【審判の日3日前】組織
文字数 1,828文字
「だから、さっき言ったやり方と違うでしょ!何度言わせるの?ちゃんと覚えてよ!平林さん」
翌日月曜日、勤務先の新宿第一病院で、手順通り淡々と事務処理をしていた桜子は、年下の先輩に口やかましく理不尽な指摘を受けた。
ため息をつきながら、気を取り直して医療事務の仕事を粛々とこなしていると、自身の勤務中の新宿第一病院受付窓口から、ふと、見覚えのある姿が通りかかるのが見えた。
(あれは・・・三澤君?)
通りかかった背の高く細身でガッチリした体格の男は、三澤隼人のようだった。この新宿第一病院に何か用があるのだろうか?
「何ポケッと外見てるのよ!早くやってよ!患者さん待ってるのよ!」
年下の先輩が苛立ちながら桜子に言った。
「はい、すみません、今やります」
事務仕事に戻り、年下の先輩の言った不合理極まりない手順に従って、書類を片付けた。再度、窓口の外を見た。三澤の姿は既にそこには無かった。
(見間違いかな?でも確かにあれは三澤君だったわ、病院に来るなんて、どこか身体に具合悪い所があるのかしら?)
不思議に思いながら桜子は医療事務作業に戻った。
※
その日の夕方になり、仕事を終えた桜子は梨奈と新宿駅前広場の銅像前で合流した。
3日前に会食したばかりの、新宿駅前デパート最上階のイタリアンレストランの入り口前に着くと、その場で、桜子と梨奈の母娘親子は三澤の到着を待った。
ワクワクと、はやる気持ちを抑えて身体を揺らす梨奈を不思議そうに桜子は見ていた。
すると、約束時間の19:00きっかりに、三澤が相変わらずの無表情で颯爽と現れた。
「こんばんわ」
三人は、前回よりはやや打ち解けた口調ではあったが、依然としてぎこちなくお互いに挨拶し、レストランに入った。
前回は桜子が必死に三澤との会話を繋げていたが、今回は梨奈が嬉々として、途切れなく三澤に喋りかけていた。
三澤は全くの無表情のまま、言葉も辿々しく、梨奈からの質問に答えていた。
桜子は、今日、三澤が新宿第一病院に現れた理由を聞こうとしたが、娘の梨奈の三澤に対するマシンガンのような質問責めの前に、会話に参加する余裕もなく、ただじっと二人のやりとりを聞いていた。
(まさかね・・・年齢も離れているし・・・)
あまりにも不自然に三澤に懐く娘を見て、桜子は若干の疑問を抱き、そしてわずかに嫉妬にも似た感情を娘に感じていた。
※
「へぇ、じゃあ、隼人君は小学4年生の終わりの時に転校して、それから先生?がいる組織?で、ずっと特別な教育を受けていたんだ!」
梨奈が質問攻めで三澤から聞き出した話の内容に確認を入れた。
「はい、そうです」
「その組織って所では、隼人君は何を学んでいたの?」
すでに梨奈は三澤を下の名前で呼んでいる。
「組織では、数学と、物理と、運動科学の勉強をしていました」
無感情に機械仕掛けの人形のように三澤は質問に答えた。
「へぇ、なんか難しそうだね。理系って難しくって全然分からないや。その組織っていうのは、いわゆる学校なのかな?何人くらい生徒がいたの?」
「はい、学校のようなものです。組織には、僕を含めて7人の子供が集められていました」
「たった7人?7人しか生徒がいない学校なんて、随分変わった学校だね。まだその他の生徒達とは連絡取ってるの?」
「いいえ、全く連絡は取っていません。最終的には、僕と、もう1人しか組織に残りませんでしたので」
「ふーん、そうなんだ。なんか、さみしいね。それじゃあ、隼人君は、今の仕事も、その組織で勉強したことを活かして、何かの理系の専門職とかやってるのかな?」
おもむろに、梨奈が三澤の椅子に自身の椅子を近づけた。
「はい、そうです」
「すごいね、隼人君、頭良いんだ!
ねね、今度、部屋に遊びに行ってもいい?」
梨奈が三澤の右腕を掴む。
「ちょっと!梨奈!」
桜子が制すと梨奈は三澤の腕を離してイタズラっぽく笑った。
「冗談、冗談、でも隼人君が具体的に何やってるのか、もっと知りたいなぁ」
梨奈は笑いながら答えた。
部屋に遊びに行きたい、との娘の発言について、桜子は、内心冗談で言ったものではないことを、感じ取っていた。
「ねね、あたしともLINE交換しようよ!
隼人君!」
「はい、分かりました」
三澤と実娘が連絡先を交換し合っている光景を、桜子はなんとも言えない、若干の、嫉妬と苛立ちと悔しさが入り混じったかのような、歯がゆい気持ちで眺めていた。
その3人の会食風景を、奥のテーブルから、怪しげな黒いローブを羽織った2人の男がじっと観察していた。
翌日月曜日、勤務先の新宿第一病院で、手順通り淡々と事務処理をしていた桜子は、年下の先輩に口やかましく理不尽な指摘を受けた。
ため息をつきながら、気を取り直して医療事務の仕事を粛々とこなしていると、自身の勤務中の新宿第一病院受付窓口から、ふと、見覚えのある姿が通りかかるのが見えた。
(あれは・・・三澤君?)
通りかかった背の高く細身でガッチリした体格の男は、三澤隼人のようだった。この新宿第一病院に何か用があるのだろうか?
「何ポケッと外見てるのよ!早くやってよ!患者さん待ってるのよ!」
年下の先輩が苛立ちながら桜子に言った。
「はい、すみません、今やります」
事務仕事に戻り、年下の先輩の言った不合理極まりない手順に従って、書類を片付けた。再度、窓口の外を見た。三澤の姿は既にそこには無かった。
(見間違いかな?でも確かにあれは三澤君だったわ、病院に来るなんて、どこか身体に具合悪い所があるのかしら?)
不思議に思いながら桜子は医療事務作業に戻った。
※
その日の夕方になり、仕事を終えた桜子は梨奈と新宿駅前広場の銅像前で合流した。
3日前に会食したばかりの、新宿駅前デパート最上階のイタリアンレストランの入り口前に着くと、その場で、桜子と梨奈の母娘親子は三澤の到着を待った。
ワクワクと、はやる気持ちを抑えて身体を揺らす梨奈を不思議そうに桜子は見ていた。
すると、約束時間の19:00きっかりに、三澤が相変わらずの無表情で颯爽と現れた。
「こんばんわ」
三人は、前回よりはやや打ち解けた口調ではあったが、依然としてぎこちなくお互いに挨拶し、レストランに入った。
前回は桜子が必死に三澤との会話を繋げていたが、今回は梨奈が嬉々として、途切れなく三澤に喋りかけていた。
三澤は全くの無表情のまま、言葉も辿々しく、梨奈からの質問に答えていた。
桜子は、今日、三澤が新宿第一病院に現れた理由を聞こうとしたが、娘の梨奈の三澤に対するマシンガンのような質問責めの前に、会話に参加する余裕もなく、ただじっと二人のやりとりを聞いていた。
(まさかね・・・年齢も離れているし・・・)
あまりにも不自然に三澤に懐く娘を見て、桜子は若干の疑問を抱き、そしてわずかに嫉妬にも似た感情を娘に感じていた。
※
「へぇ、じゃあ、隼人君は小学4年生の終わりの時に転校して、それから先生?がいる組織?で、ずっと特別な教育を受けていたんだ!」
梨奈が質問攻めで三澤から聞き出した話の内容に確認を入れた。
「はい、そうです」
「その組織って所では、隼人君は何を学んでいたの?」
すでに梨奈は三澤を下の名前で呼んでいる。
「組織では、数学と、物理と、運動科学の勉強をしていました」
無感情に機械仕掛けの人形のように三澤は質問に答えた。
「へぇ、なんか難しそうだね。理系って難しくって全然分からないや。その組織っていうのは、いわゆる学校なのかな?何人くらい生徒がいたの?」
「はい、学校のようなものです。組織には、僕を含めて7人の子供が集められていました」
「たった7人?7人しか生徒がいない学校なんて、随分変わった学校だね。まだその他の生徒達とは連絡取ってるの?」
「いいえ、全く連絡は取っていません。最終的には、僕と、もう1人しか組織に残りませんでしたので」
「ふーん、そうなんだ。なんか、さみしいね。それじゃあ、隼人君は、今の仕事も、その組織で勉強したことを活かして、何かの理系の専門職とかやってるのかな?」
おもむろに、梨奈が三澤の椅子に自身の椅子を近づけた。
「はい、そうです」
「すごいね、隼人君、頭良いんだ!
ねね、今度、部屋に遊びに行ってもいい?」
梨奈が三澤の右腕を掴む。
「ちょっと!梨奈!」
桜子が制すと梨奈は三澤の腕を離してイタズラっぽく笑った。
「冗談、冗談、でも隼人君が具体的に何やってるのか、もっと知りたいなぁ」
梨奈は笑いながら答えた。
部屋に遊びに行きたい、との娘の発言について、桜子は、内心冗談で言ったものではないことを、感じ取っていた。
「ねね、あたしともLINE交換しようよ!
隼人君!」
「はい、分かりました」
三澤と実娘が連絡先を交換し合っている光景を、桜子はなんとも言えない、若干の、嫉妬と苛立ちと悔しさが入り混じったかのような、歯がゆい気持ちで眺めていた。
その3人の会食風景を、奥のテーブルから、怪しげな黒いローブを羽織った2人の男がじっと観察していた。