第16話 標的にされたアタッカー

文字数 3,031文字

「ダンク、昼から個別配達だっけ。サトミ、付いてったらどう?」

「おう、今日は昼から配達少ないから来いよ。先輩の愛され勇姿を見せてやらあ。
明日は6時集合な、遅れたら先に行く。
泣きながら追いかけろや、まあ、あのロバじゃ無理だろうけど。」

ヒヒヒと笑い、ビンを洗ってコーラ瓶立てに入れる。

「あれ?ここってコーラ売ってんの?」

「いや、近くにバーガー屋があるのさ、そこがコーラ売ってんの。
ここから買いに行く奴多いから、週一で瓶回収に来てくれる。
知らないなら教えてやるよ、その店のヤキトリってバーガー美味いんだぜー。
なんか〜、甘くてしょっぱい鳥焼いて、パンに入れてあるだけだけど。」

「ふうん、バーガーか……ふうん……」

バーガーって、美味そうだったな。美味いんだろうなあ。

口は悪いが、でもまあ、悪い奴じゃなさそうだ。
ベンに蹴られたら笑ってやろう。

個別配送はいつも見てる郵便配達と同じだ。
ただ、受け取りのサインをもらったり、着払いだと代金を求めないといけない。
すんなりいくことが多いけど、不在もあるし、戦争帰りか、めっちゃ銃を突きつけて来て、ムカつくこともある。

「大変なんだなー」

「だろ?実は突っ走る輸送より、人間相手でこっちの方が大変なことが多いんだわ。
敷地に入った途端、バンバン撃たれたことあるしな。」

なんとなく、キャミーが戦争帰りで自然体は貴重とか言ってたのが良くわかった。


その後、夕方事務所に戻ってダンクと2人を待っていたけど、なかなか帰ってこない。
ダンクは明日早いからと先に帰ってしまった。

「2人は出るのも遅かったから、仕方ないわねえ。」

「うん、俺は別にいいよ。ラジオある?」

「あるわよ、聞くの?」

ラジオを受け取り、外に出る。
馬繋ぎ場に行くとベンがボーッとしていた。

「あー、この時間は〜いつもの番組入るかな?」

ガーッ、ガー、ピー 

『ヘヘーイ!エブリバディ!今日も元気でやってるかーい!
飲み屋に行くのはまだ早いぜ?
リッチボディが腹を揺らしてナイスな曲を届けるから聞けよーいえいえイエイ!』

「ブヒヒヒンッ、へヘーイ!ブルブル!」

「お前、リッチボディっておっさん好きだよなー」

「うん」

ラジオ置いて事務所に戻る。
キャミーがヒョイと肩を上げたけど、気にしない。
そうしているうち、残り2人のポストアタッカーが帰ってきたので、挨拶を交わした。
1人は金髪碧眼の白人の兄ちゃんと、もう1人は無精髭の黒髪のおっさん。

「あれ?あんた、町でキャミーを助けに来た奴だろ?アタッカーなんだ。」

良く見たらずいぶん綺麗な兄ちゃんだな。
何だこれ、白人だし、こんな綺麗なのに何でこんな仕事してんだ?

「ああ、あの時言ってたのって君か〜、リッター・メイルだ。リッターて呼んでくれよ。
良かった〜来てくれて、デリー行きはあれから怖くてさ。
人数増えて、行く回数減ると助かるんだ。」

「リッター!ダメダメその話はこれから!」

緊張のたががゆるんで、うっかりリッターがこぼした。
慌ててキャミーが彼の口を後ろから塞ぐ。
サトミがふうんとこぼして、苦笑いの彼女の顔を見る。

「アタッカー狩りっての?強盗だろ?この間、家に来た時それ話そうとしたんだろ?」

「知ってたの?なんだ。」

「まあね、入る前に聞いたのさ。それで2人死んだって?」

大きくため息をついて、キャミーがサトミの前に座る。

「そうよ、スカウトした時、言わなかったのは悪かったわ。どうする?」

「別に、聞いても答えは同じだぜ?で、状況は?」

はあああ、リッターが大きく息を付いた。

「それがよおっ!ううっ、ウッ、クソッ、泣けて来たっ!」

顔を両手で覆うメイルの頭をポンと撫で、もう一人の少し年長のポストアタッカー、ガイド・レーンという黒髪のオッサンがヒゲをザリザリ撫でてソファーの肘掛けに座る。

「まあ、子供に言ってわかるかは知らんがな。」

「俺はこの間まで軍にいた、それで十分だろ?聞かせてくれよ。」

ガイドが苦々しい顔で、思い立つと地図を取り出した。
この周辺の地図で、主に通るルートは赤いラインが記してある。
デリーまでのルートは3パターンあった。

「最後の犠牲者は、俺達のリーダーだったんだ。
最短の、主に使うBルート。
遺体は……デリーとの丁度中間点、小さな岩山と岩棚に挟まれた地点、ここだ。
そりゃあひどい状態だった。
あれじゃあ、防弾装備も役に立たない、それほど破壊力が凄いんだ。

最初、不発弾か残留地雷かと思ってたんだ。
でも、そこはいつも誰もが通る道で、すでに安全は確保してある。
何より周辺にベアリングが散乱していた。」

「俺、最近Cルートにしてるんだ。岩山の裏の森の向こうの道。」

「あーだからリッター、最近遅いんだ。」

「だってよお、俺には無理……腰抜けでいいよ、もう。
こっちは生身でやってるのに、機関銃とか避けようもねえよ。
誰だよ、あんな物盗賊に売った奴。」

ハアッと、大きくため息が渦巻いた。

「盗賊どもが武装しているんだ。
類似犯も懸念される。そのうち、通常便の車も襲われるかもしれない。」

「あれ?車はやられないの?だからアタッカー狩りなんて言われてんのか。」

「ああ、奴らは死んだ仲間から奪った、この稲妻の腕章を岩山の上に掲げている。
岩山は小さなもので、あいつらの腕章だと容易にわかるんだ。
まるで、見せしめのようにあるのに、安全が確認出来ないから、取りにも行けない。
俺たちはそれを見ながらそこを通らなければならないのさ。
うちが1人、デリーの奴が2人やられた。」

「うち、2人死んだんだろ?もう1人は?」

「もう1人はこいつらが出る3ヶ月前に別の盗賊にやられた。
善戦空しく、だな。
相手を5人殺って、首と足撃たれて出血多量でな。
意識戻らなくて、3日後に死んだんだ。いい奴だった……」

ガイドが暗い顔で視線を落とす。
サトミが背もたれに身を任せ、足を組んで天井を見る。でも、ここは空が見えない。

「武装か……一般に、どっかから横流しされたんだろうな。
ヤバい奴が一線越えるとろくな使い方を考えない物だ。
荷物は奪われたのか?」

「荷物は手紙類が周囲にまき散らされていたが、ほとんど盗られた。
あんなひどい状態で、荷物も無事に済むわけがないんだがな。
考えているのか無いのか……」

「写真あるか?」

思いがけない言葉に、ガイドが驚いて首を振る。

「子供に見せられるか!冗談じゃ無い、本当にひどいんだ。」

「わかってる、俺は武器と状況を把握したい。年齢は忘れてくれ。」

「 ええ………… 」みんな驚いて顔を背ける。

「無理だ、俺だって仲間の死体なんかもう見たくない。」

「わかる、じゃあカメラ見せてくれ。」

「やめろよ、ガイド。見せるな。興味本位で見るもんじゃねえよ。」

サトミが大きく息を吐く。
わかってる、それは恐らく肉塊なのだ。
だが、見なければ状況はわからない。

立ち上がり、ゆっくりとガイドに手を差し出す。
その顔はさっきまでの穏やかさを消して、目を見開き恐ろしいほどのプレッシャーを伴っていた。

「ガタガタうるせえんだよ、さっさと出せ。」

皆息を呑み、顔を見合わせる。

「どうなったって知らねえからな。」

ガイドが重い手つきで、カード型の携帯カメラを腰のバッグから取り出した。
裏には「エクスプレス備品05」のシールが貼ってある。
迷いながら、再生ボタン押して、指をスライドして写真をめくっていく。
険しい顔で続けていると、いくつかの郵便物の写真のあとで、指が止まる。
サッとサトミが取り上げ、写真をスライドさせる。
キャミーが思わず耳をふさぎ、顔を伏せた。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。

・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。

・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。

・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。

・キャミー・ウィスコン

22才。赤毛のポニーテイル。

エクスプレスではガイドと二人、リーダー的存在。

人員不足からアタッカーをしていた。

・エジソン(カリン・ルー)

ロンド郵便局で配達局員専用に護身用武器を研究している。

メーカーに提供し、商品化で特許料を局の収入源の1つとしている。

元軍所属、嫌気が差して辞めた所を局長にスカウトされ、局の一部に部屋をもらった。

・カリヤ婆ちゃん

隣の婆ちゃん、一人暮らし。朗らか元気。

・ジン

21才。某隊長。死にたくない男。浅黒い肌に白髪と赤っぽいブラウンの瞳。

高身長、すらりとした体躯にモデルのような顔。だが、総隊長では無い。

・デッドエンド

23才。某副隊長。おかっぱ黒髪碧眼。中肉中背、爽やか青年。

趣味セックス。いつもニコニコ、微笑みにあふれた男。

・エンプティ

30代。本名 カラン・グレイル。白髪、ブルーの瞳。無表情。

サトミの強さに惹かれ、人生まで狂ってる男。

・地雷強盗の女

強盗を生業とする一団の、仲間の1人。アタッカーに仲間を殺され、逆恨みから生き残りの仲間と地雷強盗に見せかけたアタッカー殺しをもくろむ。

サトミの入局で、計画が大きく阻まれることになる。

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

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