第2章(11)対空誘導弾

文字数 1,052文字


「海賊が噴進弾を隠し持ってやがっただと? ……しかも目がついてるみてえに追いかけてくる?」

 『エピメテウス』司令塔。
 大型通信機の前にディータとのどか、それにレーネが集まった。

〈肯定です、中佐殿! 二番機は一一隻のスループ船全てから同様の攻撃を受けていて、回避に精一杯で光線兵器を搭載した海賊船をそちらに誘導できません!〉

「……対空誘導弾だわ」

 ナターシャの報告を聴いてレーネの表情が険しくなる。

〈何だそれは?〉

「弾頭に小型の観測装置を搭載し、高速で移動する熱源を追尾できる噴進弾よ。将来、『ガルーダ』のような飛行機械を犯罪者が保有し悪用する事態を想定して、技術部で研究が進められているの。でもどうして、『フォレスタ』でもまだ実用化されてないような兵器を海賊が……」

 そこまで言って、レーネは気付いた。
 飛行機械を迎撃するための兵器、対空誘導弾は、飛行機械を持たない連合海軍との戦いには必要無いものだ。
 つまりこの海賊と思われていた組織は、世界連合政府でもほんの一握りの人間しかまだ知らないはずの『ガルーダ』の存在について知っており、それを有する『フォレスタ』の介入を予期していたということになる。
 だとすれば、彼等の狙いは最初から――

「罠だったみてえだな」

 ディータも同じ結論に達したようだった。

「ええ……派手な海賊行為も、大掛かりな光線兵器を持ち出して連合海軍をなぶり殺しにしてみせたのも、全て『フォレスタ』を介入させるため。恐らく目的は……」
「……『ガルーダ』の鹵獲か!」

 ディータは歯噛みして通信機に怒鳴った。

「ナターシャ! 王女様もよく聞くんだ。任務は中止だ、すぐにそこから離れろ! 『エピメテウス』が迎えに行く」

 怒鳴りながら『エピメテウス』艦長のリジーレ大佐に目配せする。

「うむ。針路九〇、両舷強速前進!」

「針路九〇、両舷強速前進ようそろ!」

 艦長の命令で、『エピメテウス』は戦闘が行われている東の海域に向けて動き出した。

〈ですが中佐殿、連合海軍の艦隊がまだ近くにいます! 今自分が離れると彼等が光線兵器に攻撃されます!〉

「他人の心配してる場合か! お前ら二人の命と機体の安全を優先する、離れろ!」

〈大変じゃ、船が針路を南東に変えた! 陸の方に向かっとる!〉

 ディータとナターシャの口論に、シャンタニからの報告が混じる。
 レーネが青ざめた。

「なんてこと……そっちは確か、トメニア帝国の領海よ」
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