【審判の日4日前】杉浦伸平
文字数 2,729文字
午前10:00、平林梨奈は、母親の言う事に従い、仕方なく、コンビニのアルバイト面接を受けるだけ受けた。
梨奈は、もう一度五代恵子の教会で、話を聞いてもらいたいと思った。
教会入り口で信者に囲まれて、笑顔で信者達と話していた五代恵子は、再び教会を尋ねて来た梨奈が、遠くでモジモジしているのを見かけると、笑顔で梨奈の名前を呼んだ。
五代恵子は、昨日と同じく、梨奈を自身のプロテスタント教会に入信することを勧めるわけでもなく、話をじっくりと聞いて、手を握ると、お祈りをした。
梨奈は、少しだけまた、塞ぎ込んだ気持ちが明るく穏やかになっていく気がした。
※
「おい、梨奈!」
教会からマンションへの帰り道途中、明るく穏やかになりつつある気持ちを遮るように、名指しで自分の名前を呼ばれた。聞き覚えのある若い男の声だ。
声の主はすぐに誰のものか分かった。新宿に来て一度ナンパされて以来、しつこく梨奈に付きまとっている職業不詳の20代前半の金髪チャラ男、杉浦 伸平 だ。
「さっき、向こうの教会から出てきただろ。
お前、宗教なんか興味あるんだ。意外だな」
「あんたには関係ないでしょ」
梨奈は杉浦伸平に肩をぶつけて押しのけると、帰り道を急ぎ歩いた。
「おい、なんだよその態度は!」
杉浦伸平が突然血相を変え、梨奈の右腕を強引に掴んだ。
「いたっ!何すんのよ!」
梨奈は杉浦伸平の掴んだ手を振り解こうともがいた。
「こないだから、こっちが下手に出ていればツケ上がりやがって、お前のその態度、前々からムカついてたんだよ!
この片親のクソニートが!!」
すると、2人の男が通路の脇から出てきた。
「な・・・なによあんたら、離してよ!」
梨奈が振り解こうとするが、杉浦伸平はがっちりと右腕を掴んで離さなかった。
梨奈の背筋に恐怖が走った。
※
「離して!離して!」
平林梨奈は叫びながら杉浦伸平の腕を振り解こうとするが、そのまま杉浦伸平と、新たに現れた2人の男は、梨奈を路地裏に連れて行った。
「おら、脱げよ!」
杉浦伸平が梨奈のブラウスのボタンを引きちぎり、白いブラが露わになった。
「いや!辞めて!」
恐怖の中叫ぶが、誰もその路地裏の細道を通りかからず、梨奈を助ける者は誰一人いなかった。
もう1人の男が、梨奈のミニスカートを勢い良く捲し上げた。今度は梨奈の白いショーツが露わになった。
梨奈は、右腕を掴まれ、左手でボタンを引きちぎられたブラウスを必死に押さえつつ、恐怖にガクガクと膝を震わせた。
3人のうち、最後の1人の身長170cm弱のやや小柄な男は、鋭い目つきでその光景を少し後ろから観察していた。
と、そこに、梨奈を囲む3人とは全く関わりが無さそうな、別の1人の40歳くらいの男がスタスタと歩いてきた。
梨奈は、その40歳くらいの男がこちらに歩いてくるのに気付き、助けを求めるように、必死に男を憐れみの目で見た。
無表情で高身長細身だけどガッチリした体格の男。
見覚えがある。
(あの人は、こないだママと一緒に食事した、ママの小学校の同級生のアラフォーロボットおじさん!)
梨奈の顔に一筋の希望の光が見えた。
三澤隼人は、梨奈と、梨奈を取り囲む3人の男の手前約5メートルくらいの位置で、メガネの眉間を右手の中指で軽く押さえて掛け直すと、じっと3人のうちの目つきの鋭い小柄男を確認した。小柄男は、どこかで見覚えのある黄金色の十字架のネックレスを首から下げている。
「なんだてめぇは!」
杉浦伸平が脅すように言った。
「引っ込んでろおっさん、今すぐ消えろ!」
梨奈のスカートを捲し上げている男が、杉浦伸平の脅しの声に被せるように言った。
三澤は、小柄男を凝視している。凝視されたその小柄男は、他の2人のように三澤に罵声を浴びせることはなく、鋭い目つきで三澤を見返している。
すると、三澤は胸のポケットからA4用紙を取り出し、その目の鋭い小柄男と、A4用紙の内容を交互に見比べ始めた。
「雄也 さん、なんか、さっきから、じっと見られていますけど、あいつと知り合いですか?」
杉浦伸平が目の鋭い小柄男に話しかけた。
「・・・いや、全く知らんな」
雄也と呼ばれたその小柄男は、三澤を鋭い目で見返したまま、杉浦伸平に返答した。
梨奈は、すがるような目で三澤を見ている。
だが、三澤は、梨奈には目もくれず、まっすぐ雄也と呼ばれた小柄男の方向に向かって歩いてきた。
男は、スカートから手を離すと、雄也と三澤の間に割り込み、三澤の胸ぐらを掴んだ。
「おい、てめぇ、なんか雄也さんに用か?
死にたくなければ、引っ込んでろ!」
男が胸ぐらを掴みながら三澤にそう凄んだ。
三澤は男の脅しの声に何も反応せず、胸ぐらを掴まれたまま、雄也とA4用紙のリストを交互に確認し続けている。
「さっきから何してんだよ!
うざってぇオヤジだな、死ねや!」
男が、三澤の胸ぐらを掴んでいる手を離すと、その手を握って三澤の右頬にパンチを入れた。
バキッと音がして、三澤のかけるメガネの位置がずれた。
「お?俺にもやらせろよ」
杉浦は梨奈の右腕から手を離すと、三澤のみぞおちに蹴りを入れた。
三澤は片膝をついた。その三澤を杉浦と男が2人で取り囲み、リンチし始めた。
(や、やばい、どうしよう、今のうちに逃げるか?でも、このママの同級生のアラフォーロボットおじさん、殴り殺されるかも・・・)
梨奈は胸元を隠しつつどうすべきか迷っていると、雄也と呼ばれた目の鋭い男は、三澤へのリンチには参加せず、不思議にもその場からスタスタと立ち去って行った。
しばらく、2人によってなすがままだった三澤は、突然スッと立ち上がった。
そして、位置のズレたメガネの眉間を右手の中指で軽く押さえて掛け直した。
「何すましてんだコラァ!」
立ち上がった三澤に向けて、杉浦の右拳が飛んできた。三澤は、飛んできた右拳を躱し、杉浦の腕を取ると、杉浦の右腕を自身の右膝で叩き折った。
バキッと小気味よい音がして、杉浦の右腕が変な方向に曲がった。
「???」
何が起きたのか分からずキョトンとしていると、次の瞬間、凄まじい痛みが杉浦を襲った。
「ぎ・・・ぎゃああああ!」
痛みで杉浦が叫ぶ。
「な・・・ぐほおっ!」
もう1人の男が驚くやいなや、三澤は男の1人のみぞおちに拳をいれ、胃袋の全てを吐かせた。
杉浦と男は地べたに転がり、痛みにのたうち回った。
三澤は、それ以上2人を攻撃せず、何事も無かったようにスマートフォンを取り出し、雄也と呼ばれた小柄男を事情により取り逃したことを、先生にメールした。
杉浦と男はのたうち回りながら痛い痛いとうめき声をあげていた。
(な、、、なんなのこのおじさん?
つ、、、強すぎ!)
メール操作が終わると、三澤は梨奈を一瞥もせず、地べたに這いつくばる2人を置いて、その場から立ち去った。
梨奈は、もう一度五代恵子の教会で、話を聞いてもらいたいと思った。
教会入り口で信者に囲まれて、笑顔で信者達と話していた五代恵子は、再び教会を尋ねて来た梨奈が、遠くでモジモジしているのを見かけると、笑顔で梨奈の名前を呼んだ。
五代恵子は、昨日と同じく、梨奈を自身のプロテスタント教会に入信することを勧めるわけでもなく、話をじっくりと聞いて、手を握ると、お祈りをした。
梨奈は、少しだけまた、塞ぎ込んだ気持ちが明るく穏やかになっていく気がした。
※
「おい、梨奈!」
教会からマンションへの帰り道途中、明るく穏やかになりつつある気持ちを遮るように、名指しで自分の名前を呼ばれた。聞き覚えのある若い男の声だ。
声の主はすぐに誰のものか分かった。新宿に来て一度ナンパされて以来、しつこく梨奈に付きまとっている職業不詳の20代前半の金髪チャラ男、
「さっき、向こうの教会から出てきただろ。
お前、宗教なんか興味あるんだ。意外だな」
「あんたには関係ないでしょ」
梨奈は杉浦伸平に肩をぶつけて押しのけると、帰り道を急ぎ歩いた。
「おい、なんだよその態度は!」
杉浦伸平が突然血相を変え、梨奈の右腕を強引に掴んだ。
「いたっ!何すんのよ!」
梨奈は杉浦伸平の掴んだ手を振り解こうともがいた。
「こないだから、こっちが下手に出ていればツケ上がりやがって、お前のその態度、前々からムカついてたんだよ!
この片親のクソニートが!!」
すると、2人の男が通路の脇から出てきた。
「な・・・なによあんたら、離してよ!」
梨奈が振り解こうとするが、杉浦伸平はがっちりと右腕を掴んで離さなかった。
梨奈の背筋に恐怖が走った。
※
「離して!離して!」
平林梨奈は叫びながら杉浦伸平の腕を振り解こうとするが、そのまま杉浦伸平と、新たに現れた2人の男は、梨奈を路地裏に連れて行った。
「おら、脱げよ!」
杉浦伸平が梨奈のブラウスのボタンを引きちぎり、白いブラが露わになった。
「いや!辞めて!」
恐怖の中叫ぶが、誰もその路地裏の細道を通りかからず、梨奈を助ける者は誰一人いなかった。
もう1人の男が、梨奈のミニスカートを勢い良く捲し上げた。今度は梨奈の白いショーツが露わになった。
梨奈は、右腕を掴まれ、左手でボタンを引きちぎられたブラウスを必死に押さえつつ、恐怖にガクガクと膝を震わせた。
3人のうち、最後の1人の身長170cm弱のやや小柄な男は、鋭い目つきでその光景を少し後ろから観察していた。
と、そこに、梨奈を囲む3人とは全く関わりが無さそうな、別の1人の40歳くらいの男がスタスタと歩いてきた。
梨奈は、その40歳くらいの男がこちらに歩いてくるのに気付き、助けを求めるように、必死に男を憐れみの目で見た。
無表情で高身長細身だけどガッチリした体格の男。
見覚えがある。
(あの人は、こないだママと一緒に食事した、ママの小学校の同級生のアラフォーロボットおじさん!)
梨奈の顔に一筋の希望の光が見えた。
三澤隼人は、梨奈と、梨奈を取り囲む3人の男の手前約5メートルくらいの位置で、メガネの眉間を右手の中指で軽く押さえて掛け直すと、じっと3人のうちの目つきの鋭い小柄男を確認した。小柄男は、どこかで見覚えのある黄金色の十字架のネックレスを首から下げている。
「なんだてめぇは!」
杉浦伸平が脅すように言った。
「引っ込んでろおっさん、今すぐ消えろ!」
梨奈のスカートを捲し上げている男が、杉浦伸平の脅しの声に被せるように言った。
三澤は、小柄男を凝視している。凝視されたその小柄男は、他の2人のように三澤に罵声を浴びせることはなく、鋭い目つきで三澤を見返している。
すると、三澤は胸のポケットからA4用紙を取り出し、その目の鋭い小柄男と、A4用紙の内容を交互に見比べ始めた。
「
杉浦伸平が目の鋭い小柄男に話しかけた。
「・・・いや、全く知らんな」
雄也と呼ばれたその小柄男は、三澤を鋭い目で見返したまま、杉浦伸平に返答した。
梨奈は、すがるような目で三澤を見ている。
だが、三澤は、梨奈には目もくれず、まっすぐ雄也と呼ばれた小柄男の方向に向かって歩いてきた。
男は、スカートから手を離すと、雄也と三澤の間に割り込み、三澤の胸ぐらを掴んだ。
「おい、てめぇ、なんか雄也さんに用か?
死にたくなければ、引っ込んでろ!」
男が胸ぐらを掴みながら三澤にそう凄んだ。
三澤は男の脅しの声に何も反応せず、胸ぐらを掴まれたまま、雄也とA4用紙のリストを交互に確認し続けている。
「さっきから何してんだよ!
うざってぇオヤジだな、死ねや!」
男が、三澤の胸ぐらを掴んでいる手を離すと、その手を握って三澤の右頬にパンチを入れた。
バキッと音がして、三澤のかけるメガネの位置がずれた。
「お?俺にもやらせろよ」
杉浦は梨奈の右腕から手を離すと、三澤のみぞおちに蹴りを入れた。
三澤は片膝をついた。その三澤を杉浦と男が2人で取り囲み、リンチし始めた。
(や、やばい、どうしよう、今のうちに逃げるか?でも、このママの同級生のアラフォーロボットおじさん、殴り殺されるかも・・・)
梨奈は胸元を隠しつつどうすべきか迷っていると、雄也と呼ばれた目の鋭い男は、三澤へのリンチには参加せず、不思議にもその場からスタスタと立ち去って行った。
しばらく、2人によってなすがままだった三澤は、突然スッと立ち上がった。
そして、位置のズレたメガネの眉間を右手の中指で軽く押さえて掛け直した。
「何すましてんだコラァ!」
立ち上がった三澤に向けて、杉浦の右拳が飛んできた。三澤は、飛んできた右拳を躱し、杉浦の腕を取ると、杉浦の右腕を自身の右膝で叩き折った。
バキッと小気味よい音がして、杉浦の右腕が変な方向に曲がった。
「???」
何が起きたのか分からずキョトンとしていると、次の瞬間、凄まじい痛みが杉浦を襲った。
「ぎ・・・ぎゃああああ!」
痛みで杉浦が叫ぶ。
「な・・・ぐほおっ!」
もう1人の男が驚くやいなや、三澤は男の1人のみぞおちに拳をいれ、胃袋の全てを吐かせた。
杉浦と男は地べたに転がり、痛みにのたうち回った。
三澤は、それ以上2人を攻撃せず、何事も無かったようにスマートフォンを取り出し、雄也と呼ばれた小柄男を事情により取り逃したことを、先生にメールした。
杉浦と男はのたうち回りながら痛い痛いとうめき声をあげていた。
(な、、、なんなのこのおじさん?
つ、、、強すぎ!)
メール操作が終わると、三澤は梨奈を一瞥もせず、地べたに這いつくばる2人を置いて、その場から立ち去った。