第3章(7)空と海とが、溶け合う場所

文字数 661文字

 風防の向こうに、淡い水色の世界が広がる。
 海面近くを泳いでいた魚達が驚いて四方へ逃げて行くのが見える。
 飛行機械『ガルーダ』で海中へ突入するという荒技をやるにあたって、涼宮のどかに特別の気負いや恐れは無かった。
 機械について深い知識を持っていないからでもあったが、何よりのどかにとって、海の中は幼い頃から慣れ親しんだ場所だったからだ。
 空を飛ぶというのは、普通ではできないことだから楽しくはあったが、やはり回りに何も無いというのは落ち着かない。
 水で満たされた海の中の方が「しっくりくる」。
 だから、のどかは信じることができた。
 機体は砕けたりしない。
 水圧に押し潰されることも無い。
 前に進める。
 そう信じて疑っていなかった。
 そして、その通りになった。
 計器類は、高度計を除いて全て異常無し。
 のどかはただ、故郷の海で、水底の貝をとるために潜る自分をイメージするだけで良かった。

「何だろう……すごい気持ち良い!」

 文字通り海の中を「飛んで」いる『ガルーダ』。
 その機体が、のどかには自分の身体の一部、手足の延長と感じられた。
 機械との感覚の共有が実現した時の、独特の高揚感。
 それが特別な力だとは、のどかはまだ気付いていなかった。
 目標が近い。
 光線砲を積んだ大型船を中心に南東に向け航跡を描く海賊船団の船底が、海に黒い影を落としている。
 のどかは機体を再び海面へと向けた。
 無数の水泡の尾をひいて、『ガルーダ』は翔け上がる。
 空と海とが、ひとつに溶け合う場所へ。
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