第46話 悪いが岩山に登ってくれ!
文字数 2,470文字
サトミが空を仰ぎ、青空に見とれる。
「天気、良くなるといいな。」
つぶやいて、ダンクを振り返る。
苦い顔で、前を見て付いてくる。
途中の草地の乗合馬車の乗り場を指さす。
そこには井戸もあって、良く荒野渡りの休憩地にも使われる所だ。
岩山の所で道が分かれるので、ここで乗り換えとなっているが、強盗が怖くて、ここで乗り換える命知らずはいない。
たまに強盗の待ち伏せもあるが、この地雷強盗が出てから、普通の強盗も巻き添えを危惧してか、なりを潜めている。
ダンクもうなずき、そこへ向かった。
岩山を横目に、馬を休ませ水飲んでダンクの銃を見る。
景色を眺め、ポケットから単眼鏡を取り出す。
ぐるりと見回して、サトミが400フィート(約120m)ほど離れた場所の、戦時中誰かが捨てた空き缶を指さした。
「指さす先にある、壊れたバイクの右横にあるコーラの空き缶、あれを狙って撃ってみろ。」
「えー、どこだよ。」
単眼鏡を貸して、壊れてサビだらけの軍用バイクを指さす。
ダンクは一瞬確認するとすぐに単眼鏡を返し、銃を構えた。
パンッ!
サトミが驚いて目を見開く。単眼鏡で見るヒマも無かった。
えっ?!マジ?早すぎだろ?
慌てて単眼鏡で空き缶を見る。
位置が変わって姿も違う。
当たってる??!!
ヤバい!こいつ本物だ!
「当たったろ?あれだろ?」
「あの転がってるバイクのミラー撃ってみろ。」
「なんだよ、もー」
見ながら指示すると、また構える、撃つ!!早い!
パンッ!
バシッ
今度はかすかに音が聞こえた。ガラスがはじけ飛ぶ。
早い!やっぱり早い!
「ダンクよ、お前凄いよ。あんな小さいの、場所探すだけで時間取るぜ?」
「そっかな?変なクセで、両目で見るから場所さえわかればすぐ撃てる。
俺、目がいいんだ。あの距離ならスコープも入らねえや。」
こいつ、部隊にいたラインって奴並みに目がいい。
それで射撃も上手い。
なんてこった。
こいつの上官馬鹿だろ、こんな腕のいい奴、なんで大事にしないんだよ。
「ダンク、お前の腕に頼みがある。」
「なんだよ、お前がそんな真面目な顔すっと気持ち悪いわ。」
俺は、問答無用で岩山のてっぺん指さした。
「あそこに登ってくれ。」
「え〜〜〜〜、やだよ!俺もう、人間撃たないって決めてるもん!」
「俺は人間撃てとは言ってない。登れって言っただけ。」
「一緒じゃん!登ったら撃つしか無いだろ!」
「そうだなあ、俺の援護はいらねえから、ガイドたちの援護しろ。
ただし、あそこにはすでに1人登ってると思う。」
「えっ」
俺は無言で何度もうなずいた。
まあ、ダンクの複雑な顔見れば、それなりに覚悟しろって言ってるもんだ。
ただあいつの事だ。
恐らく、あそこにはいない。
あいつはプライドの高い犬だ。
素人を札束で操っても、自分では動こうとしない。手の平で転がすのが好きな奴だ。
「俺、素手でやり合ったことねえんだけど。」
「大丈夫だ、お前の腰にあるハンドガンを敵に向けて、引き金を相手より先に引けば終わる。
相手は座るか寝っ転がって長物を下に向けて固定してる。
登るのに気付かれなければ、楽勝!」
「ウソつけっ!気付かれたらどうすんだよっ!」
「まあ、そん時はそん時で。
なあ、ダンクよ。リッターは彼女の兄ちゃんだろ?ガイドはお前のなんだ?
今、俺達は何しに向かってるんだ?」
グッとダンクが言葉に詰まった。
こいつはまだ迷ってる、決意が弱い。
もう一押しだ!!
「俺は!お前に無理なことは言わない。
お前のスキルは素晴らしい!それは恐らくこの国の財産だ。
ダンク、お前が生きてて良かった。たとえ逃げたとしても、生きてて良かった。
でも、みんなにも生きてて欲しい!生きてて欲しいんだ。
ダンク!2人を殺させるな。俺達で救うんだ、助けよう!」
熱意を持って語りかける、たたみかける、説得する。
どうだ?!!
「あーーーー!!!わかったよ!やればいいんだろ?!
クソッ、なんだよ!お前は!!悪かったな、俺はどうせ脱走兵だよ!」
「違う!!
お前が脱走する要因を作ったのは上官だ!お前に落ち度は無い!
だからこそ!生き残ってくれたことは、結果的にオーライだ。
問題ない!
俺は、お前の今後の働きに期待する!」
ドンッと、サトミがダンクに迫る。
ググッとダンクが一歩引いた。
サトミから、きらびやかなもの凄い圧を感じる。
ここまで言われてどうやって回避出来るって言うんだ。
自分にそんな力は無い。
何だか、涙目でもう全面降伏であきらめた。
「がんばります。」
「おうっ!頑張れ!」
「それで、お前はどうすんの?」
「俺は普通に道を行く。
見つけた敵を排除する。それだけだ。」
「成り行き任せかよ、お前の方が危ないんじゃねえの?」
「大丈夫だ、俺にはお前という力強い仲間がいるじゃないか!
俺は安心して戦う。」
ガックリ、ダンクが大きく息を付く。
「なんかさ、お前ほんとに15かよ。」
「15だよ!お砂糖大好きお子様!」
「自分で言うかよ。
地雷出てきたらどうするんだ?」
「地雷か。地雷は踏まなきゃいいだけさ。」
「手榴弾は?」
「対応する。」
「1度に撃たれたらどうすんだよ!」
「逃げる。」
ダンクが言葉を無くして顔中けわしくなってる。
まあ、そうだろうな。俺は相変わらず銃は持ってない。
「ダンク、地雷は女が持ってると思う。
あいつの執念は、俺達1人でも自分の手で葬りたいんだ。
たとえ自らが犠牲になっても、確実に。」
「まさか、そんな事……」
「あるのさ、奴らは戦争しているんだ。
人の命を奪うことが目標になってるとき、人は狂気に捕らわれているんだ。
お前は人を殺したくないと言った、それが普通だ。
だが、銃を向けられたら戦わなくてはならない。
死にたくない、生きたい!強く唱えろ!その気持ちが原動力だ。」
ギラギラした目の輝きのサトミに、ダンクが気圧される。
生きるという事の、生死をやりとりして生き残ってきた男の、年齢は関係ない。
強い意志の固まりに見える。
ダンクは自然とサトミに対して手を出した。
サトミが、グッと力強く握手する。
顔を上げ、見つめると力が流れ込んでくるような、不思議な感覚にとらわれながら、ダンクは岩山を見て決意した。