【その後】エピローグ

文字数 1,237文字

審判の日における、浄化の絆による一連の事件の後、駆けつけた警官に取り押さえられ、現行犯逮捕された五代恵子と小田和成には、終身刑が課された。



平林桜子は、三澤隼人が入院する新宿第一病院の417号室を訪れた。

三澤はまだ目を覚まさなかった。

桜子の娘、平林梨奈が、三澤の眠るベッドに上半身だけ突っ伏してスヤスヤと眠っていた。

その梨奈の肩に毛布を掛け、桜子は病室を出た。



次の日も、三澤隼人は目を覚まさなかった。



その次の日、三澤隼人は忽然と姿を消した。

平林桜子や梨奈は三澤の行方を探したが、結局見つかることは無かった。

桜子は三澤にLINEをしたが、既読になることも無かった。

桜子は、藁にも縋る思いで、精神科医 上野千鶴に三澤の行き先を聞きに行ったが、上野千鶴は既に他の病院へ異動しており、彼女とも全く連絡が取れなくなった。



それから2週間が経った。

真夏の暑さもやや和らいできた9月中旬、その日の昼食休憩時間、桜子は、三澤と隣り合って話したあの公園で、膝の上に弁当を広げて昼食を取っていた。

すると、1人の男のシルエットが桜子の前をフワッと通り過ぎた。
かと思うと、いつの間にか、その男は桜子の座るベンチの横に腰を下ろしていた。

2人はじっと前を見ている。

「こうして隣り合うと、また小学校の時に戻ったみたいだね、席、隣同士だったもんね、懐かしい」

桜子は無表情の男に語りかけた。

しばらく2人はそのまま前を見ていると、無表情の男が、前を見たまま話した。

「・・・平林桜子さん、小学校の時、学級委員だった君は、からかわれて、いじめられていた僕を、いつも庇ってくれた」

「・・・うん、そんな事もあったね」

桜子が昔を懐かしむように返した。

「・・・組織の中でも、社会生活学習のため一時的に通った小学校でも、誰とも心を交わす事が出来なかった僕に、君は、僕の人生の中でただ1人、僕を、1人の普通の人間として扱い、敬意を持って対等に接してくれた」

「・・・・・・」

「・・・それが、とても嬉しかった・・・」

「・・・・・・」

無表情のまま三澤は立ち上がり、桜子の目の前に立つと、右手を差し出した。

「・・・ありがとう、平林桜子さん」

桜子は、その差し出された右手を、ゆっくりと掴んだ。

その三澤の無表情な顔に、初めて笑顔が作られた。

人の良さそうな眩しく明るい笑顔だった。

しばらく二人は握手したまま見つめ合った。

三澤は桜子から手を離し、身を翻した。

桜子は立ち上がって言った。

「・・・また会えるの?
娘も私も、いつでも、ここで貴方を待っているわ」

そのまま何も答えず、三澤は後ろ姿を見せたまま歩き出した。

「・・・貴方は、これから、どこに行くの?」

桜子は呟くように言った。やはり何も答えず三澤はそのまま姿を消した。

「・・・また・・・会えるよね・・・?」

桜子の声は宙に消えた。



4時59分50秒
三澤隼人はまだ深く眠っていた。
57秒・・・58秒・・・59秒・・・
5時00分00秒
まるで電源を入れたロボットのように三澤隼人は目を開けた。

以 上
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