は、母親の桜子に、おもむろに心の内を打ち明けた。

「ちょっとだけ勇気頑張って出してみて、今日のアルバイト面接行ってみたら?
ずっと家に居ても、それはそれで辛いよ?」

桜子は梨奈を諭す。

「どうせ、また面接で酷い事言われて落とされるだけだもん」

梨奈は元々真面目だが快活な子で、友人も多かった。しかし、高校卒業後に、社員50名ほどの中小企業に就職したものの、厳しい社会の壁にぶち当たって退職を余儀なくされてからは、ほぼずっと家で塞ぎ込んでいた。

梨奈自身も、このままではいけないと分かっていながら、うまく行動に移せない自分に苛立ちを感じていた。

「勇気を出してチャレンジしてみよ!
それよりママ、さっきすごい古いクラスメートにいきなり会っちゃった!」

桜子が嬉々として梨奈に話しかけた。

「へぇ」

「三澤隼人君っていってね、小学校のときの同級生でクラスメートだったの!隣に座っていた子!」

「ふーん、アラフォー男なんだ」

興味無さそうに梨奈が返事する。

「連絡先も交換しちゃった!
明日の夜、三澤君を誘って3人でレストランで食事しましょうよ!
貴女の気分転換にもなるわよ」

「再婚するの?
ママも懲りないね」

梨奈が呆れたように言った。

「そんなんじゃないわよ。単に懐かしくなっただけ!ささ、支度支度!」

桜子は梨奈をアルバイト面接先の、マンションから徒歩圏内にあるコンビニに送り出し、自身も今日からの新しい勤務先の大手病院、新宿第一病院に向かった。



桜子は、新宿第一病院の指定された人事部事務所に向かい、挨拶を済ますと、ロクに説明も受けないまま、現場の病院受付窓口に行くように言われた。

病院受付窓口に着くと、医療事務の年下の先輩から仕事の説明を極めて乱雑に受けた。

すると、突然、急患が運ばれてきた。

「何やってんの、平林さん!
急患よ!さっさと動いて!」

「は・・・はい!」

桜子は狼狽しながら医療事務の書類作成を開始した。



「さっき急患で運ばれて来た人、死亡が確認されたんだって、毒殺による他殺かもしれないんだって、怖いわねぇ・・・」

「誰かが殺したってこと?
物騒な街よね、新宿って、本当に・・・」

同僚の医療事務女性同士がそんな会話していた。

これが、新宿の街の現状なのだろうか。
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