第4章(1)私も貴女が大嫌いです

文字数 1,001文字

 大型船が揺れ、水柱が上がる。
 速度が落ち、船体が傾いていく。
 レーネ・シュタールは、その光景が作戦の成功を意味するとすぐには信じられなかった。
 冷却機構を破壊され、光線砲は無力化された。
 奇跡だった。
 だが、驚いている暇は無い。
 すぐに我にかえって通信機に声を張り上げる。

「上昇して下さい、スミルノワさん! 私が援護します!」

〈……了解!〉

 ナターシャは直ちに、自機と光線砲とを固定する銛に仕込まれた炸薬を点火させる。
 銛と鋼線が分離し、『ガルーダ』は上昇を開始した。
 しかし。
 レーネの眼下で、ナターシャの『ガルーダ』が途中でガクンと引き戻され、上昇が止まる。

「何をしているの、急いで!」

〈駄目だ、鋼線の一つが船体に引っ掛かって……〉

 そうしている間にも、左右のスループ船から誘導弾が放たれる。
 レーネは、『アパレティエーター』の制御装置に再び手をかけた。
 涼宮のどかが掴みとってくれた奇跡を、無駄にしてはいけない。今度は私が戦う番だ。

「指向性圧縮を再開!」

 短時間での再稼動に機体が限界を超えて加熱し、制御装置が焦げて煙を上げる。
 手袋が焼け、指に鋭い痛みが走るが、レーネは気に留めない。

「っ……座標〇・〇固定。抑制機能を停止。防護手順を全省略」

 レーネ機の胴体下に抱えた槍が、火花を散らしながら熱を帯び始める。

〈何をしている?〉

「……対空誘導弾は私が引き受けます! スミルノワさんはどうにかしてその鋼線を切り離して下さい!」

 話している最中にも海賊の撃ち上げた誘導弾が空中で静止したレーネ機の熱源に次々と引き寄せられ、至近距離で魔力防壁に阻まれ爆散する。
 ナターシャ機を庇って真上で静止し、誘導弾を受け止め続ける。

〈止せ、そのままでは君の機体が!〉

「スミルノワさん。私も貴女が大嫌いです」

 限界を悟りながら、レーネは微笑んでいた。
 これ以上魔力を『アパレティエーター』の稼働に注力し続ければ、防壁は維持できない。
 それでもレーネは、誘導弾から逃げなかった。

「貴女を殺すつもりでした。いえ、殺すべきだった。なのに、できませんでした。偽善かもしれない。……それでも私は、信じたかった。皆が助かる未来があると、信じたかった」

 でも、その幸せな未来に、きっと私の居場所は無い。
 だから、これでいい。
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