【審判の日】悪魔崇拝

文字数 2,240文字

木曜日午前0:00。

三澤隼人は、五代恵子のプロテスタント教会前にバイクを停めた。

教会の正面扉を開け、プロテスタント教会の礼拝堂に入った。

礼拝堂には、VXガスで毒殺されたと思われる五代恵子の信者達が10人以上も折り重なるように倒れていた。
全員、目や口から大量の血を流して絶命していた。

地獄絵図のような礼拝堂の中、夥しい数の死体を見ても、全くの無表情で、三澤は、真っ直ぐ正面に進んだ。そして、礼拝堂正面中央の十字架の前に安置されている祭壇を確認した。

祭壇の置かれている周りの床を見ると、床に何かを引き摺ったような跡があった。

三澤が、その引き摺った跡通りに祭壇を動かすと、祭壇の真下から、地下へと続く階段が現れた。



延々と続く長い螺旋状の階段を最後まで降りきると、到着した踊り場に、石扉があった。三澤は石扉をギギギと開き、中に入った。

その石扉の奥は、広大な空間になっていた。
どうやら地下大礼拝堂らしい。

空間の両側に蝋燭が立ち並び、通路を作っていた。蝋燭で作られた通路の突き当たりに十字架があり、十字架には裸体に黒い薄布を無造作に巻きつけられただけの女性が、両手両足を縄で縛り付けられて磔にされていた。

十字架に磔にされている女性は、平林桜子の娘、平林梨奈だった。彼女は、薬で眠らされているだけで、命に別状はなさそうだ。

梨奈が縛り付けられている十字架の奥に、悪魔を模した巨大な銅像が聳え建っている。

悪魔の銅像は、教会の神聖さからは程遠く、禍々(まがまが)しい邪悪なオーラを発していた。

梨奈の縛り付けられた十字架の手前で、1人の男が一振りの片手剣を脇に置いて祈祷している。

三澤はその男に向かって真っ直ぐ歩いた。

「・・・悪魔崇拝(サバト)・・・」

祈祷している男がおもむろに声を出すと、その一振りの片手剣の柄を右手で持ってスッと立ち上がった。

「これが、我々浄化の絆にとっての真の神だよ。
・・・悪魔崇拝・・・。
サタン様こそが、我々に真の救済をもたらしてくれる絶対神」

立ち上がった男は振り返って三澤を見た。
その目の鋭い小柄男は、浄化の絆の十字架戦士(クルセイダー)、美津島雄也だった。

救世主(メシア)は、サタン様がための真の浄化を計画している。
そして、その真の浄化、東京浄化計画は、今から実行される。
今日が審判の日だ。
この審判の日、最後にサタン様に捧げる供物としては、この女のような若い処女の生き血こそが最も相応しい」

美津島雄也は右手に持った片手剣で目の前の空をエックス字に斬った。

三澤も2本のスティレットをベルトに取り付けた革製の鞘から取り出して構えた。

「だがその前に、ナンバー3、SJプロジェクトの最終選別者よ。地上の礼拝堂で絶命した信者達と同じく、貴様の生き血もサタン様に捧げるとしよう。貴様の命は永遠にサタン様と一体となるのだ。喜ぶがいい!」

美津島雄也が片手剣を構えた。

「・・・汚れし魂に神の浄化を・・・」

次の瞬間、美津島雄也は、もの凄いスピードで、三澤に向かって駆け走って来て、三澤の手前で高く跳躍した。空中で、片手剣を大きく真上に掲げると、一気に振り下ろした。凄まじい斬撃がビュンッと三澤を襲う。

一閃、

2人は交差し、美津島雄也は地面に降り立った。

次の瞬間、片手剣を掴んだままの美津島雄也の右腕が宙に飛んだ。

美津島雄也が、驚愕して宙に飛んだ自身の右腕を目で追った。

2秒後、ボトッと美津島雄也の右腕が床に落ち、カランカランと片手剣も床に転がった。

美津島雄也は、何が起きたかにわかには信じられないと言った目で、床に落ちた自身の右腕を呆然と眺めた。

次の瞬間、切断された美津島雄也の右肘部分から、ドバッと大量の血が吹き出ると共に、凄まじい痛みが美津島雄也を襲った。

「ぐああああ!」

美津島雄也が叫ぶ

「今のが、僕の本気です。
貴方程度の戦士との戦闘であれば、組織での訓練の際に、何度も経験しています」

美津島雄也が痛みを堪えつつ、震える左手で懐から拳銃を取り出した。

三澤はその背後に一瞬で周り、美津島の首筋に注射を打ち込んだ。

美津島雄也は白目を剥いて気を失った。

「少しの間、眠っていてください」

三澤は美津島雄也をその場に寝かせると、スッと立ち上がった。

振り向いて十字架を見た。十字架に縛り付けられているはずの梨奈がいない。

次の瞬間、パンッと甲高い爆発音がして、寝かされている美津島雄也の脳天を銃弾が貫通した。

美津島雄也は、眉間にポッカリ空いた穴から大量の血液を流して絶命した。

「・・・全く、誰も彼も、私の周りは、本当に、何の役にも立たない無能人間ばかりですね」

女の声がした。

弾丸の発射方向を見ると、美津島雄也に向けて弾丸を放った小田和成巡査部長が、気絶した梨奈を羽交締めにして立っていた。

その隣に、黒いロングドレスに身を包み、細身の剣(レイピア)を右手に持って、うっすらと微笑を浮かべる妖艶な女が立っていた。

浄化の絆の最高指導者である救世主(メシア) 五代恵子だ。



「ま、この女を人質に取ったところで、貴方は何も感じないのでしょうけど、万に一つくらいの確率で、保険にはなるかもと思いまして」

五代恵子が左手で梨奈の右頬をパンッと平手打ちをした。

右頬に衝撃を受け、梨奈はうっすらと目を開けると、ハッと目を覚ました。

牧師のプライベートルームで眠らされた後の記憶が無く、何が起きているのか把握できず、梨奈は、自身を平手打ちした五代恵子、自分を羽交締めにする小田を交互に見た。

そして、正面を見ると、傷だらけの三澤が無表情に立っていた。

「隼人君!」

その立ち尽くす三澤を見て梨奈が叫んだ。
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