【審判の日】A4用紙のリスト
文字数 3,047文字
三澤隼人は、全弾打ち尽くしたマシンガンを足元に投げ捨てると、煙を出し続けるヘリコプターに近づいた。
操縦席では、小田和成が、うう・・・と、うめき声を上げている。激しく頭を目の前のガラス窓にぶつけた上、両足が破壊された機器に挟まって操縦席から抜け出せないようだ。
三澤は、うめき声を上げる小田の横座席に置かれているVXガスの入ったアタッシュケースを見つけ、取り出した。
アタッシュケースは、最高強度の耐熱・耐衝撃性を備えていたようで、中身のVXガスの小瓶は割れず、無事のようだった。
「隼人君!」
黒い薄布を巻き付けた半裸の平林梨奈が、三澤の方に駆け走ってきた。
三澤が梨奈の駆け走ってくる方向を振り向いた。
「・・・危ない!」
梨奈が突如叫んだ。
三澤の背後に、額と両目から血を流し、まるで悪魔が取り憑いているかのような、激しい怒りの形相をした女が、フッと影のように現れた。
五代恵子はレイピアを三澤の左脇腹に突き刺し貫通させた。
刺された三澤が一瞬硬直し、手に持っていたアタッシュケースを落とした。
そのレイピアを引き抜いて、五代恵子は三澤の背中を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた三澤は地面に転がり倒れた。
「この無能があぁ!」
雄叫びを上げながら、五代恵子が、倒れている三澤にレイピアを突き立てようとした。三澤は間一髪、身体を転がしてレイピアの斬撃を交わすと、地面に手を付いて立ち上がった。
三澤の左脇腹から血が吹き流れている。
三澤は、左手で左脇腹を抑えつつ、ズレたメガネの眉間を右手の中指で軽く押さえ掛け直した。
「よくも私の東京浄化計画を滅茶苦茶にしやがって!
よくもサタン様への私の忠誠心を台無しにしやがって!
全部、貴様のせいで!
このゴミクズがぁぁ!」
今までの丁寧な口調からは考えられないような激しい怒声で三澤を罵倒し、レイピアの切先を三澤に向けた。
三澤は左脇腹を左手で押さえつつ、五代恵子に身体を向けた。
「五代恵子さん、いや、ナンバー5、最後に言っておきますが、SJプロジェクト、セブンスジーニアスプロジェクトは、廃止になどなっていません」
「なにぃ!?」
驚きと共に、五代恵子が怒鳴った。
三澤は胸ポケットから、1枚のA4用紙を出した。
そこには、今まで三澤が持っていた書式とは、僅かにレイアウト構成が違うターゲットリストが印刷されていた。
「僕が殺すのは・・・貴女だけです」
そのターゲットリストの内容は、五代恵子の名前と、顔写真であった。
五代恵子がA4用紙のリストを見て絶句する。
「この1枚のA4用紙のリストが、正真正銘、先生からの指令であるターゲットリストです。
僕は、9日前、貴女の東京浄化計画が実行される前に、貴女1人だけを抹殺するよう、SJプロジェクトの元訓練指導員であり、現在、政府諜報企画室の幹部である、1人の担当役員から、このターゲットリストを提示されました。
そして、同日、貴女の身辺と教会を調査するため、現場確認作業を行いました。
救世主 である貴女を守護する十字架戦士 と呼ばれる4人の殺人鬼、貴女を崇拝する数多の信者達、数多くの関係者が貴女に洗脳支配され貴女を護衛し取り巻く中、貴女1人を追い詰めるため、かつ、関係者の犠牲を最小限に食い止めるため、どうすれば良いか考え抜きました」
五代恵子が、足を震わせながら俯き、1歩、後ろに下がる。
「6日前の浄化の絆の十字架戦士 石川健二の殺害指令に端を発して始まった幾つもの殺害指令、これがナンバー5、貴女の仕業であることは、その担当役員に確認を取り、すぐに判明しました。
僕は、貴女の計略に嵌ったフリをして、表向き、貴女の命じた殺害リスト通りに犯行を進めるよう見せかけることで、貴女を油断させ、そのスキを突いて、VXガスの存在を調査し、貴女を出し抜くことに成功した」
「さっきもそうよ!
あの状況で、あたしを、あんたや小田に殺させないように場を収めるために、隼人君は、洗脳されたフリをして、あたしを殺したように見せかけた!
あたしに、VXガスと見せかけたクロロホルムを嗅がせて、仮死状態にした!
隼人君がすっかり自分に洗脳されていると思い込んでいたあんたは、あたしが死んだものと疑いもせず、教会を後にした!」
梨奈が三澤に被せて言い放った。
五代恵子は、屈辱にワナワナと震えながら、さらに2歩後ろに下がる。
「からくりは、以上です。
己の能力を過信した貴女は、まんまと僕の策にハマり、ヘマを犯した。
VXガス、猛毒の神経剤を、海上拡散装置で増幅して東京湾に流し、大量殺人を行おうという、貴女の東京浄化作戦は失敗。
審判の日には、何も起こりませんでした。
貴女の負けです。
ナンバー5」
「・・・・・・」
押し黙っていた五代恵子が、顔を上げて三澤を悪魔の形相で睨みレイピアを構えた。
「・・・貴様ごときに・・・
・・・貴様ごときにいぃ!」
三澤もスティレットを逆手に構え反撃体制取った。
そのままの体制で、三澤と五代恵子が真正面から対峙する。
その対峙する2人を、三澤の背中の3メートルほど後ろから、梨奈が固唾を飲んで見守っていた。
「うおおぉぉ!死ねえぇぇ!!」
五代恵子が大きく目をカッと開くと、三澤に向かってレイピアを一気に突き刺してきた。
三澤も五代恵子に向かって一気に払い抜ける。
三澤と五代恵子が交差すると、キンッと甲高い金属音がして、レイピアとスティレットは互いに弾かれ、天高く舞い上がった。
すぐさま五代恵子は太ももに括り付けた拳銃を取り出し銃口を三澤に向けた。
三澤が踵を返し、凄まじいスピードで五代恵子に一気に距離を詰める。
「くたばれえぇぇ!」
狂い叫ぶ五代恵子が、三澤に向けて銃弾を放った。
銃弾は、弾道を読んだ三澤の右頬を掠め、次の瞬間、三澤の渾身の一撃のボディブローがズドンッと五代恵子のみぞおちに深く深く突き刺さった。
「ゲボオッ!!」
五代恵子は白目を剥いて、よろよろと後ろに3歩下がり、そのまま、ゆっくりと後ろにバタリと倒れた。
※
三澤は、地面に落ちたスティレットを拾うと、仰向けに倒れたまま、白目を剥いて口から泡を吹き続ける五代恵子に、切先を向けた。
「・・・こいつ、殺すの?」
梨奈が三澤に寄り添い尋ねる。
「ナンバー5は、殺戮を繰り返しました。
彼女がSJプロジェクトで身に付けた、他者を洗脳支配して意のままに操り、他者にターゲットを殺害させる能力。
いつしか他者だけでなく、自分自身ですらも、その悪魔のような恐るべき能力に洗脳支配され、残虐な犯行を繰り返してしまったのかもしれません」
三澤はそう言って、スティレットを革製の鞘に仕舞い込んだ。
「・・・彼女は、正式な公共の司法の場で裁いてもらいましょう」
そして、三澤は身を翻して、落としたアタッシュケースに向かって歩き出した。
「そっか・・・
隼人君がそう決めたなら、そうしよ?」
梨奈が三澤の後を追った。
ヘリコプターの爆発音を聞いてか、救急車や消防車、たくさんのパトカーが芝浦埠頭に集まってきた。
「大丈夫ですか!?」
パトカーから降りた複数の警察官が、傷だらけの三澤と、半裸の梨奈に駆け寄ってきた。
「三澤君!梨奈!」
警官達の間を縫って、上野千鶴に支えられた平林桜子が2人の名前を叫ぶと、2人に駆け走って来た。
「・・・少し疲れた・・・」
左脇腹の傷口を押さえ、三澤はガクリと膝をついた。
「隼人君!」
梨奈の声が遠くに聞こえた。
「・・・平林桜子さん、友達である貴女からのお願いは・・・約束通り、果たしたよ・・・」
意識を失いつつ、三澤が呟くように言い、そのまま前にバタリと倒れた。
操縦席では、小田和成が、うう・・・と、うめき声を上げている。激しく頭を目の前のガラス窓にぶつけた上、両足が破壊された機器に挟まって操縦席から抜け出せないようだ。
三澤は、うめき声を上げる小田の横座席に置かれているVXガスの入ったアタッシュケースを見つけ、取り出した。
アタッシュケースは、最高強度の耐熱・耐衝撃性を備えていたようで、中身のVXガスの小瓶は割れず、無事のようだった。
「隼人君!」
黒い薄布を巻き付けた半裸の平林梨奈が、三澤の方に駆け走ってきた。
三澤が梨奈の駆け走ってくる方向を振り向いた。
「・・・危ない!」
梨奈が突如叫んだ。
三澤の背後に、額と両目から血を流し、まるで悪魔が取り憑いているかのような、激しい怒りの形相をした女が、フッと影のように現れた。
五代恵子はレイピアを三澤の左脇腹に突き刺し貫通させた。
刺された三澤が一瞬硬直し、手に持っていたアタッシュケースを落とした。
そのレイピアを引き抜いて、五代恵子は三澤の背中を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた三澤は地面に転がり倒れた。
「この無能があぁ!」
雄叫びを上げながら、五代恵子が、倒れている三澤にレイピアを突き立てようとした。三澤は間一髪、身体を転がしてレイピアの斬撃を交わすと、地面に手を付いて立ち上がった。
三澤の左脇腹から血が吹き流れている。
三澤は、左手で左脇腹を抑えつつ、ズレたメガネの眉間を右手の中指で軽く押さえ掛け直した。
「よくも私の東京浄化計画を滅茶苦茶にしやがって!
よくもサタン様への私の忠誠心を台無しにしやがって!
全部、貴様のせいで!
このゴミクズがぁぁ!」
今までの丁寧な口調からは考えられないような激しい怒声で三澤を罵倒し、レイピアの切先を三澤に向けた。
三澤は左脇腹を左手で押さえつつ、五代恵子に身体を向けた。
「五代恵子さん、いや、ナンバー5、最後に言っておきますが、SJプロジェクト、セブンスジーニアスプロジェクトは、廃止になどなっていません」
「なにぃ!?」
驚きと共に、五代恵子が怒鳴った。
三澤は胸ポケットから、1枚のA4用紙を出した。
そこには、今まで三澤が持っていた書式とは、僅かにレイアウト構成が違うターゲットリストが印刷されていた。
「僕が殺すのは・・・貴女だけです」
そのターゲットリストの内容は、五代恵子の名前と、顔写真であった。
五代恵子がA4用紙のリストを見て絶句する。
「この1枚のA4用紙のリストが、正真正銘、先生からの指令であるターゲットリストです。
僕は、9日前、貴女の東京浄化計画が実行される前に、貴女1人だけを抹殺するよう、SJプロジェクトの元訓練指導員であり、現在、政府諜報企画室の幹部である、1人の担当役員から、このターゲットリストを提示されました。
そして、同日、貴女の身辺と教会を調査するため、現場確認作業を行いました。
五代恵子が、足を震わせながら俯き、1歩、後ろに下がる。
「6日前の浄化の絆の
僕は、貴女の計略に嵌ったフリをして、表向き、貴女の命じた殺害リスト通りに犯行を進めるよう見せかけることで、貴女を油断させ、そのスキを突いて、VXガスの存在を調査し、貴女を出し抜くことに成功した」
「さっきもそうよ!
あの状況で、あたしを、あんたや小田に殺させないように場を収めるために、隼人君は、洗脳されたフリをして、あたしを殺したように見せかけた!
あたしに、VXガスと見せかけたクロロホルムを嗅がせて、仮死状態にした!
隼人君がすっかり自分に洗脳されていると思い込んでいたあんたは、あたしが死んだものと疑いもせず、教会を後にした!」
梨奈が三澤に被せて言い放った。
五代恵子は、屈辱にワナワナと震えながら、さらに2歩後ろに下がる。
「からくりは、以上です。
己の能力を過信した貴女は、まんまと僕の策にハマり、ヘマを犯した。
VXガス、猛毒の神経剤を、海上拡散装置で増幅して東京湾に流し、大量殺人を行おうという、貴女の東京浄化作戦は失敗。
審判の日には、何も起こりませんでした。
貴女の負けです。
ナンバー5」
「・・・・・・」
押し黙っていた五代恵子が、顔を上げて三澤を悪魔の形相で睨みレイピアを構えた。
「・・・貴様ごときに・・・
・・・貴様ごときにいぃ!」
三澤もスティレットを逆手に構え反撃体制取った。
そのままの体制で、三澤と五代恵子が真正面から対峙する。
その対峙する2人を、三澤の背中の3メートルほど後ろから、梨奈が固唾を飲んで見守っていた。
「うおおぉぉ!死ねえぇぇ!!」
五代恵子が大きく目をカッと開くと、三澤に向かってレイピアを一気に突き刺してきた。
三澤も五代恵子に向かって一気に払い抜ける。
三澤と五代恵子が交差すると、キンッと甲高い金属音がして、レイピアとスティレットは互いに弾かれ、天高く舞い上がった。
すぐさま五代恵子は太ももに括り付けた拳銃を取り出し銃口を三澤に向けた。
三澤が踵を返し、凄まじいスピードで五代恵子に一気に距離を詰める。
「くたばれえぇぇ!」
狂い叫ぶ五代恵子が、三澤に向けて銃弾を放った。
銃弾は、弾道を読んだ三澤の右頬を掠め、次の瞬間、三澤の渾身の一撃のボディブローがズドンッと五代恵子のみぞおちに深く深く突き刺さった。
「ゲボオッ!!」
五代恵子は白目を剥いて、よろよろと後ろに3歩下がり、そのまま、ゆっくりと後ろにバタリと倒れた。
※
三澤は、地面に落ちたスティレットを拾うと、仰向けに倒れたまま、白目を剥いて口から泡を吹き続ける五代恵子に、切先を向けた。
「・・・こいつ、殺すの?」
梨奈が三澤に寄り添い尋ねる。
「ナンバー5は、殺戮を繰り返しました。
彼女がSJプロジェクトで身に付けた、他者を洗脳支配して意のままに操り、他者にターゲットを殺害させる能力。
いつしか他者だけでなく、自分自身ですらも、その悪魔のような恐るべき能力に洗脳支配され、残虐な犯行を繰り返してしまったのかもしれません」
三澤はそう言って、スティレットを革製の鞘に仕舞い込んだ。
「・・・彼女は、正式な公共の司法の場で裁いてもらいましょう」
そして、三澤は身を翻して、落としたアタッシュケースに向かって歩き出した。
「そっか・・・
隼人君がそう決めたなら、そうしよ?」
梨奈が三澤の後を追った。
ヘリコプターの爆発音を聞いてか、救急車や消防車、たくさんのパトカーが芝浦埠頭に集まってきた。
「大丈夫ですか!?」
パトカーから降りた複数の警察官が、傷だらけの三澤と、半裸の梨奈に駆け寄ってきた。
「三澤君!梨奈!」
警官達の間を縫って、上野千鶴に支えられた平林桜子が2人の名前を叫ぶと、2人に駆け走って来た。
「・・・少し疲れた・・・」
左脇腹の傷口を押さえ、三澤はガクリと膝をついた。
「隼人君!」
梨奈の声が遠くに聞こえた。
「・・・平林桜子さん、友達である貴女からのお願いは・・・約束通り、果たしたよ・・・」
意識を失いつつ、三澤が呟くように言い、そのまま前にバタリと倒れた。