第1章(3)世界を救う翼

文字数 985文字

 ディータはビブロス市内を流れる運河までのどかを連れてくると、つないであった小舟にのどかを乗せて漕ぎ出した。

「あの……ディータさんって軍人さんなんですか?」

 ディータが羽織っている軍服が気になってのどかは訊ねた。

「おう、いちおーな。こう見えても中佐様だ」

 子どもの自慢話のような軽いノリでディータが答える。

「えっ、中佐って確か高い位ですよね! すごいです!」

「いやあ、あたしは大戦前に偶然お偉いさんとダチになってさ、そのコネで階級がもらえただけだ。元は見ての通りのチンピラだぜ」
「そ、そうなんですか……」

 しばらくすると、小舟は運河を出て大きな船が停泊する港湾に出る。

「あの……これから『フォレスタ』の本部に案内して下さるんですよね?」

 小舟が沖の方へ進んで行くので、のどかは不安になってディータに訊ねた。
 国際機関の本部というから、街中にある建物に連れていかれると思っていたのだ。

「勿論そのつもりだ。あたしに回り道する趣味はねえしな」

 そう返事をする間にもディータは舟を漕ぎ続け、港はどんどん遠ざかっていく。
 反対に、舟は湾の外にいくつかある無人島の一つに近付いてきた。
 ディータはその無人島の裏側に小舟を回り込ませる。
 港や行き交う船からは死角になっている入り江にさしかかった時、ディータは漕ぐ手をいったん休めて告げた。

「ほら、着いたぜ」

 そこにあるものを見て、のどかは息を呑んだ。
 入り江の奥に、黒い金属で覆われた巨大な人工物が浮かんでいる。
 船のようだが、上には船橋も無ければ煙突も帆柱も無く、船体はなめらかな曲面だけで構成されていて、のどかがこれまでに見たことのあるどんな船とも違っていた。

「すごいです! 鯨みたい!」
「格好は似てるが、こいつは鯨よりでかい。特務輸送艦『エピメテウス』、全長三〇〇キュピト、全幅五〇キュピト。うちら『フォレスタ』の本部だ。母艦と呼んだ方が正しいかもな。でもって……」

 ディータが指差した空を、キィンという高い音と共に何かが通り過ぎた。
 一陣の風が吹きぬけ、ディータとのどかの髪を揺らす。

「あれが『ガルーダ』。世界を救う『フォレスタ』の切り札、人類の叡智が生んだ翼だ」

「『ガルーダ』……」

 のどかが見上げた先で、銀色の翼が大きく旋回した。
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