第4章(5)レーネとナターシャ

文字数 993文字

 空からナターシャの一番機、遅れてレーネの三番機がふらつきながら何とか着艦する。
 先に甲板に降りたナターシャは、傷付いた三番機によじ登って風防をこじ開けた。

「おい大丈夫か! 返事をしろ!」

 操縦席に座るレーネは目を閉じている。
 その手や顔についた痛々しい火傷の痕を見て、ナターシャの顔から血の気が引いた。

「誰か、衛生兵と担架を! しっかりしろ、レーネ!」
「……もう、うるさいわねスミルノワさん……大げさですよ」

 うっすらと目を開け、レーネは苦笑した。
 ナターシャの手をとり、火傷の痛みに眉根を寄せながらも、自力で起き上がって機体を降りた。
 周りにシャンタニとのどかが集まる。

「みんな……」

 ナターシャは頭を垂れた。

「……自分の勝手で、みんなを危険な目にあわせた。本当にすまなかった」

「ふん、全くじゃ痴れ者が。これに懲りて、己が身を粗末にしないことじゃな」
「終わりよければ全て良しです。お魚もとれましたし!」

 シャンタニは鼻を鳴らし、のどかは能天気に笑う。
 ナターシャは最後に、黙っているレーネに向き直った。

「……君の寛大さに甘えて、これまで酷いことを沢山言った。最低だった。すまない」

 以前の刺々しさもかたくなさも無くなった、素直な言葉。

「な……何を寝ぼけたことを言っているのかしらスミルノワさん、私は貴女を殺そうとしたのよ? それに、貴女のご家族も故郷も、私が奪ったようなもの。忘れたの? 私には貴女からそんなことを言われる資格なんて」

 レーネの早口の反論が、途中で止む。
 ナターシャが、レーネを抱き締めていた。

「でも、君は助けに来てくれた。……ありがとう」

 レーネは目を見開いた。

「やめて……やめてよ……こんなに優しくされたら、私……」



 幸せになったらいけないのに。
 でも。

 それ以上は、言葉にならなかった。
 レーネは、その日二度目の涙を流した。
 ナターシャの胸の中で、子どものように泣きじゃくった。

「馬鹿……馬鹿ぁ……」
「すまなかった。その……これからはレーネと呼んでもいいか?」

 顔を赤くして明後日の方を見ながら、ナターシャは訊ねる。
 実は、さっき既にそう呼んでいたのだが。
 レーネは、泣きながらしばらく戸惑って、最後にこくんと頷いた。

「ええ……ナターシャ」
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