第53話 隊長だろ?仕事しろ
文字数 2,501文字
破裂音が響き、エンプティの乗った車が吹き飛び横転した。
ドアがへこみ、タイヤが外れて転がって行く。
さすがの防弾ガラスも、半面に蜘蛛の巣状にヒビが入っている。
車の底を見ると、シャーシがえぐれて廃車の様相だ。
「あーあ、こんないい車に乗って来やがって。
クソ野郎の為にこの車1台パーになるなんて、軍費の無駄遣いじゃねえ?」
それにしてもよ、
「ちぇっ、さすが丈夫に出来てやがる。
けど、衝撃破は防ぎようがねえんだよなあ。キシシシ!」
パンッ!パンッ! ……チュンッ!
後ろから弾が来て、一発車をかすめる。
「このガキーーー!!てめえっ!思い知らせてやるぜ!」
ブロオオオオオオ!!
ジンだ、バイクに乗ってやって来た。
「あれ?」
けどよ、あいつバイク乗れたっけ?
ブロオオオオブオオオオオ
ちょっと離れて見守ってると、どんどん近づいて焦って叫んだ。
「くそう!止め方がわからねええ!!!」
「やっぱり!ブレーキ!ブレーキ掴むんだよ!」
「ブレーキってどこだよ!?あっ!あっ!あーーー!!」
ブオオオオオオオ!! ドーーーン!
「あーあ」
車にぶつかってジンが投げ出され、クルリと一回転してその場に着地する。
そしてゆっくりと不敵に立ち上がった。
「クククク、やっぱりよお、俺は地に足付いてねえと駄目だわ。だろ?サトミよ。」
「うええええ……」
俺はため息付いて奴の姿にゲンナリする。
まったく、ゲンナリだっ!
まあ、俺がやったことだけど、頭は水たまりのように雪に剃られてハゲだらけだし、上の戦闘服着て靴履いて、なのにパンツはいてないから股間には玉がぶら下がってる。
なんで?なんでこんな格好でうろうろするんだよ!
お前、隊長だろうが!一応正規軍なんだぞ??
ガッカリしすぎて、どんどんムカつく。
腰から上だけシリアスで笑えるだろうが笑えねえ!
だが奴は、何かに目覚めたように明るい顔して、キラキラした目でつぶやいた。
「なんかよ!なんか、パンツはいてないと開放感が半端ないな!」
フルチンで満面の笑み浮かべんな、気色悪い。
「嬉しそうに言うな、変態!
この野郎、ファーストの品性を激落ちさせやがって、全然はんせーしてねえじゃねえか。
え?俺は激怒した!!」
ジンが笑って大きく目を見開き、左ポケットからナイフを取り出した。
右に銃を持ち、サトミに向けて歩き出す。
「激怒したら何だって?え?ガキがいい気になるなよ。」
「その言葉、そっくり返すぜ。」
サトミはベンを飛び降り、左に回り込みながら雪雷を鞘に戻し、グッと倒す。
左手を後ろに回し、鞘の下にある飾りに見えたフックを外した。
鞘がパチンと音を立て、底の蓋が二つに割れて8インチほどの長さがなめらかに中へスライドする。
そこから、黒い柄糸の刀の柄が現れた。
サトミが左手でそれを掴むと、その刀を逆手ですらりと抜く。
抜いたその刀は、柄から刃がすらりと1本に繋がった、鍔のない日本刀「鰐切 黒蜜」。
サトミが滅多に抜かない隠し刀だ。
逆手で抜いた黒蜜を、くるりと手の中で回す。
それを見て、ジンが楽しそうに笑った。
「出たなクロ!ヒャハハハハ!そうで無くちゃ面白くねえ!」
「キシシシシ!さあ、付き合ってくれよ、黒蜜。
面白くねえんだとよ、面白くしてやろうじゃないか!」
パンパンッ!
「そんな生ぬるい弾が当たるかよっ!」
サトミが弾を避け、黒蜜を一閃した。
ヒュンッ!ガキンッ!
刃が音を立てて黒蜜の柄から外れ、ジンに向けて一直線に向かう。
伸びるワイヤーがビュンッ!とうなる。
ジンが突進して、銃で向かってくる黒蜜を弾いた。
ガイィーーンッ!!
「ヒヒッ!こんな物、弾かれたら終わりじゃねえかっ!」
「そうでもないぜ?」
ヒュッとサトミが柄を引く。
落ちる黒蜜の刃が突然ジンの足下から舞い上がる。
「イッ!」
ジンが付きだした顔を瞬時に引く。
刃はジンの鼻の頭の皮を削いでビュンと舞い上がり、そしてまたギラギラと刃を輝かせて落ちて来た。
「この野郎!!!」
キイィィンッ!
弾かれると黒蜜はまるで生きているように、風にあおられくるくると回る。
ジンがワイヤーに向けてナイフを振り下ろした。
切るつもりだ。ジンは一緒が長いだけに、弱点を知っている。
「ヒハハハハ!!2度はねえぞ!」
ナイフが黒蜜のワイヤーに触れようとした瞬間、しかしヒュッとその姿が消えた。
キュウウウウゥゥゥンン!!
サトミが柄のスイッチを入れ、ワイヤーを巻き取りながらジンに向けてダッシュする。
「ジンよ!なかなか頭いいじゃねえかっ!」
キュウゥン!!ガチャンッ!
柄を引いて刃を戻し、一気にジンに向けて振り下ろす。
「だろ?!」
ギイィンッ!
パンパンパンパンッ!
ジンがナイフで受け流し、銃を向け撃つ。
だが、相変わらず撃っても撃っても当たらない。
ピュピュンッ
サトミの剣さばきは凄まじく早く、ジンは紙一重で避ける。
「キヒッ、フットワーク軽いじゃん?」
「だろ?」
確かにこれだけサトミの剣を避けられるなんて、パンツはいてないだけでなんて身体が軽いんだろう。
ピュンッ!
避けながらナイフを振り、避けた先でサトミの顔に銃を向け引き金を引く。
カチカチカチッ
「げっ!」
「遊びは終わりだ」
ジンが息を呑んで、黒蜜の刃に目を奪われる。
恐怖で身体が硬直する。
その刃が自分の首に向けて迫るその時、ジンがいきなり叫び声を上げた。
「あーーーーーっ!!」
ピッと、紙一重でサトミが剣を止めた。
「え?何?」
「見ろよ!遊んでる間にヤバいんじゃねえ?!」
言われて女を見て愕然とした。
げええ!!まだ生きてる!
しかもガイドの姿がすぐそこじゃん!
「ヤバっ!」
パンッ!
シュッと、なんか思わず避けた。
「あーー、まだ生きてやがる」
ザッ
車から這いだし、エンプが鼻血と血を吐きながら、ボロボロの姿でそこに立っていた。
「に、逃がす、もの、か」
「ジンッ!」
「あー?」
「こいつの始末はお前の仕事だ」
「え〜めんどくせぇ」
「隊長だろ?仕事しろ」
きょんとして、ジンがエンプティを向いた。
「イエス、元隊長」
「バッ!馬鹿な!!」
愕然とするエンプティを無視して、サトミがベンを呼ぶ。
「やっぱ殺せねえのかよ、ダンク。」
ダンクの気持ちを測れなかったミスに、サトミはベンに飛び乗り女の元へと走った。