【審判の日前日】SJプロジェクト
文字数 1,854文字
「貴女には、ちゃんと忠告しておかないといけないのよね。彼、三澤隼人君の事」
上野千鶴は、白衣に着替えて、診察室で平林桜子と向かい合った。
「まずは簡単に私の自己紹介。
私は、表向きは精神科医だけど、実際は、主に、SJプロジェクトの補助監督人として、三澤君の任務のサポートと監視をしているの」
「SJプロジェクト?」
桜子は、あの黒ローブも同じような単語を使っていたことを思い出した。
「セブンス(S)ジーニアス(J)プロジェクト。
彼が、子供の頃、特殊な組織で教育を受けていたことは、貴女も多少聞いているでしょう?」
桜子は、レストランで三人で食事したときの会話を思い出した。
「はい、なんか、7人しかいない学校で、数学と理科と運動科学を学んだとか・・・」
「その特殊な組織とは、SJプロジェクト実行部隊養成施設。中央政府は、特異な能力を有する7人の子供達を、選別し集めて、施設で特殊訓練を施した。
いわゆる、暗殺術を極めさせる訓練よ」
「暗殺術?」
いきなり何を言い出すのか、あまりの現実離れした空想のような話に、桜子は困惑した。
「中央政府は、自国の不利益になる人間を抹殺するための暗殺者を造ろうとした。
それがSJプロジェクト。
特殊訓練は過酷なもので、集められた7人の子供のうち、2人しか生き残らなかった。生き残ったのは、ナンバー3 と、ナンバー5 。
そのナンバー3が、三澤君なの」
(それで、あの黒ローブは三澤君のことをナンバー3と呼んでいたのか・・・)
空想話としか思えなかったが、三澤がナンバー3と呼ばれていた理由についてだけは、合点がいった。
「SJプロジェクトで暗殺者として最終選別された三澤君には、必要な時、中央政府から、暗殺のターゲットとなるリストが送られてくるの。そのターゲットリストの内容は私も知ることができない。
彼は、それを先生からのリストと呼んでいるわ。
きっと、SJプロジェクトで自分に過酷な訓練を課していた先生から送られてくるリストだと思っているのでしょうね。
彼は、警察が手に負えない犯罪者、何らかの理由で逮捕できず野晒しにされている犯罪者達を、数えきれない程、殺害してきたわ。
凶悪殺人犯、大規模犯罪組織の要人、日本転覆を狙う外国スパイ、等。
彼の殺戮行為は、いくら中央政府の指令とはいえ、決して人道的に許されるものではない。
でも、良心も罪悪感も正義感も持ち合わせていない彼は、ターゲットリストに基づいて暗殺を繰り返し続けた。
組織で、ずっと、そのように造られてきたから」
「そんな・・・」
(・・・三澤君が政府の指令に基づいて殺人を・・・?)
上野千鶴は立ち上がって、診察室の窓から外の公園を見た。
窓の外から見える公園には、暑い夏の日差しの中、仲良さそうにベビーカーを引いて歩く親子連れや、小学生くらいの子供達が走り回っている光景が広がっていた。
「何もかも人道的な正義ばかりで安全の保障が図れるものではない・・・。
今日、日本が平和で、大きな事件が起こっていないのも、彼のような存在が裏にあるからかもしれない・・・」
上野千鶴は窓から目を逸らして桜子を振り向いて続けた。
「・・・彼には、感情が一切無いの。
機械仕掛けの人形のように、中央政府からのターゲットリストに従い任務を遂行するだけ。
だから、人を殺すことに何の躊躇も無い。
リストに挙がったターゲットは、女子供でも容赦なく殺戮できるの。
彼は普通の人間とは全く違う。
精神科医 兼 SJプロジェクト補助監督人の私でも、彼に関わることは難しい。
だから、素人の貴女が彼に関わることは、危険以外も何物でもないのよ」
桜子は呆然と上野千鶴の話を聞いていた。
桜子自身、ここ数日三澤と何度か行動を共にして、上野千鶴の言う事に思い当たる部分も節々にある。
だが、桜子には、今の話を全面的に受け入れることは出来なかった。
(三澤君は、確かに表に感情を全く出さないけど、決して、機械仕掛けの人形なんかじゃない。
ちゃんと、とても優しい、人の心を持っている・・・)
「ここ数年は、ターゲットリストが送られてくることは全くなかったんだけど、数日前から、突然またリストが送られ始めた。
彼は現在、リストに記載されたターゲット達と交戦し、行方不明。
分かるでしょ?
歯止めを失った彼の力が暴走したら、大変な事態になる。
今、非常に危険な状況なの。
・・・邪魔はしないで欲しい。
このことは極秘よ。誰にも知られてはならない。もちろん貴女の娘の梨奈ちゃんにもね」
上野千鶴は桜子との会話を切り上げた。
桜子は沈痛な面持ちで、診察室から出た。
上野千鶴は、白衣に着替えて、診察室で平林桜子と向かい合った。
「まずは簡単に私の自己紹介。
私は、表向きは精神科医だけど、実際は、主に、SJプロジェクトの補助監督人として、三澤君の任務のサポートと監視をしているの」
「SJプロジェクト?」
桜子は、あの黒ローブも同じような単語を使っていたことを思い出した。
「セブンス(S)ジーニアス(J)プロジェクト。
彼が、子供の頃、特殊な組織で教育を受けていたことは、貴女も多少聞いているでしょう?」
桜子は、レストランで三人で食事したときの会話を思い出した。
「はい、なんか、7人しかいない学校で、数学と理科と運動科学を学んだとか・・・」
「その特殊な組織とは、SJプロジェクト実行部隊養成施設。中央政府は、特異な能力を有する7人の子供達を、選別し集めて、施設で特殊訓練を施した。
いわゆる、暗殺術を極めさせる訓練よ」
「暗殺術?」
いきなり何を言い出すのか、あまりの現実離れした空想のような話に、桜子は困惑した。
「中央政府は、自国の不利益になる人間を抹殺するための暗殺者を造ろうとした。
それがSJプロジェクト。
特殊訓練は過酷なもので、集められた7人の子供のうち、2人しか生き残らなかった。生き残ったのは、ナンバー
そのナンバー3が、三澤君なの」
(それで、あの黒ローブは三澤君のことをナンバー3と呼んでいたのか・・・)
空想話としか思えなかったが、三澤がナンバー3と呼ばれていた理由についてだけは、合点がいった。
「SJプロジェクトで暗殺者として最終選別された三澤君には、必要な時、中央政府から、暗殺のターゲットとなるリストが送られてくるの。そのターゲットリストの内容は私も知ることができない。
彼は、それを先生からのリストと呼んでいるわ。
きっと、SJプロジェクトで自分に過酷な訓練を課していた先生から送られてくるリストだと思っているのでしょうね。
彼は、警察が手に負えない犯罪者、何らかの理由で逮捕できず野晒しにされている犯罪者達を、数えきれない程、殺害してきたわ。
凶悪殺人犯、大規模犯罪組織の要人、日本転覆を狙う外国スパイ、等。
彼の殺戮行為は、いくら中央政府の指令とはいえ、決して人道的に許されるものではない。
でも、良心も罪悪感も正義感も持ち合わせていない彼は、ターゲットリストに基づいて暗殺を繰り返し続けた。
組織で、ずっと、そのように造られてきたから」
「そんな・・・」
(・・・三澤君が政府の指令に基づいて殺人を・・・?)
上野千鶴は立ち上がって、診察室の窓から外の公園を見た。
窓の外から見える公園には、暑い夏の日差しの中、仲良さそうにベビーカーを引いて歩く親子連れや、小学生くらいの子供達が走り回っている光景が広がっていた。
「何もかも人道的な正義ばかりで安全の保障が図れるものではない・・・。
今日、日本が平和で、大きな事件が起こっていないのも、彼のような存在が裏にあるからかもしれない・・・」
上野千鶴は窓から目を逸らして桜子を振り向いて続けた。
「・・・彼には、感情が一切無いの。
機械仕掛けの人形のように、中央政府からのターゲットリストに従い任務を遂行するだけ。
だから、人を殺すことに何の躊躇も無い。
リストに挙がったターゲットは、女子供でも容赦なく殺戮できるの。
彼は普通の人間とは全く違う。
精神科医 兼 SJプロジェクト補助監督人の私でも、彼に関わることは難しい。
だから、素人の貴女が彼に関わることは、危険以外も何物でもないのよ」
桜子は呆然と上野千鶴の話を聞いていた。
桜子自身、ここ数日三澤と何度か行動を共にして、上野千鶴の言う事に思い当たる部分も節々にある。
だが、桜子には、今の話を全面的に受け入れることは出来なかった。
(三澤君は、確かに表に感情を全く出さないけど、決して、機械仕掛けの人形なんかじゃない。
ちゃんと、とても優しい、人の心を持っている・・・)
「ここ数年は、ターゲットリストが送られてくることは全くなかったんだけど、数日前から、突然またリストが送られ始めた。
彼は現在、リストに記載されたターゲット達と交戦し、行方不明。
分かるでしょ?
歯止めを失った彼の力が暴走したら、大変な事態になる。
今、非常に危険な状況なの。
・・・邪魔はしないで欲しい。
このことは極秘よ。誰にも知られてはならない。もちろん貴女の娘の梨奈ちゃんにもね」
上野千鶴は桜子との会話を切り上げた。
桜子は沈痛な面持ちで、診察室から出た。