【審判の日7日前】平林桜子
文字数 1,180文字
今年40歳になる平林 桜子 は、10年前に離婚後、職を転々としながら、生計を立てつつ1人娘を育てていた。8月の暑い日差しの強い日、高校を卒業後就職したものの、たった2ヶ月で適応障害となり退職し、今はいわゆる無職の実娘、平林梨奈 と共に、2日前に代々木駅近くの新宿区のマンションに引っ越してきた。
桜子は、医療事務として新宿第一病院に就職が決まり、木曜日の今日から出勤だった。
その日、桜子はいつもより早く目覚めた。時刻は午前4時55分だった。二度寝しようとしたが、目がすっかり冴えてしまったので、仕方なく起きると、横で眠る娘の梨奈を起こさないよう着替えた。山積みの引っ越しダンボール箱を開けるのも面倒になり、朝の新宿を少し散歩することにした。
※
朝から強い日差しだ。
日傘を持ってくれば良かったと後悔しつつ、適当に家の周りを散歩した。
ふと、目の前から、40歳前後の痩せ型高身長でスラっとした端正な顔立ちの白い半袖Yシャツの男が、真っ直ぐ前を向いて、こちらに歩いてくるのを見た。男は無表情だった。
(あれは・・・)
どこかで見覚えのある顔だ。
そうだ、小学校3年生の始めから4年生の終わりまで同じクラスで、クラスのみんなから、いつも酷くからかわれていた子、小学校の同級生の三澤隼人君だ。
いつも無表情で、前を向いて背筋を伸ばして座っているだけで、何考えているか分からず、いつも1人ぼっちだった、席の隣に座ってた男の子。
壮年の顔にはなっているが、間違い無かった。
「三澤君?」
思わず桜子は、その男に声をかけた。
三澤隼人は立ち止まると、ゆっくりと桜子の方を向いた。
「平林桜子さん」
覚えていてくれた!
桜子は嬉しくなった。
「三澤君も新宿に住んでいるの?」
「うん、このすぐ近くだ」
「私もなの!すごい偶然!三澤君は、今何しているの?」
「僕は、今は単発で仕事を受注しながら生活している」
「単発で仕事を受注?業務委託ってこと?それともアルバイトってことなのかな?」
「そうだね、業務委託で、アルバイト」
何聞かれても機械的に答える三澤君は昔と何も変わらない!
小学生の頃はヒョロヒョロしてひ弱そうな身体をしていたが、今の三澤隼人は、痩せてはいるものの随分筋肉質になって逞しく見えた。
「そっかぁ、なんか随分逞しくなったね!三澤君。ねね、ライン交換しない?娘も一緒なの!今度
、一緒に食事でもしようよ!」
「うん、いいよ」
桜子は三澤とライン交換すると、何の画像もないただ三澤隼人とだけ名前がある友達が追加された。
「また連絡するね!」
「うん、ごきげんよう、平林桜子さん」
三澤は同じように無表情のままに去っていった。
桜子は三澤の後ろ姿を見送った。
仕事も安定せず、これといった資産も無く、新しい就職先でもどうなるか分からない、誰も頼れる人間がいない新宿の都会で、昔の知り合いに会えたことが、桜子にとって何よりも嬉しかった。
桜子は、医療事務として新宿第一病院に就職が決まり、木曜日の今日から出勤だった。
その日、桜子はいつもより早く目覚めた。時刻は午前4時55分だった。二度寝しようとしたが、目がすっかり冴えてしまったので、仕方なく起きると、横で眠る娘の梨奈を起こさないよう着替えた。山積みの引っ越しダンボール箱を開けるのも面倒になり、朝の新宿を少し散歩することにした。
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朝から強い日差しだ。
日傘を持ってくれば良かったと後悔しつつ、適当に家の周りを散歩した。
ふと、目の前から、40歳前後の痩せ型高身長でスラっとした端正な顔立ちの白い半袖Yシャツの男が、真っ直ぐ前を向いて、こちらに歩いてくるのを見た。男は無表情だった。
(あれは・・・)
どこかで見覚えのある顔だ。
そうだ、小学校3年生の始めから4年生の終わりまで同じクラスで、クラスのみんなから、いつも酷くからかわれていた子、小学校の同級生の三澤隼人君だ。
いつも無表情で、前を向いて背筋を伸ばして座っているだけで、何考えているか分からず、いつも1人ぼっちだった、席の隣に座ってた男の子。
壮年の顔にはなっているが、間違い無かった。
「三澤君?」
思わず桜子は、その男に声をかけた。
三澤隼人は立ち止まると、ゆっくりと桜子の方を向いた。
「平林桜子さん」
覚えていてくれた!
桜子は嬉しくなった。
「三澤君も新宿に住んでいるの?」
「うん、このすぐ近くだ」
「私もなの!すごい偶然!三澤君は、今何しているの?」
「僕は、今は単発で仕事を受注しながら生活している」
「単発で仕事を受注?業務委託ってこと?それともアルバイトってことなのかな?」
「そうだね、業務委託で、アルバイト」
何聞かれても機械的に答える三澤君は昔と何も変わらない!
小学生の頃はヒョロヒョロしてひ弱そうな身体をしていたが、今の三澤隼人は、痩せてはいるものの随分筋肉質になって逞しく見えた。
「そっかぁ、なんか随分逞しくなったね!三澤君。ねね、ライン交換しない?娘も一緒なの!今度
、一緒に食事でもしようよ!」
「うん、いいよ」
桜子は三澤とライン交換すると、何の画像もないただ三澤隼人とだけ名前がある友達が追加された。
「また連絡するね!」
「うん、ごきげんよう、平林桜子さん」
三澤は同じように無表情のままに去っていった。
桜子は三澤の後ろ姿を見送った。
仕事も安定せず、これといった資産も無く、新しい就職先でもどうなるか分からない、誰も頼れる人間がいない新宿の都会で、昔の知り合いに会えたことが、桜子にとって何よりも嬉しかった。