【審判の日】先生
文字数 3,188文字
「もういいよ!
隼人君、こいつら、やっつけちゃってよ!」
五代恵子にレイピアを胸元に突き付けられ、さらに小田和成にこめかみに銃口を向けられている平林梨奈が、これから自身に訪れるであろう死の恐怖に震える声を押し殺して叫んだ。
三澤は微動だにしない。
「どうしたの?
早くやっつけちゃってよ!
人質になっているあたしが心配なの?
あたしの下らない人生なんて、もう、どうでもいいの!
あたしは、どうなってもいいから、早くこいつらやっつけちゃって!」
やはり三澤は動かなかった。
「なんでよ!
あたしなんか・・・もう、死んだっていいの!
あたしの事なんか・・・構わないでよ・・・」
梨奈が両目から涙を流した。
「ふ・・・ふふふ・・・」
五代恵子が笑い声をあげた。
「あははは!最高ですね!貴方達、本当に笑わせてくれます!」
五代恵子が、笑いを堪えきれなくなって、吹き出した。
「何がおかしいのよ!
この頭の狂った悪魔崇拝のサバト女!
隼人君はね、心があるのよ!
こんなあたしでも、あたしが人質になっていることを心配して、動けないんだよ!
隼人君は、ロボットなんかじゃない!
あんたと違って、優しい人の心を持ってるのよ!
それの何がおかしいの?」
「ふふふ、いやいやいや、梨奈さん、あなた、本当に、この男が、貴女の身を案じて、私たちに向かってこないとでも思っているのですか?」
笑いを必死に堪えながら五代恵子が梨奈に尋ねた。
「当たり前でしょ!隼人君はとっても強いんだよ!あたしさえ人質になっていなければ、あんた達なんか簡単にやっつけられるんだから!」
くくく、と五代恵子は笑った。
「違うのですよ、梨奈さん、この男がね、ナンバー3が私達に向かって来ないのは、全く別の原因」
「・・・え!」
「それはね、ナンバー3の今持っている先生の指令したA4用紙のターゲットリストには、私と小田和成さんの名前が載っていないから、なのですよ」
梨奈が愕然と三澤と五代恵子を交互に見た。
「あんたの名前がA4用紙のリストに載ってない?
そんなことあるわけないでしょ!
浄化の絆の救世主 で、黒幕のあんたこそ、最も殺すべき忌まわしい人間なのに!!」
五代恵子はふふっと笑い、解説し始めた。
「A4用紙のリストは、先生から、電子メールでナンバー3のパソコンに送られ、プリントアウトされる。そして、ナンバー3は、そのA4用紙に書かれた情報を元に殺戮を実行する。
主に、日本国や、中央政府にとって不都合な要人を狙ってね」
「・・・何を今更!」
「でもね、SJプロジェクトなんて、そんな古臭い政府の任務、とうの昔に廃止されているのですよ。
ナンバー3、この無能男は、そんな事に気付いてもおらず、相変わらず、自分の家に送られてくる電子メールを信じ込んで、殺戮行為を繰り返す、ただの愚かで哀れな人殺し」
五代恵子の話に、梨奈が耳を疑った。
「そんな・・・でも、確かに、中央政府は、先生は、悪い人間をやっつけるために、悪い人間の情報をリストにして、隼人君に送っているはずじゃ・・・」
「ふふ、じゃあ、そもそも、その、先生って誰なのかしら?中央政府って?具体的にどこの省庁のなんて役職の誰?」
答えられず梨奈は口をつぐんだ。
すると、五代恵子はおもむろにA4のプリント用紙を取り出した。そして、梨奈に見せた。
それは、先に捕えられた時に澁谷誠一に見せられたものと同じものだった。三澤が持っていたA4用紙のリストと全く同じ様式で、右下隅には、SJプロジェクトのQRコードが描かれていた。
「そんな先生なんて、そもそも存在しないとしたら?
いや、そもそも政府なんかと関係無い、全くの別人がターゲットリストを作ってナンバー3に送っているとしたら?」
「・・・ま・・・まさか・・・」
梨奈の目の前が真っ黒になる。
「そう、ナンバー3に殺害命令を出していたのは、この、私。
私は中央政府のメールサーバーを乗っ取り、中央政府に成りすまして、ナンバー3に今まで先生として殺害命令を指示していた。
卑しい上、無意味な暴力を振るう下衆な人間。
何の役にも立たない無能な人間を、全て排除して、その生き血をサタン様に捧げるためにね。
ナンバー3にとって先生のターゲットリストは絶対的存在。
今までずっと、私の思惑通りに、ナンバー3は、私にとっての無価値な邪魔者達を次々と排除してくれようとしていたってこと」
衝撃的事実に梨奈は動揺を隠せなかった。五代恵子は再びアハハと大きく笑った。
「当然、ナンバー3に電子メールで送っているターゲットリストには、私と小田さんの名前と顔は載せていないわ。美津島雄也君の名前と顔は載せていたけどね。
だから彼がここに来たのは、あくまで美津島君を仕留めるためだけだったってこと。
任務が終わったナンバー3は、そこに突っ立っているだけで、私たちを襲ってこれない。
だって、先生からの殺害命令を受けていないのだもの。
それを勘違いして、あの男が、貴女を心配して向かってこないとか、人の心があるとか、必死に彼を擁護して、その勘違いっぷりがあまりにもおかしくって、ククク」
呆然として絶望に打ちひしがれる梨奈が、すがるような目を三澤に向けた。
三澤は立ち尽くしたまま、無表情に真っ直ぐ正面を見ていた。
「う・・・嘘でしょ?
隼人君、こんな奴に引っ掛かって、暴力行為を繰り返してたなんて、隼人君は、自分の意思で、悪者をやっつけようと、VXガスの東京湾への流出を止めようと、精一杯良い事をしようとしてただけだよね?」
梨奈の両目から涙が溢れた。
三澤は相変わらずの無表情で正面を見ている。
「私は、ナンバー5。
組織の中で、人を意のままに操ってターゲットを暗殺する術に最も長けている暗殺者。
他の誰かを利用してターゲットの殺害を行うことなど、私にとっては、た易い事」
五代恵子は、スタスタと歩いて三澤の前に立った。そして三澤に平手打ちをした。三澤のメガネがずれた。三澤はメガネの眉間に右手の中指を当てると、メガネの位置を直した。
「だけど、ナンバー3、この無能なロボット男は、私が電子メールでリストにした人間達を誰一人始末出来なかった。
まず、麻薬密売で収益を上げていたけど、警察に目を付けられてその存在が鬱陶しくなった十字架戦士 石川健二を、仕留め損なった。
さらに、我らの目を盗んでVXガスの闇取引を行っていた十字架戦士 澁谷誠一も、仕留め損なった。
そして今、戦闘要員 兼 若者信者集めにしか使えない役立たず十字架戦士 美津島雄也も、仕留め損なった。
彼らに引導を渡したのは、いずれもこの私が別途洗脳支配した信者達。
この男、ナンバー3は、拳銃の弾丸を避けられるだけの、無能人間。
無能人間は、私が最も嫌いな人間!」
五代恵子はレイピアで三澤の左腕を突き刺した。三澤の左腕から血が流れ出した。
「やめて!もう酷いことしないで!!」
梨奈が叫ぶ。
五代恵子は三澤の左腕に突き刺したレイピアを引き抜いて、ニヤリと笑った。
「なんでこんな奴がSJプロジェクトで最終選別されたのか分からないけど、まあ、最後の最後に、挽回のチャンスを与えるとしましょう」
そう言って、五代恵子はプリントアウトしたA4用紙のリストを梨奈にチラリと見せた。そこには、SJプロジェクトのQRコードと、梨奈の顔写真が載っていた。
「ナンバー3、これが先生から貴方への最後のリストです。出来るわよね?」
三澤は、五代恵子から渡されたA4プリント用紙を見て、次に梨奈の顔を見て、それを交互に繰り返した。
「う・・・嘘でしょ、隼人君・・・」
三澤は、差し出された黒いハンカチを五代恵子から奪った。黒いハンカチにはVXガスが染み込ませられていた。三澤は無表情のまま梨奈の目の前に進んだ。
「隼人君!お願い!やめて!」
三澤はそのまま黒いハンカチを無造作に梨奈の口にあてがった。
「・・・はやと・・・くん・・・」
梨奈は意識を失うと、その場にどさりと倒れた。
隼人君、こいつら、やっつけちゃってよ!」
五代恵子にレイピアを胸元に突き付けられ、さらに小田和成にこめかみに銃口を向けられている平林梨奈が、これから自身に訪れるであろう死の恐怖に震える声を押し殺して叫んだ。
三澤は微動だにしない。
「どうしたの?
早くやっつけちゃってよ!
人質になっているあたしが心配なの?
あたしの下らない人生なんて、もう、どうでもいいの!
あたしは、どうなってもいいから、早くこいつらやっつけちゃって!」
やはり三澤は動かなかった。
「なんでよ!
あたしなんか・・・もう、死んだっていいの!
あたしの事なんか・・・構わないでよ・・・」
梨奈が両目から涙を流した。
「ふ・・・ふふふ・・・」
五代恵子が笑い声をあげた。
「あははは!最高ですね!貴方達、本当に笑わせてくれます!」
五代恵子が、笑いを堪えきれなくなって、吹き出した。
「何がおかしいのよ!
この頭の狂った悪魔崇拝のサバト女!
隼人君はね、心があるのよ!
こんなあたしでも、あたしが人質になっていることを心配して、動けないんだよ!
隼人君は、ロボットなんかじゃない!
あんたと違って、優しい人の心を持ってるのよ!
それの何がおかしいの?」
「ふふふ、いやいやいや、梨奈さん、あなた、本当に、この男が、貴女の身を案じて、私たちに向かってこないとでも思っているのですか?」
笑いを必死に堪えながら五代恵子が梨奈に尋ねた。
「当たり前でしょ!隼人君はとっても強いんだよ!あたしさえ人質になっていなければ、あんた達なんか簡単にやっつけられるんだから!」
くくく、と五代恵子は笑った。
「違うのですよ、梨奈さん、この男がね、ナンバー3が私達に向かって来ないのは、全く別の原因」
「・・・え!」
「それはね、ナンバー3の今持っている先生の指令したA4用紙のターゲットリストには、私と小田和成さんの名前が載っていないから、なのですよ」
梨奈が愕然と三澤と五代恵子を交互に見た。
「あんたの名前がA4用紙のリストに載ってない?
そんなことあるわけないでしょ!
浄化の絆の
五代恵子はふふっと笑い、解説し始めた。
「A4用紙のリストは、先生から、電子メールでナンバー3のパソコンに送られ、プリントアウトされる。そして、ナンバー3は、そのA4用紙に書かれた情報を元に殺戮を実行する。
主に、日本国や、中央政府にとって不都合な要人を狙ってね」
「・・・何を今更!」
「でもね、SJプロジェクトなんて、そんな古臭い政府の任務、とうの昔に廃止されているのですよ。
ナンバー3、この無能男は、そんな事に気付いてもおらず、相変わらず、自分の家に送られてくる電子メールを信じ込んで、殺戮行為を繰り返す、ただの愚かで哀れな人殺し」
五代恵子の話に、梨奈が耳を疑った。
「そんな・・・でも、確かに、中央政府は、先生は、悪い人間をやっつけるために、悪い人間の情報をリストにして、隼人君に送っているはずじゃ・・・」
「ふふ、じゃあ、そもそも、その、先生って誰なのかしら?中央政府って?具体的にどこの省庁のなんて役職の誰?」
答えられず梨奈は口をつぐんだ。
すると、五代恵子はおもむろにA4のプリント用紙を取り出した。そして、梨奈に見せた。
それは、先に捕えられた時に澁谷誠一に見せられたものと同じものだった。三澤が持っていたA4用紙のリストと全く同じ様式で、右下隅には、SJプロジェクトのQRコードが描かれていた。
「そんな先生なんて、そもそも存在しないとしたら?
いや、そもそも政府なんかと関係無い、全くの別人がターゲットリストを作ってナンバー3に送っているとしたら?」
「・・・ま・・・まさか・・・」
梨奈の目の前が真っ黒になる。
「そう、ナンバー3に殺害命令を出していたのは、この、私。
私は中央政府のメールサーバーを乗っ取り、中央政府に成りすまして、ナンバー3に今まで先生として殺害命令を指示していた。
卑しい上、無意味な暴力を振るう下衆な人間。
何の役にも立たない無能な人間を、全て排除して、その生き血をサタン様に捧げるためにね。
ナンバー3にとって先生のターゲットリストは絶対的存在。
今までずっと、私の思惑通りに、ナンバー3は、私にとっての無価値な邪魔者達を次々と排除してくれようとしていたってこと」
衝撃的事実に梨奈は動揺を隠せなかった。五代恵子は再びアハハと大きく笑った。
「当然、ナンバー3に電子メールで送っているターゲットリストには、私と小田さんの名前と顔は載せていないわ。美津島雄也君の名前と顔は載せていたけどね。
だから彼がここに来たのは、あくまで美津島君を仕留めるためだけだったってこと。
任務が終わったナンバー3は、そこに突っ立っているだけで、私たちを襲ってこれない。
だって、先生からの殺害命令を受けていないのだもの。
それを勘違いして、あの男が、貴女を心配して向かってこないとか、人の心があるとか、必死に彼を擁護して、その勘違いっぷりがあまりにもおかしくって、ククク」
呆然として絶望に打ちひしがれる梨奈が、すがるような目を三澤に向けた。
三澤は立ち尽くしたまま、無表情に真っ直ぐ正面を見ていた。
「う・・・嘘でしょ?
隼人君、こんな奴に引っ掛かって、暴力行為を繰り返してたなんて、隼人君は、自分の意思で、悪者をやっつけようと、VXガスの東京湾への流出を止めようと、精一杯良い事をしようとしてただけだよね?」
梨奈の両目から涙が溢れた。
三澤は相変わらずの無表情で正面を見ている。
「私は、ナンバー5。
組織の中で、人を意のままに操ってターゲットを暗殺する術に最も長けている暗殺者。
他の誰かを利用してターゲットの殺害を行うことなど、私にとっては、た易い事」
五代恵子は、スタスタと歩いて三澤の前に立った。そして三澤に平手打ちをした。三澤のメガネがずれた。三澤はメガネの眉間に右手の中指を当てると、メガネの位置を直した。
「だけど、ナンバー3、この無能なロボット男は、私が電子メールでリストにした人間達を誰一人始末出来なかった。
まず、麻薬密売で収益を上げていたけど、警察に目を付けられてその存在が鬱陶しくなった
さらに、我らの目を盗んでVXガスの闇取引を行っていた
そして今、戦闘要員 兼 若者信者集めにしか使えない役立たず
彼らに引導を渡したのは、いずれもこの私が別途洗脳支配した信者達。
この男、ナンバー3は、拳銃の弾丸を避けられるだけの、無能人間。
無能人間は、私が最も嫌いな人間!」
五代恵子はレイピアで三澤の左腕を突き刺した。三澤の左腕から血が流れ出した。
「やめて!もう酷いことしないで!!」
梨奈が叫ぶ。
五代恵子は三澤の左腕に突き刺したレイピアを引き抜いて、ニヤリと笑った。
「なんでこんな奴がSJプロジェクトで最終選別されたのか分からないけど、まあ、最後の最後に、挽回のチャンスを与えるとしましょう」
そう言って、五代恵子はプリントアウトしたA4用紙のリストを梨奈にチラリと見せた。そこには、SJプロジェクトのQRコードと、梨奈の顔写真が載っていた。
「ナンバー3、これが先生から貴方への最後のリストです。出来るわよね?」
三澤は、五代恵子から渡されたA4プリント用紙を見て、次に梨奈の顔を見て、それを交互に繰り返した。
「う・・・嘘でしょ、隼人君・・・」
三澤は、差し出された黒いハンカチを五代恵子から奪った。黒いハンカチにはVXガスが染み込ませられていた。三澤は無表情のまま梨奈の目の前に進んだ。
「隼人君!お願い!やめて!」
三澤はそのまま黒いハンカチを無造作に梨奈の口にあてがった。
「・・・はやと・・・くん・・・」
梨奈は意識を失うと、その場にどさりと倒れた。