【審判の日前日】上野千鶴

文字数 1,228文字

翌日水曜日、午前11:00、平林桜子は通常通り新宿第一病院に出勤していた。

結局、昨日あの後、桜子は三澤隼人に何度も連絡したが、応答はなかった。

娘の平林梨奈には、昨日の事は何も話さなかった。梨奈から、今日の正午に、自力で見つけた就職先へ訪問する予定があると言われたからだ。

娘の進路で大事な時に、娘に余計な不安や混乱を与えたくなかった。

(しかし、やはり、三澤君は、今、何かの事件に巻き込まれているのではないだろうか・・・)

悶々と不安になり、仕事に手がつかなかった。桜子は意を決して病院受付窓口を出た。

「ちょっと、平林さん!どこ行くの?」

年下の先輩の静止も聞かず、桜子は新宿第一病院の建物出入り口から外に出た。

(無駄かもしれないけど、もう一度警察行ってみよう!)

そう決心すると、ブオオオオと大きな音を立てて、一台のバイクが目の前を通り過ぎて、病院の駐車場に停まった。

バイクの乗り主であるそのライダースーツを身に纏った女性がヘルメットを取ると、長い髪と凜とした美しい顔が現れた。

(あれは・・・)

精神科医 上野(うえの)千鶴(ちづる)は、バイクの鍵を取り、バイク座席を開けて中からハンドバッグを取り出すと、桜子の視線に気がつき、桜子を見た。
しばらく2人は見つめ合った後、上野千鶴は、そのままスタスタと桜子に近づいてきた。

「ちょっと!何勝手に職場離れているのよ!あなた何様のつもり!?」

年下の先輩が、桜子を追いかけてきて、桜子に大声で怒鳴った。

「大体・・・」

年下の先輩が何か言おうとしたところ、上野千鶴は、左手を垂直に挙げて、桜子の年下の先輩の言葉を制した。

「あ、上野先生・・・」

桜子の年下の先輩は、左手を垂直に挙げた女性が、精神科医 上野千鶴であることを確認すると、突然静かになった。

「香織ちゃん、ちょっと、この子、借りるわね」

上野千鶴は、桜子に目配せをした。自分に着いてこいと合図しているらしい。

桜子は颯爽と診察室に向かう上野千鶴の後を慌てて追った。



正午、澁谷誠一と梨奈は、五代恵子のプロテスタント教会の前で待ち合わせすると、白いオフィスビルを目指した。

梨奈の心は弾んでいた。

(やっと仕事にありつけた!
しかも一般事務!デスクワーク!ラッキー!)

もうすぐで白いオフィスビルに辿り着くという地点で、突然、黒いローブを纏った複数の得体のしれない性別年齢不詳の人間達が5、6人脇道から出て来て、2人を取り囲んだ。

「何だね?君たちは」

澁谷誠一が取り囲む黒ローブ集団に語りかけた。異様な集団の登場に、梨奈は怖くなり澁谷誠一の背中に隠れた。

「・・・汚れし魂に神の浄化を・・・」

黒ローブ集団達は澁谷誠一の後頭部を鉄製の棒で強打した。

「うっ!」

澁谷誠一は膝を地面の着くと、そのままどさりと前に倒れた。

「澁谷さん!」

梨奈が倒れた澁谷を見て叫んだ。その梨奈の両腕を黒ローブが掴んだ。

「・・・!!」

次に、他の黒ローブの1人が、黒いハンカチを梨奈の鼻と口にあてがった。

すると、梨奈の意識は急激に落ちていった。



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