【審判の日5日前】五代恵子

文字数 833文字

翌日土曜日の午後13:00、平林梨奈はその日、何もやる事が無く、家にいても暇なので、新宿の街中をブラブラしていた。

19歳にしてフリーターでもない、いわゆる引きこもりニートの道をまっしぐらに突き進もうとしている梨奈は、何とかして今の現状を変えなければと思いつつ、現状を変えられない自分に苛立っていた。

キャッチだかナンパだかの声を無視しつつ、新宿の中心街からやや外れた、若干、閑静な小道を歩いていると、ふと、一軒の白い建物が目に入った。

雑多な新宿の街の中、そこだけが、まるで別世界のように、清らかで綺麗な空間に見えた。

【迷える仔羊に神の光の道筋を】

そのような文言が書かれたプレートが建っていた。

白い建物は、一般的な一軒家より一回り大きい程度の、ごく標準的なキリスト教会だった。

1人の女性が入口玄関を掃除していた。恐らく母親と同年代だが、年齢を感じさせない、何か神秘的な雰囲気のする女性だった。

女性は梨奈の視線にふと気付くと、にこりと笑った。

「良かったらお茶でもどうですか?お嬢さん」

梨奈は不思議な感覚に囚われて、女性と共に教会の中に入った。

梨奈は宗教には全く興味が無かった。信者を騙して金をかき集める胡散臭い詐欺集団だとも思っていた。そんな自分が、その教会に引き入れられた理由が、自分でもよく分からなかった。

女性の名は五代(ごだい)恵子(けいこ)といった。

プロテスタント系の牧師で、2月ほど前に、このプロテスタント教会を建造したばかりらしい。

五代恵子は、梨奈を教会の礼拝堂に招くと、長椅子に座らせ、自身もその隣に座った。

五代恵子は、特に、梨奈を信者として勧誘するわけでもなく、チョコレートやクッキーなどのお茶菓子を出して、梨奈の状況や不安に思っている事をじっくりと聞いた。話を聞き終わると、梨奈の手を握って少しお祈りした。

「また、ぜひいらしてね」

五代恵子は、優しい顔でにこやかに微笑み、梨奈を見送った。

梨奈は塞ぎ込んで澱んでいた心が綺麗に洗われる気がして、またこの教会に来てみたいと思った。
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