第3章(11)絶対に諦めない

文字数 590文字

「まっ…けるもんかーーーっっっ!」

 生体同期が息を吹き返す。
 のどかは吠えた。

 のどかには、まだわからない。
 どうすれば、世界を『ムア』から救えるのか。
 どうすれば、傷付いた人々を癒せるのか。
 横たわる問題は大きくて、複雑で、何が正しくてどうすればいいのか、迷って立ち止まりそうになる。

 だけど知っている。
 目の前で危ない目にあっている誰かを助けるのに、理由なんて要らない。
 絶対に、最後まで諦めない。

 のどかは『ガルーダ』の機械腕をいっぱいに伸ばす。
 ひびが拡がった風防硝子の向こう、遠ざかる日の光が、海中を漂う細長い棒状の物体を照らしていた。
 沈められた連合海軍のものだろう、途中で溶けて折れた帆柱の残骸。
 のどかはそれを掴み、操縦桿を思い切り引いた。
 水圧を押しのけて、『ガルーダ』は一気に浮上する。
 海賊の大型船の船底が、みるみる迫る。
 見えた。
 冷却水の取入口。
 回転する幾重もの堅牢な濾過壁が、異物の侵入を防いでいる。
 それでものどかは、速度を緩めない。
 左右の機械腕で帆柱をしっかりと固定し、取入口へと突撃する。

「突きーっ!」

 故郷で教わった、剣道の要領だった。
 帆柱の残骸は、一瞬だけ濾過壁に挟まれ、しかし次の瞬間に突き抜けた。
 何かが潰れる鈍い音。
 僅かに遅れて、爆発音と衝撃波が海中を駆け抜けた。
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