【審判の日2日前】澁谷誠一
文字数 1,963文字
翌日火曜日午前10:30、コンビニからのアルバイトの不採用通知を受け取った後、プライドを打ちのめされた平林梨奈は、重い足取りで五代恵子のプロテスタント教会に向かって歩いた。
(あたしは、コンビニバイトにすら採用されないような底辺の無能人間なのかな・・・)
社会全体から自身の存在価値を否定されたような気分であった。
暗い気持ちのまま、また杉浦伸平のストーカーまがい行為に遭わないか慎重に周りを見つつ、路地を進んだ。
そういえばあれから、杉浦伸平を全く見かけない。以前は毎日何度もしつこく現れたのに。
隼人君に右腕折られてストーカーまがい行為を繰り返すことに懲りたのか・・・?
梨奈はそのように考え、三澤隼人が、自分に付き纏っていた厄介な男を、追い払ってくれた事に改めて感謝した。
梨奈は、プロテスタント教会に辿り着いた。
梨奈は教会のインターフォンを鳴らした。五代恵子は出て来ず、代わりに50代くらいの前髪が薄く恰幅の良い男が現れた。
「おじさん、こんにちわ、貴方、誰ですか?
恵子おばさんはいませんか?」
悪気は無いものの、若干失礼な口調で、梨奈はその50代男に話しかけた。
「ああ、五代牧師は、今日は他県の別教会に出張中なんですよ。私はこの教会の信者の一人で、澁谷 という者です。今日だけ、五代牧師の代理を務めています」
澁谷と名乗った50代男はそう答えた。
「なんだ、そうなんだ。せっかく恵子おばさんに会えると思って、ここまで来たのに」
梨奈は頬をぷくっと膨らませた。
澁谷は、そんな梨奈を見て、にこやかに笑った。
「ま、せっかくですから、お茶だけでもどうですか?
お嬢さん」
澁谷は梨奈を教会の中に招き入れると、教会に連結している、牧師のプライベートルームに案内した。
プライベートルームは、教会とは全く関係のない、ごく一般的なリビングだった。澁谷は、中央のテーブルにチョコレートやクッキーの類の菓子を出し、冷たい麦茶を差し出した。
※
「なるほど、コンビニのアルバイトですらも、なかなか決まらないのですね。
色々大変そうですね、今の時代は。
それで、梨奈さんは今何を?」
「えーっと、いや、今は何もしていないです。職探し中で・・・」
「なるほど、なるほど。大丈夫、貴女は、まだお若い、未来はいくらでも広がっています」
澁谷は立ち上がって窓を見た。
「梨奈さん、あそこに白いビルが見えるでしょう?」
梨奈は澁谷が指し示す窓を見た。窓の外に10階建くらいの比較的新しそうな白いオフィスビルが見えた。
「私は、あの新宿サザンセントラルビルの10階で個人事務所を経営しています。最近、うちのベテラン事務員さんが産休に入ってしまってね。それもあって、まあ、慢性的な人手不足なわけです。梨奈さん、良かったら一度うちの事務所、見学に来ませんか?」
唐突に澁谷は梨奈に提案した。
「え?それは、アルバイト採用でってことですか?」
梨奈がパッと顔を輝かせた。
「はい、もし梨奈さんさえ良ければの話ではありますが、ぜひ一緒に働いてみたいですね。
聞けば前の職場では色々あったみたいですが、うちはハラスメント対策もしっかりやらさせて頂いています。
ま、最初は、最低賃金に毛が生えた程度しか保証はできませんけど、やる気次第では待遇の見直しや、正規採用へのキャリアパス等、考えていきたいとは思います」
澁谷からの思いがけない提案に、梨奈の心が弾んだ。
仕事まで見つかった!
条件も悪くない!
この教会を訪ねてから、運が舞い込んできている!
本当に、今、神様の恩恵を受けているのかもしれない!
「もし今何もしていなくて、お仕事を探している身なのであれば、ぜひ、考えてみて下さい。これ、私の名刺です」
澁谷 誠一 化学工業コンサルティング事務所と書かれた名刺を梨奈は受け取った。
「化学工業コンサルティング事務所???」
「はい、うちでの仕事は、主に製薬会社や化学薬品製造企業に対して、新しい薬品製造に関する企画提案をすることです。なあに、梨奈さんに任せたいことは一般事務なので、専門知識は最初は不要です」
一般事務ならば、デスクワークだし、コンビニアルバイトよりも楽ちんそうだ!
「はい!ぜひ!よろしくお願いします!今すぐにでも行きたいです!!」
梨奈は嬉々として明るい笑顔で深く澁谷誠一に御辞儀をした。
澁谷はそんな梨奈を見て微笑んだ。
「やる気があって良いですね。
ま、一日よくお考え下さい。
明日の正午に、このプロテスタント教会の正面玄関口で待ち合わせましょう」
「はい!お願いします!」
「ふふ、やはり若い方は何事も前向きで素晴らしい。では、今日はこれで」
澁谷は教会のプライベートルームを出た。
梨奈は教会を出ると、教会を訪れた当初とはうってかわって、久々に希望に満ち溢れた晴れやかな気持ちだった。
透き通るような青空の下、梨奈は意気揚々と家路に着いた。
(あたしは、コンビニバイトにすら採用されないような底辺の無能人間なのかな・・・)
社会全体から自身の存在価値を否定されたような気分であった。
暗い気持ちのまま、また杉浦伸平のストーカーまがい行為に遭わないか慎重に周りを見つつ、路地を進んだ。
そういえばあれから、杉浦伸平を全く見かけない。以前は毎日何度もしつこく現れたのに。
隼人君に右腕折られてストーカーまがい行為を繰り返すことに懲りたのか・・・?
梨奈はそのように考え、三澤隼人が、自分に付き纏っていた厄介な男を、追い払ってくれた事に改めて感謝した。
梨奈は、プロテスタント教会に辿り着いた。
梨奈は教会のインターフォンを鳴らした。五代恵子は出て来ず、代わりに50代くらいの前髪が薄く恰幅の良い男が現れた。
「おじさん、こんにちわ、貴方、誰ですか?
恵子おばさんはいませんか?」
悪気は無いものの、若干失礼な口調で、梨奈はその50代男に話しかけた。
「ああ、五代牧師は、今日は他県の別教会に出張中なんですよ。私はこの教会の信者の一人で、
澁谷と名乗った50代男はそう答えた。
「なんだ、そうなんだ。せっかく恵子おばさんに会えると思って、ここまで来たのに」
梨奈は頬をぷくっと膨らませた。
澁谷は、そんな梨奈を見て、にこやかに笑った。
「ま、せっかくですから、お茶だけでもどうですか?
お嬢さん」
澁谷は梨奈を教会の中に招き入れると、教会に連結している、牧師のプライベートルームに案内した。
プライベートルームは、教会とは全く関係のない、ごく一般的なリビングだった。澁谷は、中央のテーブルにチョコレートやクッキーの類の菓子を出し、冷たい麦茶を差し出した。
※
「なるほど、コンビニのアルバイトですらも、なかなか決まらないのですね。
色々大変そうですね、今の時代は。
それで、梨奈さんは今何を?」
「えーっと、いや、今は何もしていないです。職探し中で・・・」
「なるほど、なるほど。大丈夫、貴女は、まだお若い、未来はいくらでも広がっています」
澁谷は立ち上がって窓を見た。
「梨奈さん、あそこに白いビルが見えるでしょう?」
梨奈は澁谷が指し示す窓を見た。窓の外に10階建くらいの比較的新しそうな白いオフィスビルが見えた。
「私は、あの新宿サザンセントラルビルの10階で個人事務所を経営しています。最近、うちのベテラン事務員さんが産休に入ってしまってね。それもあって、まあ、慢性的な人手不足なわけです。梨奈さん、良かったら一度うちの事務所、見学に来ませんか?」
唐突に澁谷は梨奈に提案した。
「え?それは、アルバイト採用でってことですか?」
梨奈がパッと顔を輝かせた。
「はい、もし梨奈さんさえ良ければの話ではありますが、ぜひ一緒に働いてみたいですね。
聞けば前の職場では色々あったみたいですが、うちはハラスメント対策もしっかりやらさせて頂いています。
ま、最初は、最低賃金に毛が生えた程度しか保証はできませんけど、やる気次第では待遇の見直しや、正規採用へのキャリアパス等、考えていきたいとは思います」
澁谷からの思いがけない提案に、梨奈の心が弾んだ。
仕事まで見つかった!
条件も悪くない!
この教会を訪ねてから、運が舞い込んできている!
本当に、今、神様の恩恵を受けているのかもしれない!
「もし今何もしていなくて、お仕事を探している身なのであれば、ぜひ、考えてみて下さい。これ、私の名刺です」
「化学工業コンサルティング事務所???」
「はい、うちでの仕事は、主に製薬会社や化学薬品製造企業に対して、新しい薬品製造に関する企画提案をすることです。なあに、梨奈さんに任せたいことは一般事務なので、専門知識は最初は不要です」
一般事務ならば、デスクワークだし、コンビニアルバイトよりも楽ちんそうだ!
「はい!ぜひ!よろしくお願いします!今すぐにでも行きたいです!!」
梨奈は嬉々として明るい笑顔で深く澁谷誠一に御辞儀をした。
澁谷はそんな梨奈を見て微笑んだ。
「やる気があって良いですね。
ま、一日よくお考え下さい。
明日の正午に、このプロテスタント教会の正面玄関口で待ち合わせましょう」
「はい!お願いします!」
「ふふ、やはり若い方は何事も前向きで素晴らしい。では、今日はこれで」
澁谷は教会のプライベートルームを出た。
梨奈は教会を出ると、教会を訪れた当初とはうってかわって、久々に希望に満ち溢れた晴れやかな気持ちだった。
透き通るような青空の下、梨奈は意気揚々と家路に着いた。