第3章(8)レーネ機、そしてユーライアス艦橋

文字数 1,096文字

「海賊の大型船は、光線兵器と推進機関のために『エルデマクト・リアクター』で一度に膨大な魔力変換を行っている。加熱した『エルデマクト・リアクター』を冷却させる大掛かりな機構が必要になるわ。船舶なら水冷式と考えるのが自然ね。恐らくは船底に冷却水の取入口がある、そこが敵の弱点よ」

「貴女が乗る『ガルーダ』の機械腕に、磁石吸着式の時限爆弾を装備したわ。取入口とその上にある放熱装置を破壊できれば、『エルデマクト・リアクター』が稼働できなくなり船は停止するはずよ」


 出撃直前にレーネがのどかに伝えた急ごしらえの作戦は、搭乗者涼宮のどかの桁外れの同期率に依存していた。
 レーネの計算では、『ガルーダ』の魔力防壁は最大出力で二〇気圧防水を実現できる。しかし、それも数十秒しか維持できない。
 だから常識では、尊い人命と高価な飛行機械が海に沈んで終わりになるだけだ。
 今のところ、「奇跡」は順調に起きている。
 生体同期装置の効果も予想以上だった。
 しかし。

「機雷?」

 レーネの眼下で、海賊のスループ船が船尾から樽を海に落とし始めた。

「……なるほど、ご丁寧に潜水艦対策もしてきたってわけね」

 『フォレスタ』が保有する兵器の情報を持っているなら、『エピメテウス』の存在も当然知っているはずだ。
 最初から『エピメテウス』で近付かなかったのは正解だった。
 だが今危ないのはのどかだ。
 海上からでもはっきりと見える翠色の光を放つ四番機に、機雷が次々と投下され水柱が上がっている。
 そして、海の色が、前方の一線を境に微かに変化していた。
 トメニア帝国が領有権を主張する大陸棚に入るのだ。




「再び発火信号、『警告に従わない場合、貴艦隊を実力で排除する用意あり』……!」

 連合海軍・ユーライアス艦橋。
 既にトメニア帝国の沿岸警備隊からの砲撃が、ユーライアスの至近に着弾していた。

「左砲戦用意」

 クインタス・アリウス卿が静かに命じた。
 居並ぶ幕僚達の間にどよめきが起こる。

「お止め下さい! トメニア軍と交戦するなど、任務を逸脱しています!」
「外交問題に発展しますぞ!」

 反対する幕僚達を、アリウス卿は片手を上げて黙らせた。

「先に撃ってきたのはトメニアだ。責任は、全てわしがとる」

 日頃無能な将官と陰で言われてきた面影は、今そこには無かった。

「了解です閣下。左砲戦用意!」

 艦長が高らかに復唱し、砲術士官達が砲室群の管制にかかる。

「左舷、全砲門を敵に指向右二〇度二分の一、仰角三五度!」
「目標敵先頭艦、初弾観測撃ち方始め!」
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