第７話 呆けそうな日々にポストアタッカー？
文字数 2,642文字
澄み切った青空に、黒いカラスが飛んでいる。
カアカア声がして、次第に集まってどこかに飛んでいった。
ああ……、平和だなぁ……
「平和って、んー、暇だな〜……ボケそう……毎日毎日ボーッとして過ごすのも飽きたなー
普通の生活って、何すりゃいいんだ？」
町のはずれの大きな川の河川敷で、ベンにブラシをかけてため息付いて座り込む。
見上げれば、近くのクレーターにかけられた大きな橋が見える。
橋の向こうは治安が悪いらしい。
治安が悪い……ワクワクすんなよ、俺。くっそ
今のサトミは、その治安の悪さにも魅力を感じてしまう。
ピリピリとした緊張感と、理由のない殺意と命のやりとり。
戦争が終わっても、それが染みついてしまっている。
軍にいれば戦後処理で、ゲリラの掃討と色んな始末を付けさせられる。
そう言う部隊にいたのは不運だ。
それから離脱したくて除隊してきたのに、まだ、外出の時の彼の背中には刀が必ずある。
「こいつを手放すことが出来ない俺も、相当腐ってるよなあ。
つか、俺って銃持ってねえし、装備は軍に返しちゃったし。
銃買うか、買わないか……うーん……いらねえなあ」
パンパンパンパン
どこからか、軽い銃声が聞こえた。
あの音は口径が小さい、一般なら護身用の銃か。
「橋の方か。向こうから来た強盗かな？
まあ、俺には関係無いし。」
と表面上は思いながらも身体がそちらへと向く。
「行く？」
土手の草を食べていたベンがムシャムシャしながら近づいて、横に並び土手の上を見上げた。
「いかねえよ、俺はポリスじゃねえ。」
「そうか」
馬はあっさり引き下がる。
「ちぇっ、もう少し押して来いよ。
帰るぜ、ベン。」
肩すかしを食らいながら、ベンに乗り土手を上がる。
午後で町は人が幾分多く、商店の並ぶ道に出るとサトミは降りてベンを引き歩き出した。
「ニンジン」
「家に帰ってから。
ああ、なんか美味そうな匂いだな。昼飯パンにしよっと。
そう言えばココア、もう入荷したかな？」
いいパンの香りが漂って、ごそごそポケットを探る。
まあ、ココア１ダース買って、あめ玉とパンくらいは買えるが残金が少ない。
「そろそろ金をおろしに郵便局行くかな。」
銀行は、大きな町にしかない。
戦後治安が非常に悪くなり、強盗に襲われる事件が頻発したために地方の銀行はほとんど閉めてしまった。
特にロンドは前線が近かったために、治安が最悪に悪い。
隣町に行くのも命がけだ。
現金だと頼りになるのは武装された郵便局だけ。
何とも不便に感じそうだが、これが普通なので不便は感じない。
歩いていると背後から銃声と、そして次第に激しく駆ける馬のひずめの音が近づいてきた。
振り向くまでもない、音から察するに2頭が追いかけっこしているのだろう。
町中で巻き込まれてはたまらないと、人々はサッと道を空けて行く。
ドカッドカッドカッ！
日陰の椅子に腰掛ける老人が二人、のんびりつぶやく声が聞こえた。
「ポストアタッカーのお姉ちゃん、まだ追いかけてるのかいな。
さっきも通らなかったかい？馬がもう泡吹いて無いかねえ。」
「あの子、追いかけてるの見るの2度目だよ。よく盗られるねえ。」
その会話から、この辺を通るのは2度目なのだろう。
町中を逃げ回り迷惑な話だ。
サトミは避けもせず、老人をチラリと見てベンを引きながら歩いている。
特に逃げる気もない。
ドカッドカッドカッ！
「待てーーーーっ！！郵便返せーーーーー！」
その、ポストアタッカーという、女の声と無言で走る盗人の馬のひずめの音が、次第に近くなってサトミは目を閉じた。
ドカッ ドカッ！………ドカッドカッドカッ！
サトミの横を馬がすり抜ける刹那、サトミの背の刀が風切る音を残し一瞬閃く。
ヒュンッ！
「うおっ？あ、わああああああ！！」
逃げる馬の片方の手綱を切られ、身体のバランスが崩れる。
馬が驚き、足を止めて思わず前足を跳ね上げると、男が後ろにひっくり返って落馬した。
「この！郵便返せ！」
追ってきたメガネの女が馬を飛び降り、立ち上がろうとする男を蹴飛ばして銃を突きつける。
「くそ！いったいなんだってんだ！この野郎！」
「なにが野郎よ、あんたそこでポリスを待つのね！」
毒づく男に背後から瞬時で硬化するスライム弾を浴びせ、男はとうとうその場で身動きとれない状態になった。
「何だよ！何これ固まって動けねえよおっ！！俺のケツがあっ！」
「ああん、よかったああ〜〜！あ、荷物荷物！」
女はホッと息をつき、ヘナヘナとその場に崩れそうになる。
そして慌てて男の馬にある鞄を探ると、無事の荷物に胸をなで下ろした。
ちょうど向かいの道から、この国の郵便マーク、馬の横顔に電撃の入ったマークを付けた馬が走ってくる。
「キャミー！無事か？！」
サトミとすれ違いざまデカい声で叫ぶ馬上の痩せた金髪の白人男は、彼女と同じ腕章をしている。
助けに来たのか、駆け寄ると彼女に手を貸していた。
「ポスト……アタッカーって言ってたな……
郵便マークに雷っぽいマーク？何かカッコいいな〜」
サトミがチラリと振り返る。
眼鏡の女は20代前半のキュートなそばかすに、見事な赤毛をポニーテイルにしている。
軍人並に武装して、馬の横顔の郵便マークのついた大きな袋をたすきにかけていた。
二人とも、左腕の腕章には郵便マークに雷が落ちるような変わった意匠のマークにポストエクスプレスと書いてある。
軍には従軍郵便支局しかなかったから、一般のシステムは目新しい。
サトミはふうんと漏らしながら、ベンに乗り込みその場を去った。
「あれ？あれ？！ねえねえ！さっきのカタナ男は？」
ハッと見回し、キャミーと言う眼鏡の女が白人の男に話しかけた。
「カタナ？男？なにそれ。」
「ほら見てリッター、一瞬でこいつの馬具切ったのよ。見てよ、馬をかすりもしてない。
これ、凄いわ、偶然とかじゃない感じ。ミリ単位の精度、タツジンって言うのじゃない？」
「あー、俺、二日酔いでキャミーの言ってること半分もわかんねえよ。タツジィって何だぁ？」
酒臭い息吐いて、リッターという痩せた若い男がひょいと肩を上げる。
「もう！リッター、ぜんっぜん当てにならない！飲み過ぎ禁止！
ちょっと！そこのおじいちゃん！さっきの馬連れた若い男の人知らない？」
キャミーが近くのじいさんに駆け寄って聞く。
じいさんは、聞こえないのか耳に手を当て「はあ？」っと逆に聞いてきた。
「あーーー！！誰か教えてよーーー！！あの子のこと！！」
「ひゃはは！なんだよキャミー、惚れたんだ？一目惚れェ〜」
のんびりリッターが笑い飛ばす。
キャミーは頭にきて、彼のケツを回し蹴りした。
カアカア声がして、次第に集まってどこかに飛んでいった。
ああ……、平和だなぁ……
「平和って、んー、暇だな〜……ボケそう……毎日毎日ボーッとして過ごすのも飽きたなー
普通の生活って、何すりゃいいんだ？」
町のはずれの大きな川の河川敷で、ベンにブラシをかけてため息付いて座り込む。
見上げれば、近くのクレーターにかけられた大きな橋が見える。
橋の向こうは治安が悪いらしい。
治安が悪い……ワクワクすんなよ、俺。くっそ
今のサトミは、その治安の悪さにも魅力を感じてしまう。
ピリピリとした緊張感と、理由のない殺意と命のやりとり。
戦争が終わっても、それが染みついてしまっている。
軍にいれば戦後処理で、ゲリラの掃討と色んな始末を付けさせられる。
そう言う部隊にいたのは不運だ。
それから離脱したくて除隊してきたのに、まだ、外出の時の彼の背中には刀が必ずある。
「こいつを手放すことが出来ない俺も、相当腐ってるよなあ。
つか、俺って銃持ってねえし、装備は軍に返しちゃったし。
銃買うか、買わないか……うーん……いらねえなあ」
パンパンパンパン
どこからか、軽い銃声が聞こえた。
あの音は口径が小さい、一般なら護身用の銃か。
「橋の方か。向こうから来た強盗かな？
まあ、俺には関係無いし。」
と表面上は思いながらも身体がそちらへと向く。
「行く？」
土手の草を食べていたベンがムシャムシャしながら近づいて、横に並び土手の上を見上げた。
「いかねえよ、俺はポリスじゃねえ。」
「そうか」
馬はあっさり引き下がる。
「ちぇっ、もう少し押して来いよ。
帰るぜ、ベン。」
肩すかしを食らいながら、ベンに乗り土手を上がる。
午後で町は人が幾分多く、商店の並ぶ道に出るとサトミは降りてベンを引き歩き出した。
「ニンジン」
「家に帰ってから。
ああ、なんか美味そうな匂いだな。昼飯パンにしよっと。
そう言えばココア、もう入荷したかな？」
いいパンの香りが漂って、ごそごそポケットを探る。
まあ、ココア１ダース買って、あめ玉とパンくらいは買えるが残金が少ない。
「そろそろ金をおろしに郵便局行くかな。」
銀行は、大きな町にしかない。
戦後治安が非常に悪くなり、強盗に襲われる事件が頻発したために地方の銀行はほとんど閉めてしまった。
特にロンドは前線が近かったために、治安が最悪に悪い。
隣町に行くのも命がけだ。
現金だと頼りになるのは武装された郵便局だけ。
何とも不便に感じそうだが、これが普通なので不便は感じない。
歩いていると背後から銃声と、そして次第に激しく駆ける馬のひずめの音が近づいてきた。
振り向くまでもない、音から察するに2頭が追いかけっこしているのだろう。
町中で巻き込まれてはたまらないと、人々はサッと道を空けて行く。
ドカッドカッドカッ！
日陰の椅子に腰掛ける老人が二人、のんびりつぶやく声が聞こえた。
「ポストアタッカーのお姉ちゃん、まだ追いかけてるのかいな。
さっきも通らなかったかい？馬がもう泡吹いて無いかねえ。」
「あの子、追いかけてるの見るの2度目だよ。よく盗られるねえ。」
その会話から、この辺を通るのは2度目なのだろう。
町中を逃げ回り迷惑な話だ。
サトミは避けもせず、老人をチラリと見てベンを引きながら歩いている。
特に逃げる気もない。
ドカッドカッドカッ！
「待てーーーーっ！！郵便返せーーーーー！」
その、ポストアタッカーという、女の声と無言で走る盗人の馬のひずめの音が、次第に近くなってサトミは目を閉じた。
ドカッ ドカッ！………ドカッドカッドカッ！
サトミの横を馬がすり抜ける刹那、サトミの背の刀が風切る音を残し一瞬閃く。
ヒュンッ！
「うおっ？あ、わああああああ！！」
逃げる馬の片方の手綱を切られ、身体のバランスが崩れる。
馬が驚き、足を止めて思わず前足を跳ね上げると、男が後ろにひっくり返って落馬した。
「この！郵便返せ！」
追ってきたメガネの女が馬を飛び降り、立ち上がろうとする男を蹴飛ばして銃を突きつける。
「くそ！いったいなんだってんだ！この野郎！」
「なにが野郎よ、あんたそこでポリスを待つのね！」
毒づく男に背後から瞬時で硬化するスライム弾を浴びせ、男はとうとうその場で身動きとれない状態になった。
「何だよ！何これ固まって動けねえよおっ！！俺のケツがあっ！」
「ああん、よかったああ〜〜！あ、荷物荷物！」
女はホッと息をつき、ヘナヘナとその場に崩れそうになる。
そして慌てて男の馬にある鞄を探ると、無事の荷物に胸をなで下ろした。
ちょうど向かいの道から、この国の郵便マーク、馬の横顔に電撃の入ったマークを付けた馬が走ってくる。
「キャミー！無事か？！」
サトミとすれ違いざまデカい声で叫ぶ馬上の痩せた金髪の白人男は、彼女と同じ腕章をしている。
助けに来たのか、駆け寄ると彼女に手を貸していた。
「ポスト……アタッカーって言ってたな……
郵便マークに雷っぽいマーク？何かカッコいいな〜」
サトミがチラリと振り返る。
眼鏡の女は20代前半のキュートなそばかすに、見事な赤毛をポニーテイルにしている。
軍人並に武装して、馬の横顔の郵便マークのついた大きな袋をたすきにかけていた。
二人とも、左腕の腕章には郵便マークに雷が落ちるような変わった意匠のマークにポストエクスプレスと書いてある。
軍には従軍郵便支局しかなかったから、一般のシステムは目新しい。
サトミはふうんと漏らしながら、ベンに乗り込みその場を去った。
「あれ？あれ？！ねえねえ！さっきのカタナ男は？」
ハッと見回し、キャミーと言う眼鏡の女が白人の男に話しかけた。
「カタナ？男？なにそれ。」
「ほら見てリッター、一瞬でこいつの馬具切ったのよ。見てよ、馬をかすりもしてない。
これ、凄いわ、偶然とかじゃない感じ。ミリ単位の精度、タツジンって言うのじゃない？」
「あー、俺、二日酔いでキャミーの言ってること半分もわかんねえよ。タツジィって何だぁ？」
酒臭い息吐いて、リッターという痩せた若い男がひょいと肩を上げる。
「もう！リッター、ぜんっぜん当てにならない！飲み過ぎ禁止！
ちょっと！そこのおじいちゃん！さっきの馬連れた若い男の人知らない？」
キャミーが近くのじいさんに駆け寄って聞く。
じいさんは、聞こえないのか耳に手を当て「はあ？」っと逆に聞いてきた。
「あーーー！！誰か教えてよーーー！！あの子のこと！！」
「ひゃはは！なんだよキャミー、惚れたんだ？一目惚れェ〜」
のんびりリッターが笑い飛ばす。
キャミーは頭にきて、彼のケツを回し蹴りした。
