序章 フォレスタ

文字数 1,170文字

 エイゲノル暦八三〇年、世界大陸の北方に位置するランズベルク共和国で、自然界に循環する未知のエネルギー『エルデマクト』を抽出し、これを魔力に変換する画期的な動力機関、『エルデマクト・リアクター』が発明された。

 同八三一年、それまで議会制民主主義国家だったランズベルク共和国は独裁国家ランズベルク公国へと体制を改め、実用化された『エルデマクト・リアクター』を背景にした驚異的な工業生産力で周辺諸邦を勢力下におきつつ、より温暖で肥沃な地域に生存圏を拡大すべく南下を開始。

 エイゲノル暦八四〇年、とどまることを知らないランズベルク公国の膨張はついに大陸西方の巨大な内海・北洋の海岸線にまで達し、北洋の覇権を握り海上貿易を独占して栄えていたティレニア人都市国家群と衝突、ここに第二次北洋戦争、または『魔力戦争』と呼ばれる大戦が勃発した。

 この大戦でランズベルク軍は『エルデマクト・リアクター』によって無限に抽出できると考えられていた魔力を応用した軍事兵器を戦場に投入し優勢に立つが、それと時を同じくして、開戦の数年前から大陸南方で観測されていた『ムア』と呼ばれる荒廃現象が各地で一斉に発生する。
 それまで豊かな実りのあった地域で突然森や田畑が枯れ、家畜は子を産まなくなり、さらにはそこに住む人間にまで、身体機能の衰えや出生率の低下といった症状が現れた。
 相互の関連性が不明なまま急速に拡大したこれらの奇怪な現象は、やがて大都市や重要な穀倉地帯までをも呑み込み、人類全体に深刻な危機をもたらした。

 調査と研究の末、その原因は、無尽蔵に存在すると考えられていた『エルデマクト』が維持していた惑星環境の相互作用が、ランズベルク公国による魔力の過剰利用の結果均衡を失ったことにあると結論付けられた。

 エイゲノル暦八四一年、『ムア』拡大によって戦争継続が困難になった両陣営は講和条約を結び、さらに共同で『ムア』に対処すべく大陸の主な国々が参加する世界連合政府、並びに連合魔力管理委員会を組織し、連合管理下での『エルデマクト・リアクター』の利用制限と、関連技術の拡散防止が試みられた。

 そして、大戦の終結から三年が経過したエイゲノル暦八四四年。
 『エルデマクト・リアクター』の非合法な技術拡散と『ムア』の拡大に歯止めをかけられない世界連合政府は、事態を打開するため大陸各地から精鋭を集め、連合魔力管理委員会委員長直属の専門組織を新たに設立する。

 いかなる大国からも独立した指揮系統を有し、魔力の濫用を実力で阻止するその新組織の名は、特別査察執行部隊(Forze del L'unità Esecuzione di Speciale Trattato Amministrazione)

 通称、『フォレスタ』である。
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