第3章(5)行って、涼宮さん!
文字数 1,218文字
「あら、珍しく名前で呼んで下さいましたわね。明日は雪でも降るのかしら」
レーネ・シュタールは、ナターシャからの通信にいつものような嫌味で返してみせながら、その機構を制御する複数の目盛りに手をかけた。
――指向性圧縮開始。調整中。
指が震えていた。
微細な調整の狂いで、ここにいる全員が消える。
それでも、やらなければならない。
これから涼宮のどかがやろうとすることに必要な、時間を稼ぐために。
のどかの独創的な発案を元にレーネが組み上げた作戦は、普通ならとても作戦とは呼べないほど不確実性を孕んでいる上に、敵の対空誘導弾の攻撃に対してどうしても無防備になってしまう瞬間があった。
だが、もし敵の対空誘導弾が、『フォレスタ』で研究中のものと同じ原理、すなわち熱探知で狙った目標を追尾しているとしたら、そこに付け入る隙がある。
――攻性変換圧力を臨界前に条件設定。調整中。
傾けた翼の下で、何かがきらりと光る。
海賊の対空誘導弾が発射されたのだ。
細い煙を吐きながらするすると、いまいましいほど速く正確に舞い上がってくる。
その下には海。
穏やかな内海である北洋も、海面を凝視すると、黒々と恐ろしいものに見えた。
これから涼宮のどかがやろうとしていることが、いかに危険か、改めて実感する。
やはり無理かもしれない、不可能かもしれない。
……それでも、私は。私達は。
――調整終了。『アパレティエーター』を限定開放。熱放出開始。緊急抑制機能の作動まで〇・七九秒。
稼げるのは一瞬だけ。迷っている時間は無い。
レーネは叫ぶ。
「行って、涼宮さん!」
〈あら、珍しく名前で呼んで下さいましたわね。明日は雪でも降るのかしら〉
レーネの嫌味とほぼ同時に、待ち構えていた海賊のスループ船から、降下するのどかの四番機めがけて対空誘導弾が次々と発射されていくのが、ナターシャのところからも見えた。
のどかの四番機は回避しない。
その時、レーネの三番機が反転した。
三番機の胴体下が露わになり、魔力備蓄管が禍々しい赤銅色に変色し、槍のような物体に激しい火花が散るのが見える。大気が歪み、遠く離れたナターシャでさえ、肌が火照るほどの熱さを感じる。
異変が起きた。
のどかの四番機を追っていた対空誘導弾が、こぞって矛先を三番機へと変えたのだ。
〈行って、涼宮さん!〉
〈はい!〉
のどかの四番機は機首を海面に向け、真っ直ぐ降下を続ける。
ナターシャはそれを、初心者ののどかが操縦を誤って墜落しているのだと解釈した。
「涼宮准尉! 何をやってる、操縦桿を引け! すぐに機首を上げるんだ!」
〈大丈夫です!〉
「大丈夫なわけあるか! 操縦桿を……」
ナターシャは途中で絶句した。
水しぶきが上がり、轟音が響き渡る。
四番機が、そのまま海面に突っ込んだのだ。
レーネ・シュタールは、ナターシャからの通信にいつものような嫌味で返してみせながら、その機構を制御する複数の目盛りに手をかけた。
――指向性圧縮開始。調整中。
指が震えていた。
微細な調整の狂いで、ここにいる全員が消える。
それでも、やらなければならない。
これから涼宮のどかがやろうとすることに必要な、時間を稼ぐために。
のどかの独創的な発案を元にレーネが組み上げた作戦は、普通ならとても作戦とは呼べないほど不確実性を孕んでいる上に、敵の対空誘導弾の攻撃に対してどうしても無防備になってしまう瞬間があった。
だが、もし敵の対空誘導弾が、『フォレスタ』で研究中のものと同じ原理、すなわち熱探知で狙った目標を追尾しているとしたら、そこに付け入る隙がある。
――攻性変換圧力を臨界前に条件設定。調整中。
傾けた翼の下で、何かがきらりと光る。
海賊の対空誘導弾が発射されたのだ。
細い煙を吐きながらするすると、いまいましいほど速く正確に舞い上がってくる。
その下には海。
穏やかな内海である北洋も、海面を凝視すると、黒々と恐ろしいものに見えた。
これから涼宮のどかがやろうとしていることが、いかに危険か、改めて実感する。
やはり無理かもしれない、不可能かもしれない。
……それでも、私は。私達は。
――調整終了。『アパレティエーター』を限定開放。熱放出開始。緊急抑制機能の作動まで〇・七九秒。
稼げるのは一瞬だけ。迷っている時間は無い。
レーネは叫ぶ。
「行って、涼宮さん!」
〈あら、珍しく名前で呼んで下さいましたわね。明日は雪でも降るのかしら〉
レーネの嫌味とほぼ同時に、待ち構えていた海賊のスループ船から、降下するのどかの四番機めがけて対空誘導弾が次々と発射されていくのが、ナターシャのところからも見えた。
のどかの四番機は回避しない。
その時、レーネの三番機が反転した。
三番機の胴体下が露わになり、魔力備蓄管が禍々しい赤銅色に変色し、槍のような物体に激しい火花が散るのが見える。大気が歪み、遠く離れたナターシャでさえ、肌が火照るほどの熱さを感じる。
異変が起きた。
のどかの四番機を追っていた対空誘導弾が、こぞって矛先を三番機へと変えたのだ。
〈行って、涼宮さん!〉
〈はい!〉
のどかの四番機は機首を海面に向け、真っ直ぐ降下を続ける。
ナターシャはそれを、初心者ののどかが操縦を誤って墜落しているのだと解釈した。
「涼宮准尉! 何をやってる、操縦桿を引け! すぐに機首を上げるんだ!」
〈大丈夫です!〉
「大丈夫なわけあるか! 操縦桿を……」
ナターシャは途中で絶句した。
水しぶきが上がり、轟音が響き渡る。
四番機が、そのまま海面に突っ込んだのだ。