第54話 エンプ、お前は俺のなにを見てたんだよ!
文字数 2,529文字
女に狙いを定めて何度も引き金に手をかける。
何度も何度も。
それでも、それは人殺しでしか無い。
怖い、怖い、怖い。
殺さなきゃ、一発で殺さなきゃ、あいつはスイッチを入れちまう。
あいつは、女はきっと地雷をガイド達の方向に向けているんだ。
一発だ。一発で仕留めないと。
心臓がバクバクして、息が詰まる。
ハッとしてサトミに視線が向いた。
凄い勢いで女に向かっている。
「クソッ!クソッ!俺が撃てないせいだ!俺が!!
なんでだ?!何で撃てない!
強盗は撃つじゃないか!
女だからか?
いいや……、俺は、……スナイパーに戻りたくないんだ。」
女が、近づくガイド達に嬉々として、何度も手の中のスイッチを握り直した。
「もう少し、もっと、もっと引きつけてからよ。
もっと、もっと近くに来て、
早く!」
微笑んで、たまらず立ち上がり道の中央に出た。
向かってくるガイドとリッター、そしてデリー郵便局の2人に、笑顔で手を振る。
ガイドは助けを求めているのかと、女の嬉しそうな様子にいぶかしむ様子もなく近づいていった。
ガイドと女の距離が迫り、サトミが舌打ちして腰を上げる。
「ダメだろ、おっさん!そいつは首謀者だぜ?!
あんたら人が良すぎる!」
ナイフを腰から一本取り、ピンと前に放る。
カーン!
ガイドが、サトミの動きに驚いて顔を上げる。
だが、彼の打ったナイフは彼女の足下に刺さり、そしてダンクの撃った弾が女の頭を撃ち抜いた。
ドサンッ!
女が膝を付き、笑って崩れ落ちる。
パシッ!
再度、ダンクの撃った弾が心臓を撃ち抜く。
女の身体が反転しながら、その手がスイッチを押した。
「おいっ!」
ガイドが思わず手を伸ばし、そして馬を飛び降りて女に駆け寄る。
その手には、何かのスイッチを握りしめている。
だが、地雷は不発に終わり、彼らには何のスイッチかわからなかった。
「ガイド!サトミが!」
リッターが追いかけてきて前に出ると、サトミが黒蜜片手に彼らの前でベンを止めた。
「お前ら、何やってんだよ!」
パンパン!
サトミの背後、ジンがエンプとやり合っている銃声がして、サトミが目もくれずガイドの前でピュンと刀を一閃する。
キキンッ!
流れ弾が2つに切られて近くに落ちた。
ガイド達が初めて見る彼の神業に、目を丸くしてポカンと落ちた弾を見つめる。
「よう、無事で何より。」
サトミが低い声で、何でも無い挨拶のように声をかけた。
ピュンッと風を切って手の中で黒蜜をまわし、逆手に持ち替える。
そして鞘の下から戻し、黒蜜を隠すように鞘のスライドを降ろしてフックを戻した。
「それ、なに?」
リッターが、つぶやくように呆然と聞く。
「んー、シッポの骨。」
誤魔化して、ニイッと笑う。
ガイドが、ようやく息を吸ってサトミの前に立ちはだかった。
「いったい!これはどういう事だ!!」
おおお、すげえ!激怒されたっ!!
何故か、キラキラした目のサトミが何度もうなずいた。
「わかるぜ、ガイド!お前の怒りはわかる!
理由も聞かず怒るかと思ったのに、ちゃんと理由を聞くのは上出来だ!」
「はあ?」
「見ろ!」
雪雷を抜いて導線を切り、ポンと地雷を刃に乗せて持ち上げる。
「「「「 げえっ!! 」」」」
「この女、これで自爆しようとしてやがった。
こいつこそ、あんたら苦しめた、地雷強盗の首謀者だ。」
「それはいいから、とにかく止めろ!なんで持ち上げるんだよ!
そっとおろせ!そうっと!」
そう言いながらガイド達は逃げ腰で、デリーの2人は、慌てて馬に飛び乗ろうとしてる。
「キシシシ!そうだよな、危ねえから処理する!」
そう言って、サトミは雪雷の先に地雷を載せたまま道を外れて猛ダッシュした。
「ちょっ!ちょっと待てええええっサトミーーッ!!」
「「「「ぎゃああああああああ!!!」」」」
「あらよっっと!行っけー!」
青い空に向けて、野球でもやってるように力一杯投げる。
地雷は、凄まじい早さで上空へと飛んでいき点になった。
とどめに、ナイフを1本放って、雪雷の背で叩く。
カーーーンッ!
ナイフは地雷へと一直線に目指し、それは偶然なのか必然なのか、正面が空を向いたときナイフが突き抜けて火花が散った。
………… ガッ! バーーーーンッ!!
爆発して、花火のように空に向けてベアリングを飛ばす。
ヒュゥゥゥウウウウ……ガチャンッ!
地雷本体が爆発の弾みで先に落ちてきた。
コツンコツン、パラパラパラ……
しばらくすると、ベアリングが雨のように振ってくる。
バラバラバラバラババババババ
「な、何だ?痛え痛え!うわあああ!!」
「ベアリングだ!振ってきた!」
バラバラバラバラ
「何か気持ちいいもんじゃねえな〜」
「ベアリングのシャワーじゃな。キシシ!」
リッターのぼやきに笑って返し、ジンを振り返り歩き出す。
ベンが寄ってきて、背に飛び乗った。
ジンはすでにエンプを倒し、襟首掴んでぶら下げている。
サトミが近づくのを見ると、その場にドサリと放った。
あんな奴でも、俺は入隊の時から一緒だった。
最初は監視役からはじまり、あの隊に入って昇進すると、副官でずっと横に立っていた。
字が読めない俺は、右にやるとエンプが読み、左にやるとデッドが読み上げる。
そんな生活をずっとしてきた。
俺にとって、部下達は家族だった。
見たことない家族よりも、目と耳に記憶に残る家族だ。
ミスも無く順調な中、
だが、俺はある一件で、人が死ぬ影響のデカさに困惑してしまった。
悩んで、辛くなった。初めて落ち込んだ。
それを見ていたクセに、俺を理解せず、手の内から逃げたと判断するのは勝手だ。
しかし、その無理解が苦々しくて腹立たしい。
真横に立っていて、まったく俺をわかってない。
デッドはわかってくれているのに、お前は俺のなにを見ていたんだ。
俺はもう、ボスの下でやる、理由の無い殺しが嫌なんだ。
いいや、理由はあるだろう。
でも、手の上で転がされるのにイヤになったんだ。
心が真っ黒になる、このままヘドロの中で泳ぐのが嫌なんだ。
俺はこの隊で11から殺してきた。
数え切れないほど殺したさ。
あの隊で生きていくのに殺さず生活するなんて、誰1人いやしねえ。
飯炊き番も掃除番も、みんなみんな殺し屋だ。
ジンがエンプを蹴って転がす。
エンプは辛うじて意識があるようで、片眼切られて血だらけの顔を俺に向けた。