第51話 隊長2人はだいたい役立たず

文字数 2,622文字

時間が戻って、サトミが立ち去った途中の休憩所。
軍用車が1台止まり、3人降りてきて乗合馬車の小屋の裏へと入っていった。

「副隊、ほんとに信号あったんですかい?何かの反射じゃ?」

「ジョークが見間違えるかよ、衛星から見てるの知っててやってるんだぜ?サトミはよ。」

2人の隊員がブツクサ話し、デッドが周囲を見回す。
だが、確かにやり合ったらしい、新しい草木の乱れはある。

「新しい、争ったあとはありますぜ?」
「しかしいませんね、逃げられた?」

「バーカ、サトミがそんなチャチな縛り方するか。
あれ?なんだこのズボン。」

木の根元にメモとズボンが畳んでおいてある。
郵便局の伝票の裏に、下手くそな字でスペル間違えて、恐らく『返せ』と書いてあった。
フフッと笑ってメモをポケットに入れ、なんとなくデッドがひときわ大きな木を見上げて目を剥いた。
プウッと吹き出すと、うなり声が聞こえてくる。

「ぷくくくく、やっぱりあんたはサイコーだよ。」

笑う視線の先を、他の2人も見てひくつく顔で笑いを堪える。

「他の奴ら連れてこなくて正解ですねえ。」

1人がぼやいたとき、そいつが叫んだ。


「お前ら!さっさと降ろせ!殺すぞ!」


ズボンとパンツ脱がされて、フルチンのジンが両足首にロープで木の枝にぶら下がっている。
両手は後ろで括られて身動き取れずに、さすがに恥ずかしくて叫べなかったのか、血がのぼった頭でもうろうとしているのか、あまり元気が無い。
殺す言われてデッドがプイと横向いた。
苦笑する仲間に合図して、休憩所を出ようとする。
ジンが慌てて暴れた。

「おいっ!おい〜!!下ろせよっ!隊長だぞ!命令だっ!」

「頭悪すぎて頼み方知らないんすね〜、やれやれ」

ヒヒヒッと笑いながら両手を挙げて首を振る。
そしてクルリと振り向いた。

「お願いします、は〜?」

ニイッと凶悪な顔で笑うと、ジンがギリギリ歯を噛みしめる。

「クッソー!うううう!あのガキーーー!!」

「じゃ、俺はサトミの刀、見に行こーっと。」

はうっ、
こいつら消えると俺はこのままここでフルチン晒して死んでしまう!

くそっくそっくそーーーー!!

「ごめんなさい。」

「ハーーーー???聞こえなかったなあ!!
殺して逃げたらなんでしたっけ?」


「ごめんなさーーーーい!!!!」


「良く出来ました。」

デッドが、腰から銃を取りジンに向けた。

「ギャアアアアア!!止めろおおおお!!」

「てめえなんか目障りだ!さっさと消えろ!」

パンパンパンパンッ!

お構いなしにバンバン撃つ。
ジンはぶら下がったまま、必死で身体をくねらせ逃げる。
ふと、デッドが気がついた。

あれ?チンチンは身体と反対方向にブラブラするんだ。へえ〜

「ひいいいいいい!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬううっ!!

助け!助け!このやろおお!!殺すうっ!あ?」

メキッ、メキメキッ! ボキッ! 「あっ、うそ!」

ザザザザザザザザ

「ぎゃああああ!!」

くるくる回ってジタバタ暴れていると、やがて枝がミシミシ言ってボキッと折れ、頭からドスンと落ちた。
ピクリとも動かないジンに、3人がのぞき込む。

「死んだ?」

「そんなヤワな奴かよ。脳みそ爆発しても生きてんじゃねえの?」


ブオオオオオ、ブロロロロロ……


なぜか重いエンジン音が響き、バイクが来た。
ガソリンスタンドが無い田舎で、あまりバイクは見ない。
バイクというとカーキー色の、ほとんど軍用バイクだ。
1人が見に行って、何か話している。

「あれ?セカンドの隊長っすよ?」

「ギルティが?あの役立たず、何しに来やがったんだ?」

2人の視線が外れたとき、

「えっ?!」「えっ?!」

バッとジンが起き上がり2人の間を駆け抜けた。

「えっ?ジン?なに?」ドカッ!「 ぐがっ! 」ドサンッ

一瞬で呆然とするギルティを殴り倒してバイクから引きずりおろし、ジンがバイクを奪って走り去っていく。

ブロロロロロ……

まさに一瞬で、あとにはギルティが腰のハンドガン抜かれて、白目剥いて転がっている。

「ちぇっ、相変わらず仕事が早い。」

「えっ?!なんで??あいつロープは?」
見ると、弾を当てて上手く切っている。
くねくねくるくるしてたのも、わざとなんだろう。
普通の人間が出来ないことをやれるのが、まあ隊長やってる理由でもある。

「あーー、、くっそ、またサトミに迷惑かける。」

「デッド、どうする?だいたいあいつ、バイク乗れたっけ?」

「さあ、見た事ねえ。ジャッジ、こいつ何しに来たんだ?」

転がったセカンドの隊長を蹴った。

「ボスの命令で、動けってハッパかけに来たらしいっすよ。
通信機が壊れたっての、真に受けてわざわざ来たそうで。馬鹿ッすねー
まあ、通信機壊れてなんも聞いてねえって言いましたけど。」

ヒョイと肩を上げ、首を振ってため息を付く。
なんでこいつがこの隊にいるのか、最大の謎だ。
まあその辺、サトミによると、責任だけ取らせるなら役立たずに限るという話しだった。
実質、副隊長が隊長だ。

「それでいい。
俺らはあの現場には出られないとサトミには言ってるし、出るなと言われている。
ジンが出た所であの人には負担でも無いし、面倒だと思ったら始末されるだろう。
終わるのを待とう。」

「恐ろしいねえ、あの人と敵対しろなんてよ、ボスも焼きが回ったんじゃねえの?
俺は頭吹っ飛ばされたくねえよ。」

「まったくだ。戻るぞイエロー、ジャッジ。」

「イエス、副隊。」「イエス」

何しに来たのかわからないギルティの襟首掴み、車に引きずっていく。
遠くに見える岩山をいちべつして、3人は車に乗り込んだ。



岩山から見てるダンクが手を出す間もなく、呆然と見ていた。
なんかサトミは嬉々として相手を倒しまくっている。
時々悲鳴か笑い声か、遮る物の無い場所から響いてゾッとする。
相手が少数で良かったなんて思ってしまう。
きっと相手が何十人いても、サトミは倒してしまいそうで怖い。
この道がブラッディーロードなんてあだ名ついたら、ロンド郵便局は殺し屋の集団に見られそうだ。

「俺の出る幕ねえじゃん。殺して損した。」

チラリと木に引っかかった足下の死体に目が行く。

「あ」

バキバキバキ ザザザザーーー

木が折れて、死体が森の中に落ちて行く。何だか少しホッとして、十字を切って祈った。
サトミは女にどんどん近づいている。
この分ならサトミが __ あれ? なんだ?馬?いや、バイク??
なんで道はずれて走ってんだ?

それにしても! だ!!

「なんで??なんでパンツはいてないんだ??」

そこには砂塵巻き上げ、ジンの乗るバイクが、一直線にサトミへ向けて走っていた。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。

・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。

・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。

・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。

・キャミー・ウィスコン

22才。赤毛のポニーテイル。

エクスプレスではガイドと二人、リーダー的存在。

人員不足からアタッカーをしていた。

・エジソン(カリン・ルー)

ロンド郵便局で配達局員専用に護身用武器を研究している。

メーカーに提供し、商品化で特許料を局の収入源の1つとしている。

元軍所属、嫌気が差して辞めた所を局長にスカウトされ、局の一部に部屋をもらった。

・カリヤ婆ちゃん

隣の婆ちゃん、一人暮らし。朗らか元気。

・ジン

21才。某隊長。死にたくない男。浅黒い肌に白髪と赤っぽいブラウンの瞳。

高身長、すらりとした体躯にモデルのような顔。だが、総隊長では無い。

・デッドエンド

23才。某副隊長。おかっぱ黒髪碧眼。中肉中背、爽やか青年。

趣味セックス。いつもニコニコ、微笑みにあふれた男。

・エンプティ

30代。本名 カラン・グレイル。白髪、ブルーの瞳。無表情。

サトミの強さに惹かれ、人生まで狂ってる男。

・地雷強盗の女

強盗を生業とする一団の、仲間の1人。アタッカーに仲間を殺され、逆恨みから生き残りの仲間と地雷強盗に見せかけたアタッカー殺しをもくろむ。

サトミの入局で、計画が大きく阻まれることになる。

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

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